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第34話 前線拠点ストロー流木(裏)

 植物は光合成する。そして光合成は読んで字のごとく光を必要とする。私は植物じゃないが動物も光を必要とするものと聞く、理由は知らないが……

「なのにここには光がないと……」

この私、ローサ・ブロートは牢の中だった。壁は木製だが頑丈でビクともしない、正面の牢に使われている木は壁に比べれば柔らかいが今の私は武器やナイフの類は持っていない……そもそも外に出る気は既に無くしている。

 今私がなんでこうなっているか?答えは単純、戦闘中にのけのけ敵兵に捕まってしまったのだ。手ごわい相手を退けたと思い、つい気を許したのがいけなかった。シードやミリアだったらこんな油断などしなかったのだろうが生憎私も連れのパニィも兵士になったのはつい最近だ。ベテランのようにはいかない……

「よくまあパニィは逃げ切れたこと」

あのよく分からない爆発……爆発自体は遠くで起こったので無事だったが余波のせいで吹き飛ばされてしまった。運悪くか必然なのか知らないが運悪く敵陣の中に突っ込んでしまいそして捕まってしまった。揺れ動く意識の中気を失いかけたパニィが大鳥に抓まれ飛び去ったのが見えた。それで安心して眠った。しかし仲間の心配より自分の心配だ。起きたらこの有様、御用である。

「そんな狭いところがこんなに退屈だなんて……好きだと思ったのに」

「退屈なら出ちまえばいい」

下を向きかけたはロープ仕掛けで上を向いた。ロープは私ではない他人の声だ。

「あなたは……確かライナス」

間違いない私を捕まえた張本人だ。ライナス・メルヴィル、ここの軍事研究施設のテスト兵士だという。30行くか行かないかの年に無精ひげをはやした細身の男だった。

「名前を覚えてくれるとはありがたいねぇお嬢さん」

さっきからコレだ。妙に楽天的な正確……だが私を連れ去るときは完全に兵士の緊張感を持っていた。二重人格とは正に彼の為にある言葉だ。

「何の用なの?やっと尋問の開始かしら?」

「ほぉ尋問されたい人間なんて初めて見た」

別に私はそんな物好きではない、だが捕虜になったからには拠点はどこだとか……とにかく情報を喋らせる尋問を行うはずだ。しかし私がここに連れ込まれてから一向に始まる気配がない。ただ一回採血をさせられた。それから暫くして検査室から歓声が聞こえたが意味がよくわからない……完全に謎だ。

「ローサよ、尋問されたいところ申し訳ないが一つ頼まれごとをして欲しい」

「何よ」

その軽ったらしい声で頼み事、だが内容を聞くまでイエスとは行かない……

「脱走しよう」

そして軽ったらしいことでやたら重大な事を言い出した。脱走?何をふざけているのだ。

「脱走って私が?」

「正確にはお前と俺だ」

「仲間を裏切るつもりなのね……」

何のつもりか知らないが裏切り者になりたいらしい、確かミリアも黒太刀部隊から裏切ってロゼーに来たのだ。全くエアリーは裏切り者が多い……

「信じていいの?」

「これでもか?」

カチャリ……牢屋の鍵が開く、そして周りには自分たち以外声が聞こえなかった。

「別に裏切りたいなら一人でこの拠点を抜け出せばいい、私を連れて行かなくてもいいでしょう?」

何故ライナスが裏切るのか?その理由はこの際どうでもいい、しかし何故、私を連れて行くのだろうか?ライナス一人だったら偵察やら何やら理由をつけてこの拠点正面から堂々と脱走すればいい……しかし捕虜である私を連れて行くとなると話は別だ、コソコソ出て行かないといけないし仮に見つかったら言い訳はどうする?これはかなりリスクのある行動なのに何故わざわざ私を連れて行くのか?

「まぁ……お前を連れて行かないと意味がないからな」

「どういうこと?」

ライナスは聞く耳持たず代わりに何やら1m程の竹竿を手渡してきた。

「これは……」

「エアリーの新兵木、通称“種砲”だ。その中でもそれは長距離狙撃を目的としてカスタマイズされている」

エアリー新兵木……こんなものが存在していたとは思っていなかった。筒の中にドングリと火薬が仕込んである。火薬の爆発でドングリを高速で飛ばす兵木だそうだ。

「なぜこれを?」

「お前は弓兵だろ?取り上げられた武装が弓矢ばっかりだったから分かった。正直牢屋の鍵をコッソリ持ち出すので精一杯だったから嬢さんの武器は無理だった。残念だがそれで勘弁してくれよ、武器は必要だろう?」

私は黙ってその種砲をベルトに繋げ体と固定した。このライナスの誘いは正直罠かもしれない、しかし牢屋から出られたのは事実、仮に罠だとしてもそれをチャンスに変える。

「いいでしょう、今は貴方について行く」

「俺としても助かる。俺の正義を完遂させる為に協力してくれ」

少し強めの握手を交わす。

「外の警備は休憩に入らせている。しかし後10分もすれば戻ってくるだろう……その間に脱出するんだ」

「了解」

ギシギシと木の擦れる音と共に牢屋の扉が空いた。ライナスの後ろをついて行くと久しぶりの窓がお目見えする。眩しくて目を細めた。ライナスは部隊長クラスの兵士らしい、彼の指示通り見張りの兵士はすべて休憩に入っており鉢合わせになることはなかった。

「あっリョク!」

大鳥の鳥小屋に私の大鳥がいた。

「ローサ、飛び立つ前に頼みごとがある」

ライナスも自分の大鳥にまたがっている。ライナスが指差す方向、そこは出口だった。しかし彼の指差すのは出口ではない、そのさらに先にある滝を指しているのだ。

「滝が見えるだろう?実はその滝の向こうは洞窟になっている。そこには爆弾や種砲に使う弾薬やら兵木が保管されているんだ」

ここは兵木開発局を兼ねている。外から見られないようにわざわざ滝の中に武器庫を設けているのだろう……これなら少なくとも外から見えることはないのだ。

「あの武器庫にその種砲を一発ぶち込んで欲しい」

「ちょっと待って、そんな所に撃ち込んだら……」

種砲は火薬を推進力にしている。そんなものを爆薬のある武器庫に撃ち込んだら大爆発を起こす。かなり目立つはずだ。

「俺は部隊長だがこの拠点で一番偉いわけじゃない、流石に建物の外の警備をずらすことはできなかった。そこで滝の武器庫で大爆発を起こさせる。爆発の混乱に乗じて滝とは逆方向に脱出する」

「貴方がやればいいじゃないの……私はこれを使うのは初めてよ」

「生憎遠くのものを狙うのは苦手でな、数撃てば当たる戦法なんだよ俺は」

作戦も理由も分かった問題はそれを実行できるかだ。ご丁寧なことに種砲には小型の望遠鏡が取り付けられている。覗き込むとそこには十字にマークが付いていた。

「要はこの十字の中央を目標に合わせればいいのでしょう?」

弓を構えるように片腕を伸ばし先端を掴む、そしてもう片腕は根元を抑えていた。種砲の根元にとりつかれているレバー、これを押すと発射する。

「物覚えが早くてよろしいが反動は弓とは比べ物にならないぞ?あと火薬を使う都合上どうしても音がする。一発で終わらせろ」

「無茶を言う」

目標に向けて種砲を向ける。照準を覗き込むと滝の水しぶきが映し出された。

「ブレるわね」

十字が揺れる……狙いが定まらない、流石に弓のようには上手くいかないようだ。そもそも形状からして全然異なるのだ。同じように使って同じようになるわけがない、これを使うにはこれに適した使い方を見つけなければならない……

「ん~」

少し考える。狙いが定まらない、弓と形状が違いそれが故にブレを生んでいる。ならブレようがない構え方にすればいい……

「おいおいこんなところで居眠りかよ、服が汚れるぞ」

「黙っていて」

うつ伏せ、その状態で種砲を構える。この体の大部分を地面に固定させたこの体制ならもしやだ。

「ビンゴ……これなら」

これなら狙いが定まる。滝の水しぶきの中は確かに武器庫になっていた。そしてその中で最も派手に爆発してくれそうなもの……ボムスイカだ!

「撃つよ」

トリガーを引いた瞬間、ホウセンカが火薬に衝撃を与え火をつけた。ドングリはまっすぐ飛んでいくのだ。それから1秒も経たず。滝のより轟音、火柱、煙が上がった。

「グレイト、初めてとは思えない!」

「指痛ぃ、確かに反動半端ないわね」

「そんなことは後回し、サッサと脱出するぞ!」

この兵木、確かに弓とは勝手が違う……状況によっては弓のほうがいいのかもしれない、しかしこの種砲は気に入った。

「ライナス、これ貰っていいかしら?」

「もちろんだ。嬢さんの方が使いこなせそうだ」

既に拠点は遠く、そして小さく見えていた。ここまで逃げ切れれば問題はないだろう……

「あなたはこれからどうするつもりなの?」

「俺か?俺はロゼーに向かうつもりだ」

「ロゼー?なぜまた……」

これは意外、私だってこれからロゼーに帰るところだ。私はロゼーの兵士なのだからロゼーに戻るのは当然だがなぜライナスはロゼーに向かうのだろうか……

「お前もロデッサであの黒々した大爆発を見ただろう?あれはフォイップとエアリー双方で開発をしていた“死の種”という爆弾型の兵木だ」

「あれが一つの爆弾だって言うの?」

しかしすぐに納得してしまった。複数の爆弾だったら爆発にタイムラグがあったり爆発音も何回か続けて聞こえるはずだ。しかし爆発の音、炎、爆風、すべてが一度に起こったものだった。つまり使われた爆弾は一つだけなのだ。

「フォイップが先に完成させて先に使った。だがエアリーはそれに怒った」

「当然でしょうね……エアリーも完成させ次第仕返しに使うってわけ?」

「ああ、上はそう言っていた。だがあの威力の兵木をお互いが使い続けたらどうなる?ユードラ半島は滅びるぞ!」

握りこぶしをライナス、先ほど自分が逃げるのは正義のためだとか言っていた。そういうことか……

「じゃあ作らなきゃいいでしょ」

「俺も最初は反対した!だがこの“死の種”は元々フォイップが開発しているという情報を得たからエアリーでも研究を始めたのだ!」

殺らなきゃ殺られる、その理論はよく聞くこと……しかし今回は規模が違うようだ。

「フォイップでは使う気がない、エアリーも使う気がない……持っているだけで相手を牽制する。そんな兵木だった……そのハズだった」

だけど使われてしまった。もう使わないことで相手を牽制することはできない、使って相手を牽制させなければならないのだ。

「“死の種”は死の土地にある毒沼を凝縮、圧迫させてサカサゴボ製の容器に入れたものだ。サカサゴボは死の土地でも溶けない」

「だけどあの毒沼を加工するだなんて命知らずな……」

たしかにサカサゴボという植物は死の土地に片足突っ込んだような場所でも生きている。サカサゴボをうまく使えば確かに毒沼を運ぶこともできるだろう……しかし一歩間違えれば御陀仏だ。

「確かにあの毒沼を扱うのはかなり危険だ。だから探していたんだよ……お前を」

「私?」

「あぁお前はあの毒沼に対して抵抗力がある。エアリー上層部は毒沼の抵抗力を持つものを探していたんだ。だから毒沼を使った兵木を止めるにはお前を連れ出す必要があった。少なくとも研究を遅らせることはできる」

ローサはすべてを理解した。捕虜になったのは偶然だろう、しかしその後に採血検査を行ったこと、その結果を知ったエアリーの研究者が舞い上がっていたこと、特に何の尋問もされなかったこと、ライナスが離反する時に私を連れ出したこと、すべてが理解できた。


そして私の人生最大の謎もこれでわかる。

なぜあの忌々しき事件の起こったブラックタウンで唯一生き残ることができたのか……だ。

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