襲撃についての会議
「早速で悪いと思いますが、先輩の学生証をお見せいただいてもよろしいですか?」
風紀室に戻るとオリア先輩が書類を片手に待機していた。
人数分のお茶やお茶菓子も用意されているところを見ると、風紀委員長が先に連絡を入れていたのだろう。
全員が椅子に座ったところでオリア先輩がペンを取り出す。
襲われていた先輩は右手の中指の指輪を外し、オリア先輩に差しだした。
「4年Iクラスのリアラです。危ないところを助けていただき、ありがとうございました。」
まだ多少の震えが残っているものの、先輩は風紀委員長や私に向かってお礼を言う。
それに対して風紀委員長が笑った。
「いや、助かって良かったですね。リュウカが精霊魔法を使えたからその場で怪我を治すこともできましたし。」
「ええ、リュウカさん本当にありがとう。怪我が残ったら一大事だったわ。」
頭を軽く下げてくる先輩に慌てる。
「そ、そんなに大したことはしてません。学園内にいる治癒師の先生に診ていただけば怪我なんて治りますから。」
顔の前で手を振る私が面白かったようで先輩が笑った。
上品な感じのする先輩だな。
先輩の顔をぽーっと眺めたつもりだったが、余程変な顔になっていたのか、ルージェンスが肩を叩いてくる。
「同性だぞ。何をときめいてるんだ。」
「べ、別にいいだろう? 今の笑顔が綺麗だったんだ。」
言い訳をするつもりが墓穴を掘った気がした。
先輩は驚いた表情を浮かべた後、笑い出す。
その笑い方も口元に手を置く上品な笑い方だ。
なんだかなあ。
頭をかきむしりたい気分になったが、今それをするとさらに笑われそうなので耐える。
全員の気が緩んだところでオリア先輩が襲われた場所、その時何をしていたかなど様々な事を聞いていく。
1限が終わる頃には全て聞き終わり、オリア先輩に付き添われて先輩は授業へ戻っていった。
「また、発生原因不明か。今回も結界のゆるみがなかった。」
「そうですね。1人でいるところを襲われたという事も共通しています。」
難しい顔のままルージェンスが頷く。
紅茶を飲みながら風紀委員長がため息をついた。
「意図的に魔獣を召喚している可能性が高まったな。まだ、どこかの研究室から逃げた可能性や誰かが持ち込んだという線が消えたわけではないが……。」
「研究室から逃げたのであれば警報が鳴らないのではないですか?」
私ではよく分からないが、生徒会長ともなると様々な学校の仕組みを知っているのだろう。
しかし風紀委員長がルージェンスの問いかけに対して首を横に振った。
「いや、警報が鳴らないように設定されているのは部屋に対してだ。だから部屋を出れば警報が鳴る。逃げ出したとあっては一大事だからな。だが、そうなると警報の鳴り方が妙だ。リュウカの時も今回の件も突発的に警報が鳴っている。だから原因が逃げ出したからという可能性は低いだろう。」
学園の仕組みを知り、驚くと同時に納得した。
安全面を考えると部屋に警報無効の効果を付ける方が良い。
だが、疑問が残る。
「それなら持ち込む事も不可能なのではないですか? 結界のところから警報が鳴るのではないですか? ましてや結界があるのですから、はじかれるはず。」
「普通に考えたらそうね。でも、結界を解かずに警報も鳴らす事なく魔獣を学園内に入れることができる人たちがいるわ。」
私の問いかけに答えながらオリア先輩がこちらに向って来きた。
先輩は淡々と告げるが、内容が衝撃的だ。
「そんな人がいるのですか!?」
思わず声を上げたが、よく考えれば居るだろう。
そうでなければ研究室まで魔獣を運ぶ際、風紀委員はずっと警報を聞いていなければならない。
生徒会や先生も全員ピアスをつけているいる事から、風紀委員だけでなく多くの人が警報を聞くことになるだろう。
流石にそんな事はないはずだ。
「ヴォルグは考えたくないのだろうけど、理事長や副理事長、各魔法の主任の先生方、生徒会の経験者、そしてリュウカ以外の風紀委員が可能ね。魔獣を研究室に運び込む際に立ち会う必要がある人たちはみんな警報を鳴らさない魔法が使えるわ。この魔法は理事長が結界にその人たちの魔力を認識させる事で使えるようになるの。だからリュウカや今期の生徒会にはまだ無理ね。」
「随分と人数が多いですね……。」
全員を調べるのは大変だろう。
しかし2回とも結界に緩みがなく魔獣が現れている事を考えると人為的な可能性が高いと思う。
結界が完璧ならば外から魔獣が入り込む可能性がないのだから。
「とりあえず可能性がある人たちを全員調べるわ。犯行が可能な人たちをね。今回は風紀委員も犯人の可能性があるから今風紀室には誰も近寄らせてないわ。もちろん私やヴォルグの可能性あるけど、そこは私たちを信じてほしいわ。私たちはやってない。証明する事は出来ないけれど……。」
「今回の襲撃の際、オリア先輩や風紀委員長は私たちと一緒にいました。ですから魔獣をそこまで連れていくという行為は不可能だと思います。」
途中から黙って何かを考えていたルージェンスも頷いた。
「立ち会う必要がある人が使えるという事は本人が魔獣を連れていかなければならないのでしょう。なので私も先輩方の事を信用します。全生徒の情報を持っているのは風紀委員しかありませんし、疑ってしまっては犯人捜しをする事すら難しくなります。」
「ありがとう。疑わしい生徒のリストが出来たら見せるわ。個人の情報になるから風紀委員長と副委員長しか見られないの。だから生徒の名簿とクラスを書き出すわ。」
「そうしていただけると助かります。今期の生徒会も犯人ではない可能性が高いとはいえ、事件に関与している可能性があるのでこの話はここだけにしたいと思います。もし、何かわかりましたら私のピアスの方へ連絡ください。」
オリア先輩が頷いたのを見てから私とルージェンスは退室する。
これ以上風紀室に私たちがいてもできることがないだろう。
既に2限目も半分ほど終わってしまい、出るかどうか悩む。
今日の授業は2限までで3,4限をとっていない。
休もうとも思ったが昨日も授業を休んでしまっているため、出ることに決めた。
教室に向かおうとすると、ルージェンスに手首を掴まれた。
「今回の魔獣の件、リュウカは関わるのをやめろ。」
「なぜ?」
突然の発言に驚きが隠せない。
まだ関わったと言えるのかも分からない状態だが、事件解決のために何かできるのなら風紀委員として責任を持ちたい。
なったばかりで分からないことが多いとはいえ、サインした時点で風紀委員だ。
振り返ると予想以上に強い視線と交わった。
「今回の件は危険すぎる。ましてリュウカは被害者のうちの1人だ。なにかあってからでは遅い。もう関わらない方が良いだろう。」
「どうしてそんな事を言うんだ? 危険があるのは風紀委員になった時点で覚悟している。この事件に関しては関わる事の出来る人も少ないのだから私が抜けるという事は出来ない。」
もし私が抜けたら犯人を捜すのが風紀委員長と副委員長、そしてルージェンスの3人になってしまうだろう。
共犯なども心配して調べるのであれば、なおの事人数を増やす事なく調べるしかない。
それを理解しているはずなのに関わるなというルージェンスが分からない。
ルージェンスは少しも悩むそぶりを見せず、首を横に振った。
「まだ人為的なものだと決まったわけではないが、人為的ならば犯人はかなり危険な人物だ。魔獣の召喚を行ったにしろ魔獣を連れ込んだにしろ普通の生徒ならばできないだろう。それほどの事件だ。結界内に魔獣を入れることの危険性が理解できないような生徒はいないはずだ。そのことを理解したうえで破るなど正気の沙汰ではない。」
「ルージェンスは危険だから関わるなというのか? ここまで知っておきながら安全圏にいろと?」
ルージェンスの考えが理解できなくて絞り出すようにして声を出す。
危険だからと守られなければならないほどやわではないつもりだ。
学園に入る前は3年ほど師について旅をしていたほどだ。
そこら辺の魔獣には負けない自信もある。
しかしルージェンスが頷いた。
「そうだ。」
「私にはルージェンスが何を思ってそう言うのかが分からない。危険なのは承知している。だから無茶をするつもりもない。」
「無理だ。リュウカは絶対に無理をする。だからこれ以上関わるな。」
しっかりとした意思を持って見抜いてくるルージェンスの視線に唇を噛む。
「なぜ、そう決めつける? なぜ私は駄目なんだ? ルージェンスは昔からそうだ。何かしようとすると全て危険だからやめろと言う。」
「事実危険だっただろう? 俺は間違った事は言っていない。危険だからやめろと言ったのに師と旅に出て大怪我をおったのは誰だ? 木から落ちそうな子供を助けるために精霊魔法を使って暴走させたのは?」
次々と失敗を上げられて俯く。
確かにその通りだ。
ルージェンスの言った事は実際にあった事だ。
悔しくて雫が頬を滴った。
これ以上ルージェンスの前で弱いところを見せたくなくて走り出す。
泣くなどもってのほかだ。
涙で懐柔したいわけでもないのに……。
泣いてしまった自分が情けないのに涙はなかなか止まってくれなかった。