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第31話 鳴り響く音

 相手は5人ほどだったが持っている武器が違う、最初は弓部隊かと思ったが周りの木々を見ると矢が刺さっている様子がない……そのかわりこんなものを見つけた。

「ドングリ?」

今隠れている木はドングリの木ではない……つまり

「まさかさっきから飛んでいるものはこのドングリか?」

「うひゃぁ、先端がすんごく尖っている」

言うまでもない、こんな尖ったドングリが弓より早いようなスピード……完全に目で追えない……発射音を聞いてから反応しては遅いのだ。故に現在は遮蔽物の多いような木々の密集地帯に居座っているのだ。さっきから右やら左で木屑が散ったり木の葉が舞ったりしている。

「ミリア、相手が何持っているかわかるか?」

「あ~ちょっと待って」

ミリアはポーチの中から手鏡を取り出して景色を覗く、この方法はローサとお手合せ願った時に使った方法だ。

「竹ね」

彼女は言った。

「竹?」

「何て言ったけ?ほらガス管とか水道管とかに使うあの竹よ」

確かそれはパイブーだ。様々な太さがあり加工も簡単で丈夫な竹でミリアの言うとおりガス管やら水道管やら煙突やらに使われる。

「1mくらいの竹に例のドングリと火薬を詰めて発射しているのね……ドングリの方も多分何かしらの加工がしてあると思う」

言われてドングリの実を割ってみる。かなりの硬さでナイフでこじ開けないと開けられなかった。開けて分かったがこのドングリは加工されている。中身は……先端にテッタネの実を重しにして加速力を高めておりその他のスペースはほとんど燃え尽きているが火薬のようだった。

「洒落にならねえな」

相手は5人、小隊規模だ。リーダーは30中頃の細身の男……正直言って兵士とは思えない。仲間同士の会話からすると少なくとも“ライナス”と呼ばれているようだ。遮蔽物に隠れながら発射音が無くなった時を見計らって移動……“力の右腕”と“黒の四人衆”ともあろう者が指一本相手に触れることは叶わなかった。実に歯がゆいことだが無闇に敵の前に出ると蜂の巣だ。

「相手は木の陰に隠れながら移動している!アッシュとベーダは右、ワンとゼタは左から挟み撃ちにしろ!俺とダイチで上空を見る……数では勝っているはずだ敵をあぶりだせ!」

作戦がこちらまで丸聞こえ……しかし聞こえていくことが逆にこちらを焦らせる。

「右左上の3方向から挟み撃ちか……」

「シード、ここは囮作戦しかないと思う」

一人が相手を引きつけてもう一人が相手を撃つ、作戦としては上出来だが片方は危険だし片方は限られた時間で相手を片付けなければならない……この竹集団を無力化するとなると1人倒したところであまり意味がない……少なくとも2人、できれば3人倒さなければ勝ち目はない

「相手だってバカじゃない、囮作戦は2回3回も成功しないぞ」

「次の手は次に考える」

明日には明日の風が吹くと同類か……最も次の手を考えるのに明日では時間がかかりすぎる。相手もそこまで待っちゃくれない……

「わかったよ、次の手は次に考えよう」

「そうこなくちゃ!」

言うやいなやミリアは茂みの中より開けた空へ飛び出してしまった。シードが引き止める間もなかった。どうやらミリアは囮役を引き受けるようだ。男のシードとしては危険な目は自分が引き受けたかったのだがそれはもう叶わない、しかしよくよく考えてみればミリアの方が早いしシードの方が力はある。

「わかったよミリア、しっかり囮ってこい」

シードは茂みの中に身を潜めその時を待った。ミリアは早い、流石に飛び交うどんぐりよりかは遅いが竹が向いている場所を避ければ良いだけの話だった。

「くる……」

黒い翼ミリア、その後ろに5人……いい感じに固まってくれているしいい感じに誘導してくれている。

「ヒトツキ!」

槍を突き出したまま茂みから遠ざける。兵士ではなく大鳥の方だが翼は完全に折れたそのまま大鳥ごと落ちやがれ!

「第2弾!」

そのすぐ横に居た兵士は怯んでいた……これはいい気味だ。今度は兵士の方に突き刺さり大槍と同じ直径の穴が腹に開く

「ラ、ライナス隊長!」

「うろたえるな集中砲火だ!」

部隊長は他の兵士と同じように“例の竹”を持っている。しかしさすが隊長と言うべきか他の連中とは違うようだ。部隊長は右手をポケットに突っ込む……正確にはポケットの脇の小さなポーチだ。

「まだこの手は使った事がないが……やってやるさ」

2つめ……両手に”例の竹”を持った。二刀流ってやつか?その2つめの竹は周りが持つものに比べるととても短かった。

「俺の不甲斐なさに2名も仲間を失っちまった。この借りはお前らの命2人で支払ってもらうぞ……このライナス、エアリー軍試作種弾部隊の隊長として全力で当たる」

左手に長い竹、右手に短い竹を構えた。部隊名からしてあの兵木は“種弾”と呼ぶのだろう……

「相手が右腕と裏切りの黒太刀なら全力じゃないとな」

こいつ……こちらの正体は気づいていたか

「ミリア!全力であのドングリを交わせ!」

「はぁ、可愛いドングリさんを交わさないといけないとはね」

相手の砲撃が来る。ここは回避に専念するべきところだ。

「お前ら!この先頭で雪辱戦と洒落込むぞ!」

3人4砲の竹が空飛ぶ鳥を補足した。あとはトリガーを引くのみそれで風が吹くのだ。


最もその風は全く違うところから吹いてきたが……


これは風どころではない、これは熱風……それとも爆風か?

「っぐ……なんだこれは?」

「シード、あれ!」

ミリアは指差していたが別に指差しせずともどの方向かなんてすぐにわかる。空は紫黒いしその紫黒い球体上の煙の塊がロデッサ中央部にでんと鎮座しているのだ。

「隊長ダメです!吹き飛ばされます!」

「吹き飛ばされてもいい!コレはアレだ……少しでもいいから離れろ!」

この爆発、おそらくあのライナスも予見していない……だけど“コレはアレ”と口にしているということはライナスは爆発の理由は知らなくとも爆発の原因は知っている。

「シードぉ!」

ミリアが右手を伸ばす……左手はしっかりと大鳥の手綱を握っている。

「ミリア、今行く……」

シードもミリアに習い右手を伸ばす……あと30cm、20、5!


つながった瞬間にそのままわけもわからない方向に吹き飛ばされた。




 爆発のような音は聞こえてきた。だけどそれ以降何もなかったかのようにロデッサは静まり返った。何もなくなった。

「なんだ、何が起こった!リャーシャ、状況を報告しろ!」

アクエリアスでも勿論、その紫黒い煙の塊は確認できた。幸いアクエリアスはロデッサの外れにいたのであの爆風の影響は軽微だったがそれでもしばらくは揺れ続けた。低気圧か何かに突っ込んだような気分だ。

「ニルス指令!植物が……人が鳥が腐っています……」

理解できなかった。植物も人間も鳥も命尽きれば腐る、しかしいくらなんでも腐敗が早すぎる。

「ちょっと見せてくれ!」

リャーシャの望遠鏡をヒロキがひったくる。そして中身を覗き込んで何秒たったのか?うわごとのような言葉だった。

「死の土地……」

次ははっきりと

「この腐り方は死の土地の毒沼と同じくさり方だ!」

ヒロキは真っ先にあの女神の花を思い浮かべる。あの花は今誰の手にも届かない場所にあるがあれはすべてを腐らせる強大な兵木になるのだ。その女神の花がある死の土地の毒素と同じような結果が目の前に起こっているということはだ……

「まさか……いやありえない!」

女神の花が何かしらの方法で持ち運ばれそして兵木転用された。その事実だけは信じたくなかった。

「……誰かアクエリアスに接近してきます!」

目の良いリャーシャが何かを見つけ今度はヒロキから望遠鏡をひったくる。

「あれは……パニィ・パッツアです!」

「今すぐ回収しろ!」

パニィも大鳥も渦を描くような飛び方で全く軌道が安定していない、いつ墜落してもおかしくはなかった。すぐに控えていた兵士がクロウバに乗ってパニィの元に急ぐ、ニルスも“ここは任せる”と一言残しクロウバの格納庫まで急いだ。パニィは幸いあの紫黒い物の外側にいたおかげか体は腐っていない……だが爆風で吹き飛ばされたのかひどく疲労しているようだった。

「パニィ、大丈夫か!?何が起こった!」

問い詰めるニルスにパニィはこう答えたのだ。

「ローサが……エアリーに連れてかれた」

絞り出したかのような声だった。

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