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犯人は……

ルナと共にオリア先輩の元へ向かう。

魔族と話していた時間は長かったような短かったような感じであり実際にどれくらいの時間が経過していたか分からない。

かがんでオリア先輩が切られたであろう場所を見るが、何もない。

胸元からおなかにかけて服が裂けているというのに怪我が見当たらない。

そんな馬鹿な。

切れてもいないのに胸元やおなかに触る事は抵抗があり、どうしようか悩んでいると魔族の声が聞こえてきた。


「その子の怪我は治しておいたわぁ。」


慌てて周りを確認するが魔族はいない。

驚かせるために伝言の魔法をしかけたのだろうか。

あの魔族ならやりそうな気がする。

怪我や新たに変な魔法がかけられていないか調べた後、オリア先輩をゆすって起こす。


「んー? あの女子生徒は……?」


まだ頭が寝ているようで目を擦りながら舌足らずに聞いてくるオリア先輩に起きた事を簡単に説明する。

魔族が地上に来るなど信じてもらえないかと思ったが、オリア先輩は疑う事もなく頷いた。


「そうだったの大変な時に気絶してしまってごめんなさいね。」


立ちあがろうとするオリア先輩を反射的に抑える。


「な、何をするの!?」


オリア先輩は驚いたようだが、胸元を指すと黙った。


「これ、どうしよう……。でも今犯人がヴォルグのところにいるのでしょう?」


「魔族が言うにはそのようですね。先輩は一度服を着替えに行った方が良いと思います。その恰好で風紀委員長の前に行くのは別の意味で危険ではないかと。」


「でも、ヴォルグの身が危ないかもしれないのよね。魔族まで召喚するような犯人だもの。魔獣もいるみたいだし……。」


心配そうに告げるオリア先輩を安心させるために微笑む。


「風紀委員長はかなり強いですし大丈夫だと思います。今はもう警報がやんでいますから、もう既に魔獣を倒している可能性が高いです。」


「そういえばそうね。もう警報が鳴ってないわ。」


「ですからルージェンスも呼んで風紀委員長のいると思われる庭に行ってみます。犯人が風紀委員長のところにいると教えてくれたのは魔族ですから、もしかしたら嘘かもしれません。」


「その可能性もあるわね。だらだらと引き止めてしまってごめんなさい。生徒会長には私の方から応援願いをしておくわ。だからリュウカはヴォルグをお願い。」


胸元を押さえて立ち上がったオリア先輩に頷く。

上着を何か着ていれば渡す事も出来たが、ローブしか着ていない自分が悔しい。

その場でルージェンスに呼びかけるオリア先輩を残し、風紀委員長の居ると思われる庭に向かう。

庭にはなぜか風紀委員長が転入生と向かい合う形で立っていた。


「風紀委員長?」


呼びかけると風紀委員長がこちらを向く。

その様子は幽鬼のようだ。


「どうしました? 大丈夫ですか?」


驚いて駆け寄ろうとするとルナが唸り声を上げた。

敵を前にした時のようなルナの唸りにハッと我に返る。


「もしかして、精神汚染系の魔法……?」


犯人は闇魔法を使えるはずだ。

闇魔法には人の精神を操るようなものまで存在する。

これもまた世界中で違法とされている類の魔法だ。

まさか、こんなものまで使ってくるなんて。


「犯人貴方だったんだな。」


転入生に向かって確認も込めて問いかける。

転入生はただ頷いた。


「その通りよ。」


法を犯し、罪を重ねる転入生のあり方に唇を噛む。

転入生はそんな私を見て笑った。


「無様ね。私の欲しかった人に手を出そうとするからいけないのよ。」


「貴方の欲しかった人?」


「そうよ! かっこいい人にばっかりすり寄って本当に目障り。かっこいい人にちやほやされるのは私のはずなのに!!」


転入生の言っている事が理解できない。

その目を見るも映るのはただの狂気のみ。

これ以上暴走しないように慎重に口を開く。


「なぜ、貴方がかっこいい人にちやほやされるんだ?」


問いかけた内容が悪かったのだろう。

転入生が怒りに染まった。


「だって!! だってお母様がそう言っていたのだもの! いつかお父様が迎えに来てくれて、その場所には私の好きなかっこいい人たちがいるって、みんな私の事を好きでいてくれるってそう言っていたのだもの!!」


耳に言葉が入ってきているはずなのに内容がよく分からない。

フェーリエ魔法学園の2年に編入してきたという事は16歳か17歳のはずだ。

それなのに言っている事は小さい子供に読む絵本にでも出てきそうな内容だ。

クラスがAクラスという事は頭も悪くないはずなのに、なぜ幼子に向かって言い聞かせるような話を信じているのだろうか。

悩んでいるのを言い返せずに押し黙ったと判断したようで転入生が勝ち誇ったように笑った。


「やっと、やっと分かったようね。自分がいかに愚かなことをしていたのか。ルージェンスもヴォルグもガリアスも私のものなのよ。それなのにあんたはガリアスに振られたと思ったら今度はルージェンスやヴォルグに近づいて! 節操がなさすぎると思わない?」


節操がないのは貴方だと思ったがさらに怒らせそうなので黙る。

第一ガリアスに振られたからルージェンスや風紀委員長に近づいたと見られるのは心外だ。

風紀委員長とはただの風紀委員における上司と部下の関係に過ぎない。

魔獣に襲われなければ私が風紀委員に入る事すらなかっただろう。

ルージェンスも魔獣に襲われてから復縁した幼馴染だし……。

結局のところ自分で私をその2人に近づけておきながら嫉妬してるのか、この転入生は。

何とも言えない気持ちになり、転入生を見る。

しかし転入生は楽しそうに笑う。


「まあ、でもそれも終わりよ。あんたはヴォルグに倒されるんだから! 最後になって反省したみたいだし、冥途土産に聞きたいことがあったら教えてあげるわ。」


反省をした覚えはまったくもってない。

黙っていた事を勘違いしたのだろう。

結構思い込みが激しい性格のようだ。

だがちょうどいい。


「それなら、なぜ魔獣を使って人を襲ったんだ? ルージェ……いや、生徒会長や風紀委員長のファンクラブやいわゆるかっこいいと言われる男性に近い女子生徒が襲われるのは分かる。しかし、なぜ婚約を解消された女子生徒まで襲った?」


生徒会や風紀委員、ファンクラブの生徒などが襲われた理由は恐らく邪魔だからだろう。

2-Sのクラス担任もかっこいい先生だから学級委員も襲われた。

しかし婚約を解消された人まで襲われた理由が分からない。

邪魔になる可能性があるからだろうか。

仕返しを恐れたという可能性もある。

そう考えて転入生を見ると転入生は馬鹿にしたような目で見てきた。


「そんな事も分からないの? 気に食わないからよ。ルージェンスやヴォルグよりはかっこよくないけど、ガリアスたちもなかなかでしょ? そんな男に私以外がちやほやされるなんて許せない! 消したくなって当然じゃない。」


「ただ、それだけの理由で女子生徒を襲ったんだな? 子供じみた独占欲を満足させるために。」


思ったよりも幼稚な答えに怒りが込み上げてくる。

法を犯し、怪我人を何人も出した事件の原因がこんなものだとは。

低く唸るような声に転入生が後ずさった。


「な、何よ! 私は愛されるべき存在なの! あんたとは違うのよ!」


わめきながら風紀委員長に私を攻撃するように命令を出す。

風紀委員長はかなり強い。

今回の事件以前にも実戦経験があるのだろう。

かまえる様子には隙がない。


「貴方は愛してくれると言った対象にこんな命令をしても平気なんだな。」


ピリピリとした空気の中転入生を睨み付ける。

転入生は燃えるような視線で応戦してきた。


「だってヴォルグは私の事を好きって言ってくれないんだもの! それなら正しい姿になるように私がコントロールして当然よ。」


当たり前と告げられた内容に吐き気がする。

ただの人形遊びがしたいだけではないか。

意思のない人間などいない。

それを無視して自分の思い通りに他人を動かそうとするのなど人間の行いではない。

怒りに我を忘れそうだ。

ギリギリのところでそれを押さえていると、転入生が亜空間から12頭のシルバーウルフと1頭のダークウルフを取り出す。

そして全ての魔獣に私の討伐を命じた。

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