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第32話 死の種2つ

「使ったのですか……」

若い男の声が聞こえる。

「私が使ったのではない、ガデムが使ったのだ。それに味方には被害はない」

今度は初老の男の声……

「種を使ったらロデッサは使い物になりませんよ?事実もうすでに毒沼とかしています」

「ジライソウだらけのロデッサに心残りはないさ、今重要なのはその更に北……マティには感謝しないとな」

「完全に新たな火種を持ってきたとしか思えませんが……まぁいいです。この国が豊かに、そしてすばらしいものになるのであれば」

床が揺れた。地震ではない、ここは船の上なのでこれは船の揺れだ。ロデッサからだいぶ離れた位置にこの船はあるのだがここにいても時間差であの“死の種”の余波は届いた。

「それに北を狙うには別にオレクスだけが目的ではない」

「神ですか……?」

若い男が天井を見上げるが無論ここには木目柄しかない

「あぁ今まではその雫だけでも構わなかったのだが……お隣さんに見せてしまったし何よりも向こう側も作り始めているようだ。先ほど来た密偵がそう言っていた。」

「そんな急に模倣物を作れるのですか?」

「どうやらこことは違う方法で研究していたらしい、どうも最後のピースが埋まったとかなんとか……とにかくすぐにでも報復体制に出るだろう」

初老の男が窓から外を見る。紫の霧がようやく晴れてロデッサがお出ましとなった。そこにもはや生物などいない、植物すら生えていなかった。あるのはただ紫黒いドロドロした液体が漂っているだけだ。生きるものは骨すらも種すらも残っていない。

「打ち合いになったらユードラ半島は死の半島ですよ」

「それはない、流石に相手もバカじゃないしそこは理解しているだろう……硬直状態、それで終わりだ。だがこちらがアレを握れば一方的に脅迫をかけられる」

ドサッとわざわざ音を立てて二人揃って椅子に座る。霧が晴れたとはいえ空は相変わらず紫の空だった。

「それと本来ならばこの件を先に伝えるべきだったのでしょうが彼女の件は申し訳ありません。監督訳として止めておくべき立場でありながら……」

「その件は問題ないさ、彼女がいう事を聞かないのは知っている。まぁ彼女が敵味方区別着くように“出来ている”からいいものだが」

出来ているとは妙に引っかかる言い方だ。しかもわざわざイントネーションをそこだけ上げていうものだからその違和感はより強調される。

「出来ている?」

「彼女はちょっと薬への体制が強いとの理由でケミカルソルジャーにされた。ユメミサボテンのような幻覚作用を含む植物を服用させるんだが……この幻覚を都合よく見せるんだと……詳しくは知らないがヒイラギという研究者がロデッサ戦争時に実験したものだ」

そこで思い出した。そういえばあの花の情報を伝えたのもヒイラギだった。これもなにかの縁なのかと思う。最もあの花があるとの情報はとうの昔に知っていたのだが……




 騒がしい羽ばたきが聞こえてきたというとその上から兵士が3人降りてきた。真ん中にいた細身の男がいきなり声を上げる。

「一体どういうことだ!アレはまだ使えないはずだぞ!」

「開口一番それかい旦那、こっちだって訳がわからないんだ」

掴みかかられた研究者はたまったものではない

「いいかい?僕はあの兵木を開発する立場であって使う立場じゃない、使うのはむしろ君の方じゃないのか」

「俺やただのテスト兵士だ。どんな兵木を使うのかを決めるのはお前の方だろ」

起きた事態に対して言い争うのはいい年した大人2人だった。後ろの兵士や研究者も言い争う2人に対して触れるはずもなく近づくこともなかった。

「そもそもあの兵木はフォイップから持ち出されたものだ。つまり兵木の研究はフォイップの方が進んでいる」

「じゃあアレはフォイップの物だと?」

「ああ、事実フォイップには被害が見られていないらしい」

それなりな時間が経ってようやく温度が冷めてきた。言葉のビートも今はない

「それと旦那、君が連れてきた捕虜だが……」

「あぁあの嬢ちゃんか」

そこで研究者はニカリと頬をあげる。

「あぁ検体検査をさせてもらった。ビンゴだ……もう舞い上がってしまったよ」

男は目の色を変えた。正確には輝きは減ったというに近い

「おい、それって」

「あの“死の種”はフォイップの物だ。どんな技術使ったかは知らないがこの兵木の分野に関しては先を越された。種砲ではこちらに技術軍配が上がったから舞い上がっていたがこのザマ……しかしこれで死の種に関しても五分五分だ」

確かに新兵木、種砲はフォイップでは全く配備されていない、それでエアリーが舞い上がっていたのは事実だ。だがもともとフォイップから掠め取った考案とはいえ死の種ではフォイップに負けた。この研究所も頭に血が上っている。

「使う気か?」

「最初は使う気なんて無かったさ、“危ないものを作りました”だけでよかった。上もその意見だった……そしてフォイップもその考えのハズだった」

しかし現実には違った。フォイップはあの兵木……“死の種”を使ったのだ。

「一発落とされてしまった。こうなっては一発仕返しをしなくてはいけない」

「使う気か!?」

10秒前のセリフをボリューム増やしてリピートだ。

「落とすことはもう決まっている。落とす場所は上が決めることだが……いずれにせよ急いで種を完成させる。君の連れてきた捕虜が最後のピースをくれた」

どうもここの連中、そして上はあの兵木の報復をあの兵木でしたいらしい……いや、恐らくほとんどの兵士はそう思っているだろう

「……」

「おい、どこにいく?」

「今日は疲れた、休ませろ」

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