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第36話 大脱走

 ニルスがやってきたのはロゼー駐屯地内の造船所だった。しかしここには船を作るだけの設備はない、だからここは造船所というよりはただの停泊所に近い。そしてここにはクラリュを始めとした技術者が腕を振るっていた。

「クラリュ、例のものは完成しそうか?」

「順調ですよニルスさん、もう死の種は落とさせません」

そう、2つめの種が落とされてしまったのだ。場所はウィッチ空洞、首都ボルーキのすぐ北である。あそこは現在放棄されているが脅迫としては十分である。

クラリュは現在、あるものの完成を急いでいる。それは神の枝を取りに行くための乗り物だ。女神の花の落とし合いが始まってしまった以上これを止められるのは“女神の花を直接手に入れて兵木とする”か“神の枝を手に入れて死の種を無力化する”かの二択だ。無論兵木をこれ以上増やすなんてできない、それはフォイップやエアリーとやることは同じだ。だからロゼーの部隊としては神の枝を手に入れる方法をとった。そしてその神の枝を女神の花に直接ぶつける。神話通りならこれで女神の花が消滅するはずだ。

「なるべく早く完成させてくれ、自体は急ぐ」

この乗り物はオレクス由来の燃料を固形化しそれをゆっくり激しく燃やすことで猛烈な推進力を得るエンジンを作るらしい、元々は戦艦アクエリアスに搭載予定だったがその激しすぎる推進力が故に小回りが効かないというデメリットがあるため搭載は見送られた。クラリュはアクエリアス造船に関わった人間である。今回はそのエンジン構想を流用したというわけだ。

「早く完成させたいのはわかっていますが……不安な点とお願いしたい点があります」

「なんだ?」

「まず工期が短すぎるので大型化できません、定員はせいぜい1人か2人が限界です」

それは致し方ない事か……乗れる人間はまあ実力ある兵士がいいだろう、想像を超える高度は想像を超える空気の薄さと低温を招く。

「次に既に知っていることですがこのエンジンは小回りが効きません、ヒロキがサカサゴボを使った“神の枝自動追尾装置”を開発していますがやはり追尾には限界があるようです」

つまりこの乗り物は発射する場所を選ぶ、神の枝は北ミーラ山周辺を移動しながら浮遊している。その近辺に拠点が必要だ。

「考えておこう、北ミーラ山近辺に何が拠点になる場所をな」

「なるべく地盤が強固な場所を選んでください、本当ならコレ、地べたに設置してから発射したいくらいなんですよ」

そうなると場所は限られてしまう、地面はジライソウだらけだというのにこれは難題だ。

「最後、これは質問ですが……サカサゴボは確保できそうですか?」

サカサゴボ、もとい女神の花の根である。希少性ある植物であるため数人で捜索隊を結成した。

「その件なら問題ない、既に必要な3つのうち2つを確保した」

サカサゴボは引っこ抜いてしまうと3日ほどで枯れてしまう、その為見つけても引っこ抜かずにそのままだ。しかし死の種を生産するうえで必要な為誰かに奪われてしまう可能性がある。植物に護衛とは笑いものだが見つけたサカサゴボに護衛をつけておいた。

「よかった、ヒロキが安心しますよ」

そうホッとするさなか、ダッダと騒がしい足音が近づいてきた。これはホッとできない事が起きたようだ。案の定、兵士の一人が息を切らして向かってくるではないか……

「ニルスさん!例のタツマの兵士が脱走しました!」

本当にホッとできない事態だった。




 牢屋、正確にはその前に兵士が一人倒れていた。身ぐるみは剥がされている。首元には血の跡……と思ったらこれは焦げ跡だった。焦げ跡?いずれにせよ何らかの方法で牢から脱出し何らかの方法で見張りを倒し服を奪ってロゼー兵のフリをして逃走した……そういうことだ。

「ニルスさん、見事にやられているよ」

先に来ていたのはヒロキであった。ヒロキは首筋に手を当てて脈をとっているが首を横に振った。時すでに遅しのようだ。

「鍵が壊されている……馬鹿な、持ち物は全て没収したし服も着替えさせたはずだ」

錠前に顔を近づけるとこれまた焦げた匂いがした。流石エアリーの諜報部隊タツマの兵士といったところ、見事にやられた。

「多分これ、ネッツンポップですよ」

「ネッツンポップ?」

聞いたことがない植物だ。ということは兵木用ではないということか……

「どちらかというと工業用の植物……酸性の液体を浴びると高熱を発するトウモロコシです。普通は葉っぱや実の部分を使うけどあの兵士はヒゲの部分を使ったんだろうね。まさかこんな使い方があるとは……」

トウモロコシのヒゲ!これを黒く染めてしまえば髪の毛と区別が付かない……ウィッグとして頭の上に堂々とおいていたのだ。そして食事の時に出された柑橘系果物の果汁をヒゲにかける……脱出道具と接近武器の完成だ。

「鍵を焼き切るだけでなく見張りも絞め殺したというわけか」

しかし嫌な予感がする。あのタツマの兵士は軽々脱出したが本当に脱出しただけだろうか?そしてもし脱出だけでないとするなら狙いは……間違いなくあの資料だ。

「まさか!」

「ちょっとニルスさん!」

ニルスは走った。向かう場所、自室、その鍵のついている戸棚だ。そして他の物には目もくれずに自室に入り……入った。

「鍵が空いている……」

入ることが違和感だった。自室から出る時は鍵をかけている。かけ忘れてしまったこともあるにはあるが今この状況で?都合が良すぎる。そして自室の中にある鍵付き戸棚も鍵が空いていた。壊されている様子はない、どこからか道具を調達してピッキングしたか?

「やはり……奴のせいか」


資料は無かった。


困った事になった。あの見張りの遺体、そして牢屋の鍵、どちらとも焦げてはいたし匂いはしたが煙は消えていた。つまり脱走してから時間がかかっている。資料まで抜き取る時間があることを見ると今からこの駐屯地内を探しても居ないだろうしロゼーの街中を探しても居ないだろう……つまり例の資料はエアリーに渡ってしまったということだ。そうなるとエアリーも神の枝か女神の花のいずれか……もしくは両方を狙いに来る。

 ニルスは自室の机にユードラ半島の地図を広げた。一刻も早く神の枝を手に入れなければならない、しかし今開発中の乗り物は発射する場所として北ミーラ山付近でかつ地べたである。ジライソウだらけのユードラ半島で地面に降り立てる場所は少ない……

「キオラは場所が遠すぎる。ボルーキは……問題外だ」

ジライソウは砂漠の中だろうが水の中だろうが生きることができる。ジライソウが生きられないのは石の上、例えばボルーキの化石の床やキオラの石造りの町……

「まてよ、キオラ?」

砂漠の町であるキオラは北ミーラから石を運んで街を作った。シレーナ採掘場、その石を切り出した場所だ。だが現在はエアリーが占拠している。

「ここはひとつ、皆に頑張ってもらうしかないか」

しかし場所が特殊だ。通常の木の上にある拠点ならともかく採掘場、時間も惜しい……短時間で制圧するためには……

「上空から地上に降りての強襲戦か」

地上戦、場所は狭いとは言えまさかこの戦争で地上戦を行うことになろうとは……

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