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拷問の森  作者: 凜音
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爪責め ~真性のサディスト~

最も手軽で命の危険もない拷問…「爪責め」


拷問はすぐに始まった。


このお姉さんは私をすごく冷静で落ち着きがあると評価していて、実際その評価も過大ではないと私は自負している。


ただし、それは平常時の場合だ。こんな異常事態で平然としていられるような人間ではない。ただの女子高生なのだ。



私はあまりの痛みに絶叫する。

少しでも別のことで気を紛らわさないと痛みに耐えられない。

いや、すでに耐えられてはいないが…



今、私は拷問の中で最もポピュラーな方法の内の一つ(?)らしい「爪責め」というのを受けている。

この拷問は単純だ。椅子に縛られて身動きできない私の爪に針を通していくだけ。

その針だって特別なものではなく裁縫セットに入っているカラフルな目印のついたまち針だ。


しかし、単純かつ最も効率的にダメージを与えるらしいこの拷問はあっという間に私を非日常の世界に連れてきてしまった。


「大丈夫よ。絶対死なないから。痛いだけだもん」


お姉さんはそう言いながら次のまち針に手を伸ばす。


「ちょ、ちょっと待って!」


すでに私の両手薬指と小指には針が通っている。それだけでもこれだけの激痛なのだ。比較的触覚が弱い指でこれだけの痛みならより鋭敏に痛みを感じる中指以降の指に針を通されたら…

考えただけでも気が遠くなる。


「…わかるわよ、あなたの考えていることなんて。いいのよ別に、この子がどうなってもいいのなら」


そう言ってお姉さんはある写真を私に見せる。


「で、でも、ほんとに、無理なんです、もう気が遠くなって、意識なんてすぐ…」


そう、私はお姉さんとある「約束」をした。させられた。

お姉さんの持っている写真に写っているのは私の家の近所に住んでいる小学生3年生の女の子。

友達のいない私にとって唯一心を開ける相手だったし、その子…「シオリちゃん」も私だけに心を開いてくれた。

私の唯一の友達であり、親友であり、妹のような存在。それがシオリちゃんだ。


お姉さんは、私がただ苦しむのではなくきちんと目標を持って苦しんでほしいと言った。


「毎回拷問のたびに目標を設定するわ。それが達成できなかったら次に拷問して殺すのはこの子よ」




そして今回の「爪責め」の目標が「気絶しないこと」なのだ。

最初だからすごく軽めだと言われているがとんでもない。



「はい、次は中指ね」


「や、やめてください、少し、すこしだけまっでえええぇぇぇぇぇぇぇl」


左の中指に針が通される。

体を動かしたいが椅子にがっちりと固定されていてそれすらも叶わない。


もうだめだ、痛みのことしか考えられない。


とにかく、気絶だけはしないように、意識だけは保っていかないと…





「すごい悲鳴ね。これしか痛みを変換する逃げ道がないんだから当然ともいえるけど」




なりふりなんて構ってられない。

とにかく叫び続けて意識を覚醒させないと意識なんて簡単に途切れてしまうだろう。




「じゃあ、次は右手ね」



「うぅぅ、ああああああああぁぁぁぁああああああ!」


右手中指に針が通される。



あと、4本。


あと、4本。


あと、4本。


あと、4本。


あと、4本。

あと、4本。

あと、4本。

あと4本。

あと4本。

あと4本……



「少し休憩にするわね」


は?


「あなたも辛そうだから、少し時間をおいてあげるわ。さっきもお願いだからあと少し待ってって言われちゃったしね」


「いいです。やってください!もう早く終わらせてください!」


「いいのよ、こんなところで好感度あげなくたって。どうせ殺すんだから」


「お願いですから、早く…」


「遠慮しないでったら、ね?」


お姉さんはそう言って私にアイマスクを着ける。


「そうやって少し落ち着きなさい」



そのとき私の脳裏に電流が走る。

お姉さんは全て分かっているのだ、この拷問を受けた人間ははじめ休憩を要求すること、拷問が進んだらアドレナリンやエンドルフィンの影響で痛みに対する耐性ができて、早く終わりたいと思うようになること、全て。


それをさも善意であるかのように、はじめの私の発言を利用して間に「休憩」を挟んでしまう。


人は視界を失うとどうしても興奮することはできない。不安が勝ってしまうのだ。

そうして徐々に私の体中に満ちていたアドレナリンやエンドルフィンが消えていく。


そうなったらまた一から脳内物質を生成しなきゃいけない。

それまでまた同じ苦痛を繰り返すのだ。



悪魔だ。このお姉さん…

人の苦しむ姿を見るのが好きというのは何の比喩でもないのだ。

くだらない自己アピールでも、エセでも、お店にいるいわゆる女王様なんかでもない、ただ純粋に人が苦しむ姿がみたい真性の「サディスト」



「ぅぅぅぅぅっ…」


「あら?どうしたの?泣いたりなんかして。ずいぶん今更ね?」



私は気づいてしまったのだ。

私にはもう希望がない。

死という絶望に向けて進んでいくしかないのだ。

私の未来には、私が死ぬだけという絶望と、関係ないあの子まで巻き込むという「最悪な絶望」の二種類しかない。



もう、希望はないのだ…





「じゃあ、そろそろ休憩おわりでいいかしら?」



私は光を見て、拷問が再開して、絶望を見つめる。

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