私は殺されるらしい
自己満足小説です。
まだ残酷描写はありません。
それにしても、誘拐されたらしいということ以外何も分からない。
情報がないというのは不安だ。
私は死ぬことに対して何の抵抗もないけどやっぱり生きて帰されるのか、それとも殺されるのかというのは大きな問題だ。
まだ一度も犯人の顔を見ていないからまだ助かる見込みはあると思ってもいいだろうか。
ザッザッザ…
私は全身を強張らせる。これは明らかに足音だ。
土を踏み分けるような音だ。
ザッザッザ…コツ。
足音が止まる。
ギイィィ
古い扉の開く音がした。
ここは屋内のようだ。
コツ、コツ、コツ。
私のすぐ近くで足音が止まる。
耳を澄ませばその人の息づかいさえ聞こえてくる。
さすがに恐怖を覚えて何もできない。
ただ体を硬くして相手がどういう行動に出るか待つだけだ。
どうせ私にできることなどないのだ。
「う…まぶし…」
急に視界が開けた。
犯人さんもしくはたまたま通りがかって見つけてくれた人が私に課されていた目隠しを取り払ってくれたのだろう。人物像としては後者の方が望ましい。
「こんにちは」
まだ目が慣れていなくてよく見えないが胡散臭いほどさわやかな笑顔で話しかけてきたのは美人なお姉さんだった。
この状況の私に挨拶をかましてくるのだから犯人であることはほぼ間違いなかった。残念である。
「可愛いね、あなた。」
まだ詳細はわからないが美人なお姉さんに可愛いなんて言われて悪い気はしない。そもそも他人に外見を褒められたのなんて小学校低学年以来だろうか。
そろそろ目が慣れてきたので胡散臭いほどさわやかな笑みを浮かべている美人なお姉さんを観察する。
髪はセミロングというやつだろうか、肩に掛かる程度に切りそろえられている。髪の色は鴉のように黒く独特の艶やかさを持っていた。
私が座っていることを考慮してもお姉さんの身長は高く、170センチくらいありそうだった。胸自体は小さいがバランスのとれた体型で、モデルのような無駄のない美しさを持っていると思った。肌は透き通るように白くてまるでこの世のものとは思えない。触れたら通り抜けてしまいそうなほど現実感がない。
そもそも今私が置かれている状況に現実感がないのだが…
ついでにあたりをみまわす。
ここはどうやら木でできた小屋の中のようだった。
作りは簡素で、なおかつ古い。ドアが開けっ放しになっていたので少しだけ外がのぞけたが近所では決して見ることのできないような濃い緑色が見えて、ここは人通りのない山奥なのだろうと思った。その証拠に外の足音まで聞こえてしまうような小屋の中に猿ぐつわもかませず放置しておいたのだから、防音の必要すらないのだろう。
「ねえ、あなた、これからどうなると思う?」
私が状況を認識した頃を見計らってお姉さんは今一番私が知りたいことについて質問してきた。
ヒントは一切ないようなので自分の希望を伝える。
「早く家に帰って本を読みたいです」
「面白い子ね、やっぱり」
やっぱりというのが気になるが結局お姉さんは答えを教えてくれなかった。
焦る必要はない。どうせこの状況では近いうちに答えが出るのだ。
「ああ、すっごい可愛いわねあなた。それに落ち着いてて可愛さの中にクールさがあってもうほんとに愛してるわ」
お姉さんがいきなり私への愛を語り出したのでさすがに少し引く。
美人なお姉さんだがやっていることはストーカーと変わらない。しかも末期の。
あれ?それはちょっとまずいんじゃない?この人「記念に目玉もらっちゃうよ」とか言い出しそうだし。
「そもそも最近の子って恥じらいっていうもののが足りないと思うのよ。それとがさつ。そして仲間がいないと何もできない烏合の衆!」
お姉さんはまだ喋っていた。最近の子って言ってるけどお姉さんも十分若いと思う、20代前半だろう。そして仲間がいないと行動できないのは昔からだと思う。
「その点あなたは違うわ!一人でもきちんと行動できるしそれによって周りから変な目で見られても全く臆しない!その他人に合わせない姿勢、ほんとにかっこいいわ!」
お姉さんは少しデリカシーがないようで私の心の傷をちくりと刺激した。
周りに合わせないのではなく周りに合わせられないだけだ。
「いつも冷静沈着で、現に今も全く慌てたそぶりを見せないもの!」
なるほど。冷静というよりは人間として必要なパーツがいくつか抜けているだけだと思うけどお姉さんにはプラスに見えたらしい。狂ってる人はやっぱりものの尺度も狂っているのだろう。そして、「いつも」という言葉でこのお姉さんは長期的なストーカーだと判断する。
「ねえ、さっきのことだけど、知りたい?」
さっきのことというのは「私がこれからどうなるか」、ということだろう。もちろん知りたい。
「はい、教えてくださいませんか?」
一応丁寧語でお伺いを立てておく「こんなときでも丁寧語なんてほんとにかっこいい」などと騒いでいたけどやっと答えを教えてくれた。
「これからあなたは私に殺されるのよ。篠原明美さん」
笑顔で恐ろしいことを言ってきた。
なぜ私の名前を知っているのだろう。ストーカーだから当然か。
いや、そこじゃない、私を殺すというところだ。
「な、なんで殺されなくちゃいけないんですか?」
当然の疑問だろう。
「それはね、私の趣味。あなたみたいな可愛い女の子を殺すのが私の趣味なの」
公共の福祉に反している趣味である。早急に止めていただきたいがこの場所には国家権力は届かない。
「あの、どうしたら止めてくれますか?」
「止めないわよ。絶対に。だって、これだけが私の本当に楽しめる趣味だもん♪」
語尾に音符をつけて言うような台詞ではない。
だが、私はもう半ば諦めていた。この状況で助けが来るのは小説の中だけで、現実にはきっとこのまま殺されてしまうのだろう。
どうせ生きていても友達もできず勉強もできず運動もできず、何もない日々だった。本を読むのは楽しかったけど、現実逃避という域を出ていない。
殺されるなら本望だ。一面識もないクラスメイトたちが泣いてくれるかもしれない。どうせなら楽に殺されたい。
「あなたには本当に申し訳ないんだけど、死んだ方がましって思えるほど苦しめてから殺すね♪」
最悪だった。