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第16話 タツマの罠

 枝に乗った瞬間に鼓膜を刺激するやかましい音……タツマ一帯に響くほどの音がシードとミリアの耳から槍を刺した。

「なんだよこの音!」

「シードあれ!木の枝になにか付いている!」

やられた!各枝に細い糸が仕掛けておりその先に松ぼっくりの様な実が仕掛けられていた。

「あの実か!?」

護身用に持っていたヤイバラのナイフで糸を切る。謎の実はこれまたやかましい音を立てて落下していった。

「ミリア、この大槍を!」

「シード?どうして!?」

この任務ではミリアに武器の携帯を許可されてない。まだ信用が完全ではないし偵察任務では戦闘は避けるべきものであるからだ。

「見つかっちまったらしょうがないだろ、ほら!」

「いらないわ……その代わりさっきあなたが使ったアレをちょうだい」

大槍を拒むミリアが求めたのはシードが先ほど糸を切るときに使用した護身用ナイフ、言っておくが護身用ナイフということは護身用であるわけであり戦闘用ではない。第一大鳥の翼が邪魔で空中戦など無理だ。

「おいミリア!」

「私は黒太刀部隊出身よ、槍よりナイフの方が慣れているわ!槍よりナイフの方が太刀に近い!」

シードからナイフを引っ手繰りそれを腰のベルトにしまった。シードとしてはここで男を見せたかったのだが……カッコ悪い。

「とにかく早くこの場を離れるわよ!」

「そ、そうだな!あの大音量じゃあもう誰かが来ても……」

シードとミリア、2人の会話のはずだった。だがそこに第三者が加わる……

「そうねぇ、五月蝿いガララボックの音につられてアタシが来たわ」

ミリアと同じ黒い大鳥に乗った長身の女性、太刀こそ持っていないが身につけているものからして……

「シ、シズイ!?どうしてあなたがここに!」

やはり黒太刀部隊の一員、それもミリアの様子からして恐らく黒の四人衆だ。なぜ黒太刀部隊である彼女がタツマの拠点にいるのかはわからないが厄介な事になった。

「アタシがここに居るのは別に不思議ではないでしょうミリア、アタシはエアリーの者だし……この間ロゼーの戦闘で失敗して謹慎中のタツマの稽古をアタシが務めることになったとしたら貴方は信じるでしょう?」

恐らく彼女、シズイの言うことは少なくともミリアを納得させるものであることはミリアの表情を見てシードも読み取ることができた。

「だけどミリア、貴方が侵入者としてここに来たのは不思議でしかないわ、それもフォイップの兵士……それも“力の右腕”と一緒に来るのはね」

どうやらシードの事はお見通しのようだった。これだから有名人は困る。

「わ、私は……」

「ロゼーに偵察に行ったと思わせておいて寝返ったっというわけ?それだったら容赦しないけど?任務の放棄に反逆とは聞いたことがないくらい馬鹿げた軍機違反だけど?」

「私は……!」

ミリアは語ろうとしない、だけどただ一人称を繰り返すその様は何か言葉を探していてそれでいて見つからないようだ。

「ヴィンセントやアントニオに殺らせるのは可哀想ね、だからアタシが殺る。貴方がもし答えないならアタシが」

「……そうよ」

ミリアは遂に答えた。

「そうよ、シズイの言うとおりで私は任務中に敵国に寝返った。だけど正確には最初から寝返るつもりでエアリー軍に……黒太刀部隊に入った」

シズイの目が光ったような気がした。殺気なのか涙なのかはシードにもミリアにもわからない。

「とにかく逃げる!」

「逃げる!」

シードとミリアの意見があったのはこれが初めてかもしれない。




 前回のロゼーでの防衛戦も夜だったが今回も夜だ。ただ違うことは前回は防衛戦、今回は偵察……いや、逃走戦かな?シードとミリアは目立たないように森の中を高度を低くとって飛んでいた。

「ミリア、さっきのシズイってのはどんな女なんだ?」

「シズイ・ドナー……あなたも察していると思うけど黒の四人衆のうちの一人よ、彼女は武器は小太刀程度しか持たないけど仕掛けた罠や豊富な植物知識で仕掛けてくる……接近できれば怖くはないだろうけどシズイはまず出てこない……」

「それで、あいつがタツマの教官だか講師だかになるのはありうるのか?」

「ありうるわね……」

シードはシズイの事を知らない、だかミリアは彼女を知っている。だから聞いたのだ、彼女の言っている事に信ぴょう性はあるのか?また彼女はどんな人物かと……

「そもそもタツマはシズイの活躍を見た軍のお偉いさんが設立したのよ。だからタツマは本来彼女が教官となる予定だったのだけど本人はやりたくないと拒否した。だから彼女は変わりに黒太刀部隊に入った」

つまり彼女がタツマの指導をするという事自体に不自然なところはないのだ。

「だけどなぜ急にタツマに?」

「多分だけどヴィンセント、黒太刀のリーダーが頼み込み……いえ、ほぼ強制的にタツマに行かせたのでしょうね」

この間のロゼーへの攻撃はタツマにとっては名誉挽回のチャンスだったという、それが失敗したという事はそのチャンスを失うということ……タツマが謹慎中と言うことはそれなりの罰を受けたということだ。

「解散の噂すらあったタツマよ、まあヴィンセントとタツマを設立した軍のお偉いさんが個人的知り合いだったからどうにかシズイを送り込むことで繋ぎ留めたってところね」

何だか難しい話になってきた。シードとしては関係ない話だったので終わりにしたかったのだがミリアは話したいのか相変わらず話を止めない……

「それでタツマは大統領のソレミオさんと総司令官のレイヴンさんが設立したと……」

「うぉ!?ミリア、前だよ前!」

シードは耳を塞いでいたのか進行方向に起こっていた異変にはすぐに気がついた。

「え?ってうおぉぉぉぉわい!」

丸太だ……しかもトゲがたくさん付いた丸太だ。ロープでくくりつけて振り子の要領で落としてきた。

「あぶなっ」

シードは右に、ミリアは左に丸太を交わす。木の上の方で誰かの舌打ちが聞こえたような気がした。

「さすがタツマの拠点、罠ばっかりですかい!」

「罠に掛かった所にトドメを刺すというわけね」

この先にタツマがどんな罠を仕掛けているか分からない、それにシードとミリアが侵入したということはもう相手にも分かりきっているだろう。

「ミリア、何している?」

ミリアは飛びながら拠点の方をパシャパシャとカメラで撮影していた。

「何って撮影よ、一応は偵察任務なのだからね。シズイからはタツマが謹慎中と聞いたし後は拠点の写真でも撮っておけば最低限の任務は達成できるでしょう」

「だけどさっきの罠を見ただろう?他にも何か仕掛けてあると見るべきだ。ちゃんと前を見て……」

そんなことを言っていたそばだった。シードの体に何かがぶつかる、最初は枝にぶつかったのかと思ったが感触がもっとソフトだ。となるとこれは……

「こ、こりゃ!」

糸?よく見ればこれは糸だ。蜘蛛の巣状に張り巡らせてあるこの糸は飛びながらだと見落としてしまうだろう。大槍を落とさなかっただけシードは上出来だと感じた。

「あぁんもう髪に絡まった!」

「そんな長い髪をツインテール擬きにまとめているからだ!」

「ツインテールじゃなくてツーサイドアップ!」

「どうだっていいだろ!」

「重要よ!女としての嗜み!」

蜘蛛の巣の中で騒ぎ立てるものだから体がさらに絡まってしまった。

「はっは~メンメン糸の罠にかかったみたいだな!」

若い男の兵士が飛び出してきた。罠にかかったのを見て出てきたのだろう。

「あの人はどこからか見たことがある!」

ミリアは彼をロゼーの見張り台経由だったが見たことがある。彼の名はヘンリ、ロゼーの大砲を2つ破壊した功労者である。

「“力の右腕”、そして黒太刀の裏切り者よ!一方的で悪いがこれも戦争なのでな」

ヘンリが大槍を突きたてシードに対して突進を仕掛けてくる。

「それで勝ったと思うな!」

シードはどうにか絡まっていなかった左足を振り、ヘンリの脇腹に命中させた。鈍い音と鈍い声を立ててヘンリが体制を崩し攻撃は不発に終わる。

「シード!」

ミリアはその間にシードから預かっていたナイフで糸を切っていたようだ。まだ腕やら足やらに糸が絡まったままだが動いたり飛んだりする分には問題ない。自分を開放したあとはシードとその大鳥の絡まっている糸に取り掛かっていた。

「対応が早いな、さすがは黒の四人衆か!」

体制を立て直したヘンリは回れ右、エアリーとフォイップ、両国のトップレベル兵士では流石に相手が悪い。

「ここまでだな、あばよ!」

夜の闇にヘンリは消えた。

「その“あばよ”は俺のセリフだ!」

この面倒な罠の数々を一個一個相手にしていたらキリがない、罠は木やその枝にロープや糸で仕掛けているようだ。つまり罠を回避するには木のない場所を飛ぶしかない。タツマは背の高い木で拠点を隠していると思っていたが背の高い木はそれだけ罠を仕掛ける場所が多いのだ。

「ミリア、高度を高く取る!」

「ちょっと待って、それだと目立っちゃう!」

「もう十分に目立っている!」

高度を低く取ると罠に引っ掛かり易くなってしまう、逆に高度を高くすると罠には掛かりにくくなるが周りからは丸見えだ。

「だがミリアよく考えろ、ここの連中は工作員としては優秀だが戦闘なれはしていない……だからさっきの兵士はミリアに絡まった糸が切れた途端に逃げ出したんだ」

「つまり、戦ったほうが楽というわけね」

目立たたいように低空を飛んでいたのだがこれが一転、今度は高度を取って罠をやり過ごすことになった。

「随分と静かね……」

「流石に罠は仕掛けられていな……」


ドン!ドドン!


確かに罠は仕掛けられていない、そう“罠”は……

「ちょっとシード、これ大砲じゃない!」

「あ~凄い、さすがタツマだ!」

「感心している場合!?」

蛇のように蛇行しながら大砲の弾を避けていく、砲台の数は半端ではないようでロゼーのそれよりも数が多いだろう、

「ミリア!もっと高度を取れ!狙われるぞ!」

「にゃあああああ!分かっているってぇ!」

厄日だ、本当に今日は厄日だ……暫くタツマは謹慎中と聞くができればもう2度とこんな拠点に行くのはゴメンだ。




 タツマの拠点はどうやら抜け出したようだ。大砲の音も聞こえてこない……周りはただ夜の静けさと月明かりで満ち溢れていた。戦闘が得意ではないとは言えあの罠やら仕掛けやらを仕掛ける腕は神がかり的だ。

「まぁここまでくれば大丈夫そうだな」

「ひ、ひどい目にあった……」

クロウバを停泊させた小川に戻ってきた。タツマは実戦部隊ではないし今は謹慎中、深追いしてここまでは追ってくるという事はないだろう。シードとミリアは安心して木の枝に大鳥を停まらせた。

「ミリア、お前も裏切り者とバレちまったからな」

「近いうちに結局知られるようなことよ」

もう夜明けに近いのか東から朝焼けのオレンジが顔を覗かせつつある。結局一晩中戦っていたのだ、ここは早いところクロウバに乗ってロゼーに帰還したいところだ。食事とシャワーでも浴びれば疲れも8割がた取れるだろう。

「あれ?」

「どうしたの?」

「クロウバがない……」

タツマまでの目印の一つである小さな小川、ここにクロウバを隠してあったはずだ。それも生い茂る木の枝に着陸させてあったので外からでも目立たないような場所、だけどシードとミリアは確実に場所を覚えている。だがそこにあるべきクロウバの姿がないのだ。

「シードあれ!」

ミリアの人差し指が指すその先は地上、そう地上だ。

「な……!?」

目を疑った。正直いってシードはその光景を認めたくなかった。出来ればこんな状況を日の出で辺りが照らされる時に見たくはなかった。


朝焼けのオレンジが照らすのは無残に破壊されたクロウバの残骸、そしてそれを喰らうジライソウだった。

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