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第25話 決闘!シードVSパニィ

 言ってしまえば単純な発想だった。意見が対立するならばその者を打ち倒してしまえばいい、人間は古来よりその方法で意見を統一させてきた。今回だってそう、パニィ・パッツアは意見の異なるシードに対して決闘を申し込んできた。

「いいだろうパニィ・パッツア、その決闘受けてたとう」

「ちょっとシード!」

「おい、おまえアオヤに来た目的を忘れたのか?」

ヒロキとクラリュの間に挟まれていたシードがいいようにされている。シードたちがここにやって来たのは何も決闘しに来たのではなく説得しに来たわけだ。しかしその説得も開幕直後で町長より承諾を得た。この時点でアオヤに来た目的は達成されているわけである。

「だがな、俺は兵士として申し込まれた決闘は受けて立つつもりだ。それにいくらこの街のお偉いさんが良しといっても周りがこの状況じゃ説得は成功と言えないだろう」

決まった、この瞬間に決まった。パニィ・パッツアとシード・クリスティ両者が決闘に同意した今、この時を止められるものは何処にもいないのだ。

「むぅ、自警団となると止めるのは難しい……」

町長はこの言葉の先に“彼らは頑固だから”と続けたかったが今ここで彼らを刺激するのは良くないと思い言いとどまった。

「だがこのアオヤで殺し合いは勘弁願いたい、それは自警団もロゼーの方も同じだろう……だからこの決闘は模擬戦とする。自警団がいつも訓練に使っているアレがあるだろう、それを使ってくれ」

町長はやはり町長、完全に場をまとめあげる。相手を尊重しつつ場を穏やかにまとめあげる能力、それを彼は持っていた。

「場所はアオヤの北はずれにある双子のノッポンボク、立会人はこの場にいる者とする。いいな?」

この場にいるもの全てが頷いた。




 戦艦アクエリアス、本来この船は戦場に赴くものだし乗せているものは兵士だったり大砲だったりする。だけどこの時ばかりは違っていた。先程会議室にいた人すべてがそこに乗っていた。目的は2人の決闘を見届けるため、その決闘はもうすぐだった。正面の窓からノッポンボクが2本、100程の間隔で並んでいた。互いの木にシード、そしてパニィが控えているのだ。アクエリアスからの決闘開始の合図を待っている。

「ふーん、これが決闘で使う武器か」

この訓練用の槍はシードも使ったことがある。フムの木から取れる樹液を固めて作った柔らかい槍だ。これならば脳天だろうが左胸だろうが突かれても平気だ。今回の決闘はこの槍で3回攻撃されたら負けのルールとなっている。槍にはチャクチェの染料が塗られており突かれたらその部分にピンク色が塗られる……誤魔化しは効かない。

「まぁ勝てば誤魔化しなぞ必要ない」

相手が子供だ、子供の遊び相手で済むなら問題ない。だが相手が子供だろうと、兵士でなくとも勝負事に手抜きは許されない、全力をかけるつもりだ。パニィは子供だが自警団では最も腕が立つ、ローサのように兵士でなくても腕が立つ者は多いのだ。

「さて、そろそろかな?」

南の空に浮かぶ戦艦アクエリアス、そこからでる狼煙と音が開始の合図だ。


パァン


カマビスの実を破裂させた音、そしてエンガオの狼煙だ。ほぼ同時に向かいの木から飛び出す影、パニィだ。シードも木の上から飛び出す。そして互いに上昇を続ける。パニィはオレンジ色の大鳥に乗っているが少し気になる点があった。パ二ィは大槍を持っていない、代わりに持っているのはナイフだった。これもまたフム製の柔らかいナイフだが実践だとヤイバラ性の物を使っていると思われる。

「普通は護身用に使うものだが……」

確か自警団のミクロは”パニィは我流”とか話していたが槍ではなくナイフとは……あんな刀身じゃあ大鳥の翼が邪魔で攻撃が届かないと思うのだが……

「下手に出るより相手の様子を見たほうがいいか」

そんなことを思いつつ落下の体制に入る。そして交錯の時には互いの攻防戦になるわけだが……ここでまたおかしな事に気がついた。パニィが居ないのだ。先程まで上昇をしていたはずなのに落下体制に入った途端にシードは彼女を見失ってしまった。力の右腕の異名を持つシードが相手を見失うなど珍しい。

「ちょっと待った。おい何処に行った?」

元々様子見の落下であったが相手が見えないとその様子見もできない。一旦上昇してやり直すかと思ったその瞬間、突然大鳥の体制が崩れた。

「ボル、どうした!?」

そしてそのあとにパチリと背中を叩かれる音、気づくと背中には桃色のペンキがべったり塗られていた。パニィが早くも一発シードに当てたのだ。気づくと彼女はシードの真下を飛んでいる。

「いつの間に!」

「まずは一発目!」

こちらを見上げてVサインにウィンクを見せてくる。さっきの攻撃、彼女が全く見えなかった。そして次に見えた時にパニィはシードの真下にいた。訳がわからない、今までこのようなことは経験したところがなかった。シードは心底これが実践ではなく模擬戦だったのが助かった。実践だったら死んでいる。

「3回当てられるとゲームセットだったな、次で奴の戦術を見極めないとヤバイな」

上昇を続けながらパニィを見失わないように目で追う、何をしてくるパニィ!やがてやって来る降下の時、その時でもシードはパ二ィを見失わないようにした。進行方向は真下だが顔はパニィの方向をだ。だけど上昇から下降に入るその一瞬だけ目線を進行方向に向けたのだ。だけどその一瞬だった。彼女は居なかった……彼女の乗る橙色の大鳥は見えるのにそれに乗っているはずのパニィが見えない、おかしい不思議で理解しがたい。

「まった、大鳥の上にパニィが居ないのはおかしい!何処だ!」

ほんのちょっとだ、その間にパニィは大鳥残して姿を消した。この事から何が起こったのか?あるひとつの仮説は浮かぶのだがそれはあまりにも常識では考えられないと言うか……

「まさか……?」

常識では考えられないがやはり引っかかるところがあり目線を少しだけずらす、視界の中央にはあの橙色の大鳥ではなく自分の真上、そこを向いた時だ。シードの仮説はもうすでに仮説という意味をなしておらず常識までにはなっていないもの確かに現実となっていた。

「ま、まさか!大鳥から飛び降りただと!?」

彼女は確かに居た、真上にいた。だけど大鳥はまだ上空、大鳥を飛び降りて生身でここまで降ってきたのだ。

「死ぬ気かお前は!」

パニィは恐らく先程もあの飛び降り戦法を使ってきた、つまりただ単に死ぬ気で飛び降りた訳ではない。攻撃するために自分から落っこちてきたのだ。なんと命知らずな戦法だろうか?

「だがパニィ、その状態では落下の角度を途中で変えることはできないぞ?」

大鳥に乗っているシードは手綱をいじることで落下の角度を少し変える。この状態なら大鳥に乗っていないパニィはそのままシードの脇を落ちていくことだろう、あの短いナイフじゃシードまで届かない、そう思っていた。思い込んでいた。


ボフッ!


丸めた空気がはじき出したような音、シードはこの音を聞いたことがあった。何の音かと思い出すがその必要なくその音の正体はパニィの背中にあった。彼女は左手に植物の茎を持っておりその先端には小さなパラシュート……

「ポ、ポリマワタゲ!?」

それは兵士が万が一、大鳥から落下した時に備えて携帯する物、使えば巨大な綿毛が出現して落下スピードを落とすことができる。パニィが使うものは小ぶりなものであるがそれでも使えば落下スピードを遅くしたり持ち方次第で落下の機動も捻じ曲げられる。

「な!?」

「二発目!」

シードの左肩にペンキが塗られた。パニィはそのまま落ちていくがそれを見事に大鳥が拾っていく。再び上昇を始めていた。




 シードと共にアオヤにやってきたヒロキとクラリュは目を丸くしていた。あの力の右腕と比喩されるシード・クリスティが二度もナイフを当てられたのだ。長い付き合いだったクラリュもまだ短い付き合いのヒロキもシードを信じきっていた。シード・クリスティはパニィ・パッツア程度には負けはしない、圧勝だろうと感じていたのだ。

「大鳥から飛び降りるってどんな戦法だよ!大鳥が拾ってくれたから良いが手綱から離れた大鳥が拾うとも限らないだろう」

「そんなことはないさ」

クラリュの疑問、と言うよりは率直な感想ではあるがミクロはその疑問に答えた。ミクロも疑問に答えるというよりは単純にパニィの自慢をしたかっただけのようだ。

「あの大鳥、レンはパニィが雛鳥から育てたものだ。パニィが育つとレンも育つ、共に育ったパニィとレンは一心同体、そんじょそこらの兵士と大鳥の間柄じゃない」

決闘が始まって2度、パニィはあのレンから飛び降りている。そして同じように2度レンが足とか背中とかを使ってパニィを拾っているのだ。両者には相当な絆がある、そしてその絆があるからこそ大鳥から飛び降りることができる。

「彼女が使っているポリマワタゲ、少し小さい……あのポリマワタゲは?」

ヒロキが眼鏡の鼻あてを上げて決闘を見守る。学者であるヒロキはパニィの使うポリマワタゲに目を奪われていたのだ。彼女の使う綿毛は緊急用の綿毛とは少し違う。

「あのポリマワタゲは通称パッツアワタゲ、パニィの兄貴が品種改良したものだ。ポリマワタゲは使い捨てだろ?あの綿毛は繰り返し使えるんだ」

「繰り返し使えるポリマワタゲか、確かそんなものが研究されたと聞いたことある。だけどその研究は確か……」

ヒロキがボルーキ大学に入学する少し前の話でヒロキも先輩から聞いたことがある。繰り返し使用できる綿毛を作ろうとある学生が研究を始めた。結果的に繰り返し使えるようにはなったのだが綿毛の大きさが小さくなってしまった。小さな綿毛では十分に落下スピードを減らせるか不安だったのだがこの研究は軍側に成果提出の期限があり大学側も焦った。早いうちに成果を出したかった大学は研究をした本人が被検体となりクロウバ上からの成果実験を強行、学生はポリマワタゲを手に落下したわけだが当然小さなポリマワタゲは十分に落下スピードを落とすことができずにその学生は落下地点に激突、死亡したという。この事件をきっかけに研究はなかったことにされた。白紙に戻すどころかその白紙を燃やしてこの世から消し去ったのだ。

「まさかその学生は……?」

「ホロ・パッツア……パニィの兄だ。パニィは兄の研究の成果を出そうと、世の中に兄の研究を認めてもらおうとあの綿毛を使っている。研究の期限を迫ったのは軍だったからな、彼女は兵士を憎んでいるしそれと同時に彼らに認めてもらおうとあんな戦法を使っている。レンもそれに同意だ」

パニィのあの無茶苦茶な戦法、それは兄への思いと大鳥との絆の上で可能にしていた。恐らく同じ戦法を他の兵士でやろうとしても成功しないし危険すぎるだろう。パニィにしかできないあの飛び降り戦法、彼女にしかそれはできないし彼女は誇りを持って信頼している大鳥の上から飛び降りる。大鳥もそれを信じて彼女を下で待ち彼女を拾う。




 シードにとっては屈辱的だった。見切ったと思ったら2度目のナイフを当てられた。

「右腕も大したことないじゃない、これが実戦だったらもう死んでいるんじゃないの?」

そんなことを言われる。頭が沸騰しそうだがここで沸点に達してしまっては意味がない。それこそ相手の思う壺だ。

「だが種も仕掛けもわかった。どうにかなる!」

上昇から下降、そして交錯の時だ。パニィは相変わらず、そして当然のように大鳥から飛び降り綿毛で軌道を捻じ曲げる。あのポリマワタゲは連続で使えるようで一度ならず二度も三度も落下軌道を曲げてくる。

「その攻撃は見切ったんだよ!」

パニィが落下軌道を捻じ曲げることはもうわかっている。ならばその軌道を曲げる前に槍を突き刺せばいい話!

「一発目だ!」

パニィのポリマワタゲは開いたのだがほんの少しだけ遅かった。シードの大槍はパニィの胸元に突き刺さりその部分がピンク色に塗られる。

「くうぅ!」

「まだだ、まだ終わらない!一度の交錯で攻撃が一度とは思うな!」

こめかみから汗を一筋流すのはパニィ、すぐさまポリマワタゲを持ち替えて軌道を変えようと試みるがそれは無駄だった。シードは槍を突くのではなく振り回したのだ。これが実戦だった場合は相手を牽制するだけで倒すには至らないだろうが今回は模擬戦、単純に相手に攻撃を当てればそれで勝利なのだ。ならば相手を倒すのことを優先するよりも相手に攻撃を当てる方を優先したほうが良い。

「このまま三発目も当てていくぞ!」

槍を上から構える。当初は劣勢だったが今は五分五分、そしてこの落下状態のまま勝利してしまおう。振りかざした槍を振り下ろそうとしたとき、その轟音は耳を劈いた。こんな音は日常生活では聞こえてこない、聞こえてくるのはそう……戦場だけだ。

「今の音は!?まさか大砲か!」

シードは振りかざした腕を元に戻す。そしてパニィもまた同じだった。

「なに?街の方から聞こえてきたけど!」

街の上空、そこに船が一隻飛んでいる。あの船は民間船や貨物船の類ではない、大砲やらなんやらで完全に武装している……あれは戦艦だ。

「街には煙が上がっていない、さっきの大砲は威嚇か!?」

あの戦艦はフォイップ王国の戦艦、現在フォイップの戦艦はアクエリアス以外すべてクーデター側が握っている。そしてそのアクエリアスは今この決闘場所に浮いている……つまりあの船はクーデター側のものなのだ。

「あの船は王都の悪い奴らだ!アタイたちの街を壊しに来たんだ!」

一目散に飛び去る橙色の大鳥、プライドのかかっている決闘よりもパ二ィは街を守ることを選んだのだ。

「パニィまて、一人では危険だ!」

その後ろを追いかけるのは赤色の大鳥、パニィと決闘しているシードだってアオヤを守りたいことには変わりない。これは別に取引とかそんなものではなく単純な感情だ。

「これは、面倒なことになりそうだ……」

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