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第6話 黒の四人衆

 エアリー共和国首都”キルパ”、エアリー南部に存在する大都会だ。ここは……いや、ここに限らずユードラ半島の町や村は20年前に大きく姿を変えた。ジライソウの存在により地上の建物から木上の建物へ……それはフォイップもエアリーも変わらない。

「ヴィンセント、戻ったぞ」

「ただいま」

キルパの軍事施設のある一室に入ってきたのはテオ・アントニオ、ミリア・バーンの2人、この2人が戻ってきたことによって面子が揃ったということになる。

「ご苦労だったな」

ヴィンセント・ゲルデマン、黒の四人衆のリーダーである。年はアントニオと同じくらい。彼もまた20年前の戦争の英雄である。

「……それで例のブツは?」

長身の女性、シズイ・ドナー、ミリアよりも若干年上である。この部屋は正しく黒の四人衆の待機室であった。

「ほらよ、探すのに苦労したぜ」

アントニオからシズイに手渡されたのは木製の入れ物だった。レザクロの木の皮を使ったバッグは防水性抜群だ。

「アントニオにミリア、帰ってきて早々に悪いが緊急のミーティングを始める。まぁ席について構わないから休みながら聞いてくれ」

「ミーティング?困ったな、俺たちも早急に話したいことがあるのだが……」

「そっちからで構わない、こっちの話は長くなるからな」

丸い机に4人がこれまた円になるように席についていた。南ミーラ山に行っていた2人、そして残っていた2人、どちらにも話さなければならない事がある。

「じゃあこっちからだ、南ミーラ山頂に不審な影があったので行ってみたらフォイップの兵士と民間人らしき人物が何かしらの調査を行っていた。望遠鏡で死の土地を覗いているようだったが結局逃してしまって目的はわからない」

アントニオは南ミーラ山で起こったことを完結に述べた。ミリアはというとただ黙ってそれを聞いていただけだ。別にアントニオの言うことに間違いは無いしアントニオの方から言ったほうが説得力がある。ミリアはただ黙ってそれを聞いていたのだった。

「逃がした?アントニオとミリアがいて兵士一人を逃がすなんてな……」

「面目ないです……」

なんだか責められているような感じがしたのでミリアは謝っておいた。この部屋に入って一番最初の言葉が“ただいま”でその次が“面目ないです”だとなんだが後ろめたい気持ちがあって帰ってきたみたいである。

「いや、別に責めているつもりはない。ただこの2人から逃げられるフォイップの兵士が気になってな……」

ミリアは少し顔に出るくらいにはほっとした。何もヴィンセントがこの程度で怒るような人間だとは思っていない、むしろ優しい人間だと思っているくらいだ。ヴィンセントはミリアにとって父親のような存在である。だからこそ怒られるのは避けたい、そう感じるのだった。

「ヴィンセント、奴とは少ししかやり合っていないが凄腕と見た。ミリアと同じくらいの年齢だったのに対したやつだよ」

「私は多分、最近噂の”力の右腕”か”頭脳の左腕”のどちらかと思う」

“右腕”も“左腕”もこの戦争に入ってから一騎当千の活躍をしているという、黒太刀部隊のメンバーも何人かこの2つの腕にやられてしまった。

「いずれにせよご苦労だったな。この件に関してはレイヴン総司令にも伝えておく」

ヴィンセントとしては南ミーラ山での戦闘には興味がなかった。現在重要なのは主戦場であるユードラ半島北部、そしてフォイップのある土地だったのだ。


 アントニオとミリアからの報告は終わった。これからはヴィンセントからの緊急のミーティングである。

「それでは私からの話だ、本日タツマからフォイップの王都ボルーキに送った諜報員よりある情報が舞い込んできた」

「タツマ?あぁ中部の国境地帯にある隠し拠点か」

「簡潔に言おう、ボルーキで何らかの暴動が起こったらしい」

ヴィンセントはあまりにも簡潔でまとまった言葉を放った。しかしその言葉は非常に大きな意味を持っている。

「暴動?」

「ヴィンセント、ボルーキで一体何が……」

敵国の事とは言え重大な事件である。状況によってはこちらも何かしらの行動を行う必要がある。

「どうもあちこちで火が上がり住民どころか軍人同士も戦闘が起こっているという」

「もうちょっと詳細な情報は無いのか?」

「詳細な情報?そんなのタツマの連中が出来ると思う?」

慌てる2人をバッサリと切り去ったのはシズイだった。彼女はまず言葉の力で2人を黙らせると話を続けるのだった。

「タツマ……エアリーの諜報活動の為の拠点として築かれたもの手柄らしい手柄は立てていない。ボルーキに潜入したと言ってもせいぜい住民程度で軍部や王室に潜り込んだ者はいない。クーデターが起こったという情報は持って帰れても詳細は不明、それが現状だ」

「とにかくフォイップ全体が混乱状態にあることは間違いないだろう、これはチャンスだ」

「フォイップに乗り込もうってか!いいだろう!」

黒の四人衆はエリート中のエリートである。であるがそれが故に4人はここぞという戦闘や作戦で表に出る存在でありそう言う意味では余り戦闘の機会がない4人であった。アントニオは久しぶりの出番にやる気満々だった。

「意気揚々としているところだが俺たちが乗り込む訳ではない」

「なんだよ!」

アントニオは急上昇した体温を急降下させるのだった。

「私が何故さっきタツマの話題をしたのか、それはタツマにフォイップを攻め込ませる作戦だからよ」

タツマの創設、これには色々と事情がある。タツマを発案したのは現在のエアリー首相であるソレミオ・オーナー、元軍人である。20年前のオデッサ戦争にて総司令官として活躍したソレミオは退役後に政治活動を始め1年半前に大統領に当選した。

「ミリアとシズイも少し話を聞いていると思うがソレミオ大統領は私やアントニオ、それにレイヴン現総司令の教え子だ。そんな私としてはタツマに何としてでも活躍してもらいたい」

ミリアもヴィンセントの気持ちが分からないわけではない。ソレミオ大統領発案、レイヴンが設立したタツマは現在これといった活躍がない上にこの間はフォイップの戦艦がタツマ周辺を彷徨いていたのである。隠し拠点としては失格に値する状況にタツマは立たされているのだった。実際、軍部の一派にはタツマの必要性に疑問を持つ声も増えておりソレミオやレイヴンの支持も少なからず弱くなってしまった。

「タツマが掴んだ情報でタツマの部隊が出陣し町の一つでも制圧する……タツマ名誉挽回のチャンスだ。タツマの近隣だと国境近くのロゼーがいい、あそこはユードラ半島中部の土地だが軍事施設も多いし制圧できればこちらが大きく優勢になる」

それだけではない、ロゼーから真西に向かえば首都ボルーキである。来るべき首都制圧戦の重要な拠点になるだろう。

「このロゼー制圧戦だがクーデターの混乱中にやらなければ意味がない。タツマは本来諜報機関だが戦闘技術もそれなりにある。我が黒太刀部隊からも5人派遣するし制圧はどうにかできるだろう」

「さてどうなることやら……」

シズイはただニヤニヤ笑っているだけだった。

「あくまで“タツマの作戦”の為、黒太刀部隊からは最低限の戦力しか出さない。無論私たちはお留守番だ」

「仕方ないか……」

事情は理解していたものアントニオはせっかくの出番が無くなったどころか元々存在しなかった為にテンションが下がっていた。ただソレミオやレイヴンの顔を立てるためにも一度抜きかけた剣を収めるのであった。

「ロゼー強襲は明後日、黒太刀部隊からは5人派遣する。それまでの間、私たちは首都ボルーキ、及びロゼーに偵察しに行く。ボルーキはシズイ、君でいいかな?」

「構わないわ」

実に無難、そして的確な人選だった。シズイはこの手の隠密的な作戦が得意なのである。諜報機関であるタツマも彼女の指導が入る……ハズだったのだが彼女が拒否したので話は無くなった。

「そしてロゼーだが……」

「ヴィンセント、ロゼーには私に行かせてくれないかしら?」

ミリアが手を挙げた。これは意外だったのかあのシズイですら反応を見せた。動揺しなかったのはヴィンセントだけだ。

「ミリア、君はこの手の任務は初めてだろう?確かに君の戦闘能力は認めるが……」

ヴィンセントは静かにミリアの手を下げるように促す。恐らくロゼーはヴィンセント自身が行くつもりだったのだろう。

「えぇ、戦闘技術はあるわ、だってあなたに教えてもらったのだもの。だからこそ、だからこそお願い、フォイップに行かせて」

「フォイップ?フォイップはフォイップでもロゼーじゃない?」

シズイは笑うがミリアはそんなことはお構いなしだった。

「…………」

ヴィンセントはミリアを見つめ続けている。ミリアにとってヴィンセントは父親同然、彼はミリアを隠し事をしている子供を見るような目で見続けていたのだった。

「……そうか、その時か」

ヴィンセントは静かにつぶやいたが小さな声だったので静まり返った部屋の中でも誰の鼓膜にも響かなかった。

「いいだろうミリア、ロゼーには君に行ってもらう。任務の直後で申し訳ないがことは急ぐ、早急に出発してくれ」

「了解しました!」

ミリアは強い目つきを維持いたまま部屋を出て行った。やたら足音が聞こえるような気がした。普段は任務こそ確実にこなすものどこか柔らかい印象のあるミリアだったが今日は並々ならぬ気配を漂わせていた。

「ヴィンセント、いいのかミリアに行かせて……お前が行くつもりだったのだろう?」

アントニオが親子ゲンカを見たあとのような気がして思わずヴィンセントに話しかけるのであった。ヴィンセントと古い付き合いであるアントニオはミリアのこともよく知っている。どういう縁かは知らないがヴィンセントはまだ幼いミリアに戦闘技術の全てを教えていた。それだけではない、人としてどうあるべきかという本来は親の仕事である所まで教えていたのだ。ヴィンセントとミリアの絆は親子のそれに近い。

「構わないさ、ミリアならやってくれる」

「ならいいけど……」

ミリアの去った部屋の中で気まずい雰囲気があたりを包む、ミリアがあそこまで積極的になるのは珍しかった。うまく言いくるめているようにも見えるが何か裏がある、付き合いの長いヴィンセントやアントニオには分かりきっていたことだった。

「そろそろ私も出発していいかしら?」

空気に耐え切れなくなったのかシズイが立ち上がった。シズイは他の3人とは違い半年程度の付き合いである。黒太刀部隊編成の為に他の部隊から引っ張ってきた人材だ。その為だろうか?どうも黒太刀部隊の空気に未だ慣れていない所を感じる。

「あぁそうだな、シズイも出発してくれ」

ヴィンセントはシズイを送り出すのだった。最も送りの言葉をかけたところで既にシズイは部屋の中にいなかったのだが……


 黒の四人衆、その半分が帰還したと思ったら半分が出発した。ロゼー攻略に向けた下準備、シズイとミリアは目的地こそ違うが同じ目的で動くのであった。

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