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第26話 自警団との共闘

 シード・クリスティとパニィ・パッツア、両者の決闘に割り込んできた大砲の音……その大砲がクーデター側のものであることは船を見れば明らかだった。

『アオヤの街のモノに告ぐ……こちらはボルーキ革命軍だ。これまで再三にわたり革命軍への協力を要請したが未だ返答がない……これが最後の忠告だ。今すぐこちらへの協力を申し出ろ、認められない場合は力ずくだ』

船にはご丁寧なことに船の外側には巨大な花が付けられておりどうやらそこから大声が発せられているようだ。

「クサデンワの品種改良型か?確か声を大きくする研究があったな」

人差し指と親指でへの字を作るとその指を顎にあてた。

「クーデターの奴らめ……アオヤがクーデターに賛同しないと突っ張っていたから煮えを切らして強硬に出たか!だからサッサとクーデターへの対策をしろと言ったんだ」

ミクロが町長を睨むが町長は少しだけムッと眉と眉の間を縮めている。

「だからクーデターの対策としてロゼーの彼らを向かい入れたのだろうが、どっちも兵士であることには変わりないがクーデターのお仲間になるのはゴメンだ」

町長の一言でミクロは目を外した……言い返せなかった。この無言空間では埒があかない、クラリュはわざわざ足音を立てて一歩前へ、そしてミクロに向かった。

「自警団さんよ、どうやら御宅のパニィと家のシードは真っ先に向かっちまったようだし戦闘は回避できない……だがあいつが持っているのは訓練用のふにゃふにゃ武器、あんな武器じゃあ話にならない……俺が言いたいことはわかるよな?俺とヒロキはアクエリアスを動かす、だから自警団はシードとパニィの援護を頼む」

ミクロは全く考えていなかった。考えるもなく答えなど出ていたのだ。だからその考えをそのまま伝えられるように深呼吸してから口を開く、

「あぁ、こちらも同じ意見だ。まずは街に戻る、俺たちもまさか戦闘になるとは思っていなかったから武器を持っていない……あの2人にも武器を持って行ってやらないといけない」

アオヤを救う、この気持ちだけは自警団の方がどう考えたって上だ。事実パニィが真っ先に向かっていった。シードは差し詰めそれを止めに行ったというところだろう……訓練用の武器しか持っていないのだから当然だ。

「ミクロさんよ、僕たちは確かにアオヤに資源提供させてもらうのが目的だ。町長の約束事とは言えアオヤを守るのも目的、力は貸すよ」

ヒロキは珍しく真面目な目つきだった。アクエリアスの航海士もだいぶ板についてきたのだろうか?戦闘員ではないけれども意志の強さは感じられた。

「ヒロキ、サポートを頼む!まずは自警団の拠点に行き体制を整える、シードたちの援護はそれからになってしまうがその間に狙われたら終わり……護衛は自警団に任せていいか?」

「大丈夫だ、任せろ」

ミクロは拳を自分の胸にぶつけた。その振動は皮膚から肋骨を超えて彼の心臓を震わせた。




 先ほどの大砲の音、間違いなくあの戦艦から放たれたわけだがその戦艦の大砲はすべて上を向いている。つまりあの大砲は攻撃ではなく威嚇の類で当てるつもりはない……つまりこちらが話し合いに持ち込めば戦闘は回避できるかもしれないのだ。だがあの大砲の音で逆上したパニィが戦艦に向かって言ってしまった。

「パニィ!そんな装備じゃダメだ、戻れ!」

「アンタの言うことなんか聞くか!アタシは今すぐあの船を止めに行く!」

さっきからそんな調子だ。パニィが鬼のような形相で船に向かっていくものだから敵も戦闘態勢に入る……船からはクーデター側の兵士が十人ほど出てきていた。大砲が沈黙したままのところを見ると向こう側も大規模な戦闘をするつもりはないらしい……先ほどの砲撃が威嚇である所を見ると相手もまさか戦闘になるとは思っていなかっただろう。

「み、右腕……力の右腕!」

兵士の一人が叫ぶ、その顔は夜の空で化物にでもであったかのようだった。これが戦闘ではあることは間違いないのだが上昇するその機動は見事なサインカーブを描いていた。この兵士ばかりではない、シードを知っているであろう者は全てその姿に臆していた。

「臆するな!相手の武器をよく見てみろ、訓練用のゴム槍ではないか!」

アオヤの上空に喝を入れる怒声が飛ぶ、服装から察するに兵士ではなさそうだがその振る舞いから見るとこの部隊の隊長のようだ。兵士ではないにしろカリスマ性はあるらしく尻に鞭打たれた兵士はその軌道がぶれる事はなくなった。そして上昇しきると今度は頭を地面に向けて落ちる。

「確かに俺はロクな装備を持っていないが……お前を退けることくらいは余裕だ!」

敵の落下地点を見極めてシードが槍を取る。その槍はコンニャクのように柔らかくそしてあまりにも頼りないものだがそんな武器でもシードなら別だ。槍は本来付くものであるがシードはその槍を払う、ちょうどミリアの太刀を扱うように……

「ぐわぇ、目が!何も見えねぇぞ目が!」

確かに武器はふにゃふにゃだ。しかしその訓練用の武器には染料が塗られているのだ。顔に塗りたくれば相手の視界を奪うことができる。

「悪いがお前の槍を少し借りるぞ!多分一生返さないだろうが」

怯んだ隙に大鳥の上から足蹴りをお見舞いしてやる。相手は空中で起きもしない大地震でも起きたかのように大きく揺すられそして落ちていった。少しだけ時間が経ってポリマワタゲの広がる音が聞こえた……ジライソウに食われなければ生きていられるだろう。

「パニィは!?」

目の先は再び青空へ、上昇を続けながらパニィの姿を探る……どうやら心配の必要は無かったようだ。例の飛び降り戦法で敵を翻弄するとなんと相手の大鳥に取り付いた。そしてシードと同じようにナイフを顔に当てて目くらまし、これであの兵士も白中堂々に真夜中突入といったところだ。

「アタイはこれで十分!」

兵士の懐を弄り護身用のナイフを取り出すと相手の大鳥から飛び降りた。しかもただ飛び降りるだけでなく走り幅跳びをするような地面を蹴っ飛ばすような飛び降り方だ。その蹴りは相当な衝撃だったらしく大鳥は雪だるまのように空中でゴロゴロ回転し乗っている兵士を振り落とすとその大鳥もまた落ちていった。

「ここからが本領発揮だい!」

生身空中で決めゼリフを吐いてみる勝者がいた。パニィもまた足がかりを失い落ちていくことになるが彼女は余裕だった。何故ならば共に育った大鳥が必ず拾ってくれると信じているからだ。そしてその信頼のとおり彼女の愛鳥レンはそのオレンジの背中でご主人を受け止めるとその場で旋回、彼女が鳥上で体制を立て直すと再び上昇を始めた。




 戦艦アクエリアスは街の外れから移動しアオヤの街中に進んでいた。自警団の拠点で装備を整えるためだ。ミクロの案内を元にアクエリアスは自警団拠点の真上に接近した。

「クラリュ、もうちょっと右!もうちょ……ハイそこ!」

ヒロキの合図を聞きクラリュは船を完全に静止させた。そしてクサデンワの送信口を手に取り声を出す。小声でも良いのだが強めの声だった。

「ついたぞ!だが早速左舷から敵兵が近づいているからなるべく早くしてくれ!」

クサデンワから聞こえる声は途切れ途切れで果たして聞こえるかどうか怪しいものになってしまった。

「む~街中だから大砲を撃つわけにはいかないしそもそも人員がいない……今アクエリアスは完全なる無防備だよ!」

騒がしい植物学者兼航海士にクラリュは若干苛立ったがちょっと前まで自分も騒がしく叫んでいたのだと思うと自分の中で説得力がなくなったので口にするのは勘弁した。

「ヒロキ、全員降りたのを確認したら教えてくれ!」

「また乗せないの?」

「槍を持ったら大鳥で直接戦地に向かえばいいだろ?とにかく時間がないから早くする」

暫しの時間、1分足らずの僅かな時間であったが敵兵が近づいているとの事実が時計の秒針を遅らせていた。そして全ての自警団を下ろすとヒロキが叫ぶ。

「全員降りたよ!」

「了解、アクエリアス発進!」

全速力だった。羽根つきの船は残像が出来るほどにその羽をばたつかせて急上昇、急旋回、船が動くと知っていたはずのヒロキは始めは踏ん張っていたが結局は平衡感覚と脚の筋力を遠心力に奪われ尻餅をついた。

「間に合わなかった!左舷に敵兵にとりつかれている!」

「自警団は何処にいる!?」

「今出てきた!」

自警団の拠点には鳥小屋が隣接されていたようでそこから兵士が暖炉の煙のように吐き出されている。

「助けてもらいたいがこの速度だと彼らが追いつけない、アクエリアスを止める!」

「全力なのはいいけど走るのか止めるのかどっちかにしてくれよぉ!」

急発進して辺りを転げ回ったヒロキだ。ようやく立ち上がって体制を立て直したというのに今度は急停止で辺りを転げまわる。もう体のあちこちが痛いし目はぐるぐる回るしロクな目にあっていない。

「ヒロキ、エンガオの煙を出せ!色は緑!」

ヒロキは後ろの戸棚をあさりエンガオを探る……エンガオは綺麗に色分けされていた。ご丁寧なことにチャカの枝もあるからすぐに煙を出せる。だけどこのヒロキ、慣れてきたとは言ってもやっぱり兵士ではなかった。こんな時はやっぱり”やらかす”のだ。その証拠にアクエリアス船内は今緑色の煙で充満されている。これはもう見えないの問題ではない。自分たちは周りが見えないし自警団からも煙を見ることができない。

「ヒロキィ!馬鹿、窓を開けて窓の外で火をつけろよ!」

「ぎゃぁぁぁあ見えない!窓、窓って……窓はどこなのさ!」

こんな密室で煙なんか出された時には溜まったものではない。この自然界にはまず見られない緑色の煙が奪うのは視界だけではない。その細かい粒子のような煙は鼻腔を刺激してくしゃみが止まらなくなる。更におまけとして煙は喉仏まで刺激するのだ。クラリュだって目をこすり口を抑えた状態で辺りを転がりまわりたいくらいだ。しかしクラリュが舵を握っていなければアクエリアスはたちまち落下、真下にある街を蟻のように押しつぶしてしまうので油圧式でまぶたを開き機械式に舵を握り続けた。

「窓ぉ窓ぉ、あった!」

幸いにも耳は聞けた。ヒロキから窓を見つけたという声と窓を開ける音、そして風の音……肌の表面はザラつきからサラつきに変わり灯台に明かりが灯りその明かりは空気を丸々水洗いする。煙だって狭い所よりも広いところの方が良いのだ。

「ヒロキ、次にエンガオ炊くときは気をつけろよ!」

「つ、次があればねぇ」

ドッド疲れが生産されたが視界は晴れた。まだ少しだけ目は染みるし喉もイガイガするが問題はなさそうだ。こめかみをギュッとつねって視力を取り戻したクラリュが叫ぶ。

「とにかく自警団の人にあの兵士を振り払ってもらう!いつ内部への入口を破壊されるかわかったものじゃない!」

「あ、自警団の人がもう来たみたいだよ?もう追い払った」

「およよ、意外にも仕事が早い」

正直自警団を舐めていたクラリュだったが狼煙に反応して即座に急行、そして即座に状況を把握して即座に解決した……優秀だ。正直ロゼーにも欲しいくらいだ。




「早速取り付かれたようだがまあ2人連れて行ったし問題ないだろう」

自警団はさすがに本職の兵士には劣る……だったら数で押し切るのが正解だ。しかしそれでは単純に10-9の計算、勝った所でこちらの被害は甚大だ。勝つならばなるべく、できるなら確実に無傷で勝ちたい。

「まぁあんだけ言っておいてなんだがロゼーが来てくれて助かった。手のひら返しもいいところなんて言われたら言い返せないがあのシードは相当な実力者、パニィのあの戦法をものの数分で見切った男だ」

パニィとの決闘はまだ決着がついていない、途中でクーデターの奴らが乱入してきたからだ。だがこのような事態になってしまった以上決闘どころの騒ぎではないし啀み合っていた仲でも協力してくれるならこんなに嬉しいことはない。そして自警団のパニィの存在とロゼーのシード……

「いける……この二人が居るなら行ける」

それは既に確信を超えた現実だ。

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