爪責め ~笑顔の罠~
爪責め…最も手軽で命の危険のない拷問。
あと、4本…
私はあと4本もの針をこの指に通さなければならない。
しかも、意識を失うことは許されていない。
だが、私は決めたのだ。
最後まで人間として死のうと。
このお姉さんに捕まった時点で殺されることは確定していたのだ。
だから、仕方ない。
このお姉さんは肉体としての私を殺すだろう。
だけど、私の人間としての尊厳は殺させない。
私は最後まで人間として生き、人間として死ぬのだ。
お姉さんはその目標にちょうど良いルールを設定してくれた。
私が頑張れば、シオリちゃんを助けることができる。
それでいいじゃないか。
こんなつまらない人生に一時の明かりを灯してくれたシオリちゃん。
彼女を守れればそれでいい。
「お祈りは終わった?」
お姉さんが見せびらかすようにカラフルなまち針を弄ぶ。
あんな、あんな日常的な道具で私は地獄を見せられているんだ…
なんだかそう思うと虚しくなってしまうが、それが現実だ。
シャーペンだって目に刺されば大けがだし、小さな画鋲一つで人の動きを制限することだってできる。
道具なんて使い方次第で何にでもなるのだ。
人間の生活を便利に快適にもすれば、人に地獄の苦しみを与えることもできる。
お姉さんは人を苦しめる道具の使い方をしているだけなんだ…
「じゃあ、いくわよ、気絶しちゃだめだからね?」
「…わかりました。どうぞ」
私はそう言って自分の手を見る。
もう両手合わせて6本も針の刺さっている信じられない光景。
まだ4本もあるんだ…
目をそらしたくなるが目をつぶっていたら痛みに対する耐性が弱くなってしまう。
少なくとも刺さる瞬間だけは見なくてはならない。
お姉さんの手が、私の左手の人差し指に近づく。
そして、そして…その手に持っている黄色いマークのついたまち針を、まち針を…
刺す
瞬間、私は悲鳴をあげる。
何度繰り返されても慣れない痛み。
イタイイタイイタイイタイイタイイタイ…
だけどお姉さんは容赦しない。
針を、ねじ込む。
私の指に、針を、突き刺す。
「いぎ、うああああああああああああああああああ!」
お姉さんの手が止まる。
お姉さんはにこにこしている。
私は悲鳴を上げ続ける。
どれくらいの時がたっただろう。
多分2分くらいだ…
さすがに叫び疲れた。
お姉さんはにこにこしながら涙を拭くこともできずにいる私を見下ろしている。
私はおそるおそる自分の左手を見る。
当然ながら左手には針が一本増えている。
まだ、3本もあるの?こんな痛みが…
「え?」
そこで私は左手の違和感に気づく。
他の指は指と爪の間の白い三日月の部分まで針が刺さっているのに、人差し指はその半分も刺さっていない。
顔を上げるとお姉さんの笑顔がある。
「嘘、いや、もしかして、やだ、いやだ、こんな…」
お姉さんは笑顔のまま何のためらいもなく私の人差し指に針をさらに奥まで押し込んだ。
「いや、いやああああああああああああああああああああああああああ!」
とんでもない激痛。
一回油断してしまったから痛みがさっきの倍にも感じられる。
ふっと気が遠くなる。
「あああああああああああああああああああああああああ!」
その瞬間針がさらに奥まで押し込まれその激痛で意識が戻る。
危ないところだった。
あと少しで気絶してしまうところだった。
だけど、まだ3本もあるのか…
お姉さんはずっとにこにこしている。
「あら、残念、もう少しで気絶しそうだったのにな~」
悪寒が走る。
きっと、お姉さんは私が気絶しそうになっているのを見越して針を強く押し込んだんだ。
これからも続く拷問に、私が目標を持たずに参加することを許さないと言うことなのだろう。
あと、3本…
私は、耐えられるのだろうか…