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第33話 前線拠点ストロー流木(表)

 これは光か?どういうわけか背中がものすごく痛い。あとは……音だ。この音は水の流れる音かな?それともうひとつ声が……

「シード!」

俺の名前か……誰が呼んでいる?

「起きろ~!!」

「あ?」

まぶたの筋肉が痙攣する。少しずつだけれどもまぶたが開く、そこには……

「ミ、ミリア?」

目の前にはミリアがいた。そして俺は海老反り状態で木の枝に干されていた……腰が痛くなるに決まっている。しかし……俺が海老反り状態になっていること以上によくわからない現象がミリアに起こっていた。

「お前、一体何をやっているんだ?」

これはどう形容したらいいのだろうか?いや、この状況を説明すること自体は簡単だが説明することは大変著しく非常に困難である。


ジュル……ニュる~


あぁダメだコリャ、ジュルやらニュルやら聞こえてきたらもうオシマイだ。仕方ない、説明しよう!端的に言えば今ミリアは樹上で……触手に絡まれている。それもかなり複雑に、そして変な円滑性の液体をかけられながら……

「ちょら~!見てないで助けろ~!あんたが地上に落ちないようにわざわざクソ重い体を空中キャッチしてここまで運んだんだぞ~!」

なるほど、俺があの黒い爆風に当たっても地面に激突せず、そしてジライソウに喰われなかったのはギリギリ意識を保っていたミリアが安全な樹上まで運んだからか

「きょら~!とにかく……あぅ、どうにか……にゅぅあ!し、して……」

あぁ、どんどんミリアが艶めかしい声に……体中にぬられている液体は糸を引いているし……

「もうちょっと見ていたい」

「ばかあ!」

ミリアに絡みついているあの触手についてはもう正体は掴めている……あれはオカシツタだ。何故か人間の女性にのみ異様な反応を見せるツタ系食虫植物の一種だ。そして対処法も知っている……塩をかけてやれば嫌がって向こう側から放してくるが……

「やっぱりもうちょっと見ていよう」

「えぅ?ちょっと……そ、そこはダメ!ダメだから!あう、あああぁぁぁぁぁぁああ!!」

おぉ、いい断末魔だ……




 さて冗談さはておき現在の状況を整理しよう、激戦区ロデッサの外れにてライナス隊長ひきいる種砲部隊との戦闘中に謎の大爆発をロデッサ中央部で確認、その爆風はこちらまで届き俺はミリア共々吹き飛ばされた。幸いにもミリアは意識を保っており地面に激突、ジライソウに喰われるという最悪の事態は回避できた。その先は……振り返らないでおいてあげよう!

「しかしここは?滝が見えるが……」

背後から水しぶきが体にかかる。ここは崖下の茂みの木の上……先ほどの爆風を避けるにはもってこいの場所だ。ミリアはよくあの状況で冷静に行動し安全な崖下まで俺を抱えてこれたものである。

「まぁここはロデッサの東、エアリー支配下だから場所はわかるよ……ただ正直に言って最悪の場所ねここは」

ミリアの指差す先、それは滝の反対方向で谷底を流れる川の方角だ。その先には何やらでっかいマカロニパスタが何個もでんでんドンドンと川を塞いでいるではないか

「あれは……」

「ストロー流木よ、樹齢うん千年のマーパーとかいう木が大雨で流された時にできた自然のダムね」

「まるで巨大なストローが身を寄せ合ってるみたいだ」

なるほど、だからストロー流木と呼ばれるのか

「いつぞやのウィッチ空洞みたいに大自然が作り出した要塞と化しているわ、身も隠しやすいし20年前のロデッサじゃ結構重要だったみたい……戦後は軍事研究施設になっていたみたいだけど今は開戦中だから……」

「研究所モードから要塞モードというわけか」

「まぁ研究もしているみたいだけどね。さっき戦ったあの種砲とかいう物もここで作られたんでしょ」

いずれにせよれは厄介なことだ。ここは谷底、アクエリアスに戻るためには谷からでなければならない……しかし今この場で飛び立てばあの要塞から目をつけられる。流木はストロー状、どこに敵がいるかわからないしいつ飛び出してくるか?どこまで見られているのかわからない……うかつに飛び出すには危険だ。いくら腕の立つこのコンビでも要塞クラスの敵兵を落とすには無理がある。

「一騎当千の自身はあるんだがな~」

「無理無理、あんな入り組んだ流木、そしてその中身だもの……広さも限られるし下手に突っ込んだら行き止まりでお手上げなんてオチは嫌よ」

しかもつい先ほどにあの大爆発が起こった直後である。大量の兵士が拠点に帰還しているだろうし警備も厳重になっているだろう……

「ねぇシード、いま気がついたのだけど」

ミリアが神妙な面持ちで声をかけてきた。

「どうした?」

「さっき戦ったライナスよ、彼らの部隊も爆風に吹き飛ばされたのを見たわ……つまりライナスはあの爆発を予想していなかった事になる」

ここでシードも嫌な妄想、あの爆発はフォイップ側の新兵木……ミリアはそう言いたいのだろう。しかしシードはあんな爆発の起こる兵木なんて聞いたことがない、シードの中でその兵木は存在しない……だがヒロキ・ヒイラギと初めてあった時の事を思い出したのだ。

「女神の花……」

「女神の花?それって確か……神話に出てくる花よね?私も子供の頃お母さんに聞いたことがある」

「神話じゃない……女神の花は実在するんだ。ヒロキと俺で確認した。お前と初めて会った南ミーラ山でな」

隠す気でいたがあの爆風を見てしまったら隠す必要も隠す意味もない、ミリアには事の顛末を話した。

「……まさか女神の花を兵木に?」

あの爆風は紫黒かった。その色は正しく死の土地の毒沼だ。あの時、クレインはヒロキの研究中護衛任務を餌にシードを首都から追い出した。その間にクーデターを起こしたということはヒロキの研究は最悪失っても良いということだ。

「既に女神の花を手に入れていたら同じ情報はいらない」

いずれにせよ今はここから脱出すること、それが最優先だ。余計な詮索は命を落とす。

「まぁいいや、とにかく脱出だ。手っ取り早く高く飛ぶと大砲やらに撃ち落とされる……低空スレスレを飛んでやり過ごすぞ」

「なんか肌がパリパリするけど行きましょっと」

ミリアの気の抜ける返事、例のオカシツタの分泌液はサンサンと照りつける日光によって蒸発したのだが中途半端に水分だけ蒸発してしまいヌメヌメ成分だけが残ってしまっていた。

 ひらりと大鳥に飛び降り木々の茂みから飛び出す。最も大空を飛ぶわけではなく地面すれすれ、川の水しぶきが当たるほどに低空で飛ぶ……歩いたほうが楽な気がするがこの地面にも川底にもジライソウがあると考えるとそれは不可能だ。手綱さばきをトチって地面に当たることは避けたい

「シード、ストップ」

ミリアがホバリングする。

「誰かいるのか?」

前方少し先、正確にはその2m程上だ。ちょうどその部分は大鳥の降り立つテラスになっている。距離がありよく見えないが誰かの話している声が聞こえてくるのだ。

「なんか言い争っているようだな」

流石に話している内容までは聞こえない、ただの環境音にまぎれたノイズだ。そして話している本人もちょうど死角になっていて見えないがその後ろにいる部下らしき者の後ろ姿は見える……「やれやれ」を背中で語っているのだ。

「見えないように低空で飛んでも流石に音でばれるな」

「止まっているは嫌だけど……」

結局入口で口論している数人が立ち去るのに5分ほどかかった。シードも、そしてミリアも実戦部隊であり諜報舞台でもなければそしてローサのような弓兵でもない……この手の待つような行為は最前線で戦うような人には合わなかった。

「あああああぁ」

「黙って飛べよバレる」

2人とも猫背になっていた。そして背を伸ばす、腕を伸ばす、足を伸ばす……体中に血液を巡らせてる。何はともあれあそこは入口で目立つ場所だ。抜けるのは難関と言えるし逆に言えばそこを抜けてしまえばあとは簡単だ。

「シード、前方に窓」

「了解」

ちょうど窓の近くに大鳥がとまれそうな枝がある。2羽となると少し窮屈ではあったが文句は言えない

「誰かいるな……」

息をひそめると誰かの話す声が聞こえてくる……もし窓のすぐそばにいたら微かな音やの少しの影の変化で怪しまれる、もしくはすぐさま襲いかかってくる可能性だってある。その一人を倒せたとしてもその間に大量の仲間に囲まれるだろう

「この声……」

「ミリア?」

「この声は……」

ミリアの様子が明らかに異常だった。

「ヴィンセント……」

その男の名前はシードも聞いたことがある。20年前のロデッサ戦争のエアリー側の英雄……その太刀で辺を血の海にしその盾で肉の山を受け止めたとか

「太刀……そうか」

ミリアが動揺する意味をシードは理解した。この間1秒足らず……

「えぇ黒太刀部隊の創設者、そして司令官、そして私の……育ての親」

ミリアの父はロデッサ戦争で、母は戦後にジライソウで死んだ。それ以降兵士になるためにヴィンセントの元へといった。まあそれは実の父親を探す手段だったのだが……

「シード、なにか聞こえてくる」

「ん……?」

どうやらこの建物の中にいるのはヴィンセントだけではないようだ。他にもいる……さっきの拠点の入口では距離が離れていたが今回は窓のそばだ、耳を澄ませば内容は聞き取れることができる。

「……自体は最悪だ」

渋い声だったが不思議と年を感じなかった。

「わかっている、だから私直々にここに来たのだ」

もう一人の声、少しだけ高い男の声だ。

「レイヴン……」

ミリアはそう呟いた。エアリー軍の総司令官の声、相当なVIPだ。

「自体は最悪では正直わからん、具体的に言ってくれ」

レイヴンは話を進める。

「具体的に言っていいものか……わざわざ言葉を濁してやったというのに」

ヴィンセントは思っても相手はレイヴンだ。立場は部隊長と軍総司令……友人関係であることは間違いないのだが仕事中は逆らえない

「わかったよ簡潔に言う、まず自体は錯綜もいいところでロクな情報は入ってこない……開発中の新兵器“死の種”が使われたと思うがこれは恐らく向こう側のものだ」

「まぁあの兵木はまだ肝心な者が見つかっていないからな」

「まあともかくあの爆風の直後だ。ギチャギチゃしているが自分の部隊の情報だけは掴めた」

ここで深呼吸

「なんだもったいぶるなよ?」

「じゃあ言おう……黒太刀部隊は壊滅状態だ。黒太刀7割の兵士は最前線で戦っていたんだからな」

「おいそれでは……」

「あぁアントニオも……だ」

その名前を聞いたときレイヴンは明らかな同様を見せた。しかしこれに動揺したのは何もレイヴンのみではない、盗み聞きをしていたシードも明らかな同様をした。そうだ……初めてミリアと出会った時、あの時は敵であったがその時に一緒にいたのがテオ・アントニオだ。彼もまた20年前の戦争で一騎当千の活躍を見せた英雄だった。

「アントニオ……」

ミリアが震えている。もう幾多の命を殺めたかそれでも知人の命は重かった。

「アントニオが!」

「おいミリア黙ってろ」

まずいこのままでは声で場所がバレてしまう

「ミリア!」

少しと言わず多大にヒヤリにした。しかしシードもミリアも腕だけではなく悪運も強い兵士だ。こんな拠点をコソコソ抜けなければならないハメになったのは爆風に吹き飛ばされたからであったがそれを助けるのはまた爆風だった。最もその爆風はごく小規模なものであったが……

「何だ!何の音だ」

中にいたヴィンセントもレイヴンも慌てふためき、そして冷静を取り戻す。

「状況を確認しろ確認部隊を送れ!音は滝の方だ!」

事実、滝の方で煙が上がっている。先程シードとミリアがいたあたりだ。つまりこれから脱出する方向とは逆方向になる。

「何が起こったか知らんが敵さんの目があっちに向いているチャンスだ!ミリア、一気に抜けるぞ!」

「え、ええ!」

ようやく冷静を取り戻したミリア、急いで手綱を握りそして飛び立つ……今なら抜けられるはずだ。

「あばよ!」

そう最後にシードは言ってやった。誰だか知らないが爆弾を設置したのだろう……理由はともかく感謝だった。

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