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アルカナ (ARCANA)   作者: 1484ー5
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第52話 四面廻廊Ⅱ3

 やっとお届けできました!アルカナ本編です。お待たせしてすいませんでした。

 光一と合流できたことは、戦いの渦中にある少女に確かな安心感をもたらしていた。

 年端もいかぬ十代の少女に、殺伐とした戦闘(こうい)は荷が重かったのだろう。追い詰められていく感覚が、救いの手を求めさせたとしても誰に咎められるはずもなかった。

 光一の姿を見て安堵した沙樹は、改めて自分の心が平静さを取り戻していくのを感じていた。

 気持ちが落ち着いたせいか、少しだけお互いの距離が近付いていた。少年が、少女の無事を確認する。


 「支倉……。その、大丈夫だったか?」

 「うん。ありがとう、光一君」


 光一の心配が、沙樹には嬉しかった。打算の無い心から出た言葉が胸に響く。

 

 「いや、俺のほうこそ……。むしろ、すぐに来れなかったし、今まで……。いや、無事で良かったよ」


 謝罪する光一の声が、彼の真摯な心を表していた。自分の非を認め、少女に全ての事情を説明しているのが分かる。


 「それに、この赤い石のことも……。本当に悪かった。最初はもっと燻んだ灰色だったし……。その、色が変わったなんて話をするのが、信じてもらえないかと思ってて……」


 非難さえ甘んじて受ける覚悟をしていた少年は、思いがけない言葉を返された。


 「光一君が持っててくれて良かった」


 一瞬、何を言われているのか解らず、光一は固まっていた。


 「本当に良かった」


 そう言って微笑む沙樹の笑顔に、場所柄も弁えず頬が緩む。自分が好意を寄せる少女の笑みに、少年は耳まで真っ赤になる。


 「あ、まあ。いや、そう言ってくれると」


 辿々しくも距離を縮める二人の様子は、きっと見る者がいたなら微笑ましいと表現したかも知れない。

 互いに思いやり気遣う姿は、若い二人の純粋さそのものだった。少なからず相手に好意を抱き、惹かれ会う少年と少女の姿に初々しさが漂う。

 光一との再会は、エリカの導きであったと沙樹は確信していた。彼女との約束がひとつ果たされた事に、訳もなく嬉しくなっていく。

 もっとも、此処に春香がいたならば、きっと間に割って入るや折角の雰囲気をぶち壊していたかもしれなかったが。

 束の間の平和なひとときが訪れた其処へ、意外な闖入者が現れた。

 其れは、白と黒。

 其れは、二つの重なりあう縞と斑の織り成す紋様。

 支倉の使い魔だけが持つ特殊な魔術が、忽然と空間に浮かび上がる。微光を帯びた魔術文字が現れ、魔法陣が幾重にも重なりあっていく。

 突如として、少女の手元付近から膨大な魔力が放出される。

 少女が持っていた黒革の装丁が施された本から魔力の奔流が迸る。溢れ出す魔力を追うように、沙樹の周囲を囲み展開していく錯視の円環。

 常人では焦点を結ぶことすら出来ない円環の魔術が、途切れることなく蠕動する。

 現れる使い魔の姿を予想して、少女が顔を青くする。


 「あ、待って! ダメ!!」


 主人の声が届いた筈の使い魔は、本来の役目を果たすべく顕現していく。其れは力と恐怖。其れは支配者に仕える不死の化身。

 固まる光一の姿を恐怖に竦んだと解釈したのか、一瞥だけをくれると錯視の蛇(ウロボロス)は口を開いた。


 「主人よ、此処は? まだ霧の迷宮の中であろうか?」

 「あぁ、ウロボロス……」


 沙樹の声が、非難の色を込めて使い魔を呼び止める。しかし、その非難も諦観にとって変わろうとしていた。

 背後にいる少年の反応が気になるのか、沙樹は光一に伺うような視線を送った。躊躇うような視線が、彼への罪悪感を表していた。

 あまりにも唐突に、少女の秘密の一旦が少年へと晒される。隠しておきたかった事柄が、伏せておきたかった魔術世界の存在が、よりによってこの時に露になっていた。

 もし気味が悪いなどと思われたなら立ち直れないと心配しながら、沙樹が息を飲む。

 ドクン、と心臓の音が跳ねた気がした。

 

 「俺なら大丈夫だ」


 遠くから聞こえたような少年の声は、少女を気遣ってはっきりと口に出されていた。

 決意を載せた瞳が、目線を上げた沙樹を迎えた。


 「俺のことなら、大丈夫だ」


 もう一度、彼はそう言った。


 「えっ? なんで……」


 言い淀む少女の不安を打ち消すように、光一は続けた。


 「この前、久和に聞いたんだ。あいつの家のこと。この世界のこと。それと、君のお母さんのことも……」

 「……光一君」


 沙樹の表情が、懺悔に沈む。合わせた両手の指が白くなるほど握り締められる。


 「ごめんなさい! 黙ってるつもりじゃなかったの。ただ、色々とありすぎて……」


 言わなかった後悔が、少女の心を責めたてていた。人伝に知られた事に、沙樹は動揺を隠せなかった。


 「違うんだ、俺のほうが久和に頼んだんだ! 謝らないでくれ、俺は……」


 光一の抗弁に、沙樹が反応した。


 「……春香、に頼んだ?」

 「うっ……、その、なんだ? ちょっと事件があって、その時に聞いたんだ」

 「事件(・・)って、何時(・・)の事なの?」

 「いや、何時っていうか……。そ、それより久和は? あいつは何処に行ったんだ?」


 会話中に、魔力の波が泡立つ。使い魔の気配が強くなる。


 「主人よ。取り込み中だが、失礼する」


 錯視の蛇(ウロボロス)が這いずると、円環が残像を残していく。


 「もうひとつ尋ねたい。誰かが此処に来なかったか?」

 「誰かって……?」

 「此処に魔女(・・)が来なかったか?」


 その一言で、沙樹の鼓動が速まった。話していないエリカの来訪を何故使い魔は知り得たというのか。


 「あ、あの……」

 「強い魔力を感じたのだが……。それこそ亜流の魔女とは比較にならぬほどの魔力だ」


 沙樹の喉がなる。何故か彼女の話をしてはいけない気がして、少女は沈黙を守った。


 「……ごめんなさい。私も逃げるのに夢中で、誰かがいても分からなかったの」

 「主人よ、主人が謝る事はない。ただ、懐かしい魔力を感じた気がしたのだ。もっとも、有り得ないはずの話だ。主人は気にしなくていいことだ」

 「うん、分かったわ。」


 使い魔の問いを誤魔化した沙樹の鼓動が、ようやく落ち着きを取り戻した。だが、その落ち着きも次に使い魔が告げた内容に凍りついた。


 「それより、主人よ。守護者の娘がこの先にいるようだが?」


 錯視の蛇(ウロボロス)の案内と護衛によって、沙樹達は春香を発見した。

 正確には、倒れたままぴくりとも動かない彼女の姿をだ。霧の迷宮で、またひとつ問題が発生していた。


 「春香!」

 「待て! 主人よ、無防備に近付いてはならぬ! どのような仕掛けがあるか分からない状況なのだぞ!!」


 そんな使い魔の口上も聞かず、沙樹は倒れた親友に駆け寄っていた。光一と合流した場所からすぐのところで倒れていた事実に、沙樹は血相を変えた。

 近くにいながら発見が遅れた事実に、見つけた親友の容態に血の気が引く。


 「春香、しっかりして! 目を覚まして!!」

 「意識が無いのか!? おい、久和聞こえるか? しっかりしろ、おい?」


 光一も後に続く。沙樹の横から、春香の様子を確認する。


 「春香、何処か痛いの?」


 手に取った春香の指先は、冷たかった。それこそ、生きてはいないかのように。そして、苦しみに表情が歪んでいる。

 最悪の予想に、少女の顔色が青ざめていく。


 「ねえ、返事をして。春香!」


 春香の居場所を当てた蛇の言葉によれば、霧の迷宮に倒れた者が同じような症状を示すのだという。


 「主人よ、無意味な行動は慎むことだ」


 使い魔の指摘に、沙樹が振り返る。背後から這いずり、近付く従者は無感動に告げた。


 「その少女に傷など無い」

 「でも! こんなに辛そうにしてるのに……」


 沙樹の言うことももっともだった。倒れた親友は気絶でもしているのか、呼び掛けに反応を示さない。だが、その顔は苦悶の表情を浮かべている。

 その様子を俯瞰する蛇は冷静に言い放った。


 「言ったはずだが? この霧の迷宮は、捕らえた者の精神を蝕むと。恐らく、この少女は堕ちたのだ」


 蛇の双眸が、冷たく青く輝く。


 「堕ちたって、なんの事?」


 少女は自らの使い魔に尋ねていた。嫌な予感が頭をもたげていた。


 「堕ちたのだ。自身の罪深さ(・・・・・・)故に。ステュクスの沼に、な」

 「ステュクスの沼(・・・・・・)?」


 沙樹は、思わず聞き返していた。春香の容態を知る手懸かりが、其処にあった。

 ステュクスの沼ーー。

 其れは、地獄の第五圏(憤怒地獄)にあるという自分を見失った者が落ちる地獄のことである。ステュクス河の畔にある淀んだ沼には、生前の欲望に負けた者が落とされるという。不満、不実、虚言、罵詈雑言を吐いた者達の怨念がわだかまり、底無しの沼となった場所でもあった。

 現代における魔術の中には、御技に数えられ奇蹟と言われるまでに昇華された魔術(もの)がある。代表的な例をあげれば、“塔の魔女”が使う金環の魔術やロシアの”雷帝“が使うトニトルスなどがそれだ。中には、殺人芸術と揶揄されるような残虐極まりない魔術もあり、ナンバーズの権威を高めることに一役かっていた。

 四面廻廊と言われる魔術もまた、ナンバーズの一人が使う大魔術である。その魔術に囚われた犠牲者達は等しく精神を蝕まれ、堕ちていくという逸話を持つ。

 冷静に考えれば、危険極まりない魔術の中に沙樹達は捕らえられていたのである。

 錯視の蛇(ウロボロス)は主人の周囲に守護の魔術を展開しながら、霧の迷宮にかけられた魔術に感嘆する。


 (しかし、これほどの強制力があるとは……)


 蛇の双眸が倒れた春香を捉えていた。冷徹な光が、注意深く状態を観察していた。

 使い魔が驚いた理由。其れは、原型(アーキタイプ)でありながら、現代の神秘にすら迫る魔術効果の高さにあった。


 「精神攻撃……、と言えば分かるか? 主人よ、この“ステュクスの沼”と呼ばれる魔術は其の恐るべき魔術効果を畏怖した者が付けた通称名なのだ。範囲内に捕らえた相手に精神的なショックを与え、行動不能に陥れて無力化することができるのだ。相手の自滅を誘い、時には実際に死に至らしめることすら可能と言われている」

 「じゃ、じゃあ……春香は? 春香はどうなるの?」


 使い魔の説明が、少女の焦燥感を煽る。震える声で、希望を繋ごうとする主人に、従者は無情な現実を突き付けた。


 「以前にも言ったが……。もはや戻ることは無い。仮に生きて戻ることが出来ても精神(こころ)を砕かれ、生ける屍と成り果てることだろう。諦めることだ」

 「そんな……!」


 沙樹の心が、冷たく覚めていく感覚に襲われる。

 親友の死を連想させる心的表象(イメージ)に、少女は言葉を失った。

 目覚めない親友が、小さな呻き声をあげた。それは、精神の奥深くに暗闇と表現することさえ生温い地獄があることを暗喩していた。

 暗い闇が何処までも拡がり、奈落を見せていた。

 其の縁で、古の魔女が優しく声をかけた気がした。


 『ユビキタスの迷路で、おやすみ。魔術師さん』


 戻らない少女の安否を気にする沙樹達に、運命は非情だった。









 虚空に闇が犇めいていた。

 心象風景に刻まれた景色は、孤独。しかし其れは、少女には耐えがたい罪状(しろもの)だった。

 その罪を断罪させよと悪魔達が踊り狂う。闇の中で、蠢く気配が伝わってきた。


 「違う、あたしは怪我をさせる呪いなんか知らない!」


 叫ぶ春香の声を嘲笑うかのように、暗闇が呑み込んでいく。


 「あたしじゃないよ!」


 繰り返された問答に、応える者はいない。


 「あたしは何もしてない! みんなどうして信じてくれないの?」


 遠くに、人影が見えていた。同じ年頃の少女達だ。離れているせいか、その表情は見えない。

 だが、その人影(シルエット)に見覚えがあるのか、春香は背の低い少女の一人に顔を向けた。


 「美咲ちゃん、違う! 違うから!!」


 虚しく響く声に、訴える力も萎えていくようだった。


 「違う!」


 それでも春香は、残る気力を振り絞って少女に縋ろうとする。緩慢な身体の動きは、疲労のせいだけではなかった。


 「お願い、信じて!!」


 必死に叫ぶ顔は、少女への罪悪感からなのか。

 いつにない春香の表情は、切羽詰まった者が見せる余裕の無いものと同じだった。其れは追い詰められ、苛まれていた。


 「おまえのせいだ」


 親友の顔をした悪魔が其処にいた。

 閃く銀光が、春香を襲った。腹部に突き刺さる痛みに、春香の神経が焼き切れていく。


 「アアアアアアアアアアアアアアアアアア…………!!!」


 繰り返される痛み。

 責め苛む友人達の言葉。

 未完成な心が、その痛みに耐えきれず悲鳴をあげていた。

 春香にとって、思い出すのも辛い中学生時代の記憶。

 いじめに遭い、信じるもの全てを無くした当時の記憶が、いまだに彼女を責め続けていた。


 「おまえのせいだ!!」


 暗い空間で、誰かが言った。


 「おまえのせい! おまえが呪いをかけたせいだ!!」


 違う一人が春香を責める。


 「美咲ちゃんの怪我は、お前が呪いをかけたせいだ!」

 「あなたのせいで、私も怪我したのよ!」

 「お前がいるせいで、みんなが迷惑してるんだ!」


 かつてのクラスメイト達が、悪魔達と一緒に笑っている。


 「やってない、よ……」


 力なく溢れた呟き。震える声は、か細く小さかった。少女の心が、逃げ出したい衝動に駆られる。

 春香の背後から、それは聞こえた。


 「……魔女」


 聞きたくない、その言葉。


 「違う……」


 抗う声は、掠れていた。


 「魔女!」

 「魔女だ!」

 「魔女、魔女だ! こいつは魔女だ!」


 懇願する春香の声が、虚空に空しく響く。


 「あたしじゃない! あたしじゃないよ! 信じて!!」


 伸ばした手は、空を掴む。バランスを崩した拍子に、春香は転倒していた。

 追い討ちをかけるように、クラスメイト達が口々に春香を責める。


 「出ていけばいい! 魔女となんか一緒にいたくない!!」

 「そうよ、また怪我をさせられるわ!」

 「誰か追い出せよ! こんな奴、迷惑だろ!?」


 伸ばした手が、届くことはなかった。


 「……誰か信じて、よ」


 それは力尽き、やがて地面に落ちた。痛めつけられた心が、急速に熱を失っていく。


 (わたし、は……。魔力を持って生まれた事がいけなかったの?)


 誰に問うでもなく、春香が呟く。


 (私は、もう信じてもらえないの……?)


 震える声で口にした言葉は、届かないまま消えていく。


 (私は……、みんなに振り返ってもらう価値もないの?)


 急速に冷えた心が、身体の熱すらも奪っていった。


 (もう、無理だよ……。戦えない、よ……)


 疲れた心が、休息を欲していた。安らげる場所なら、何処でもいいと心から思えた。

 闇が、恋しいとすら思えてきた。そのまま、意識を手放してしまいたかった。再び目を覚ませば、夢だったと思いたかった。

 何度も、そう思ってきた。

 彼女の人生で、もっとも辛い時期の記憶が甦る。何度も涙を流した記憶が、何度も傷つけられた記憶が春香を覆い尽くしていた。

 すべては無へ。それが、自然な営みだと感じて春香は目を閉じた。

 

 「立ちなさい。闇色の瞳を持つ娘よ」


 意識を手放す直前で、彼女を呼ぶ声がした。聞き覚えがあるような、不思議な声。

 春香は、その主に少しだけ興味を持った。


 (誰……?)


 反響する声が、少女の耳に届く。


 「いま堕ちれぱ、取り返しがつかなくなるわ。まだ間に合う。さあ、立ちなさい。そうしなけれぱ、貴女は自身の持つ地獄の炎(ヘル・ファイヤ)で一切を焼き尽くす赤熱の炎の時代をもたらすでしょう」


 確かに感じる何者かの存在。目を開ければ見えるだろうが、今の春香にはたったそれだけの気力さえ無かった。


 「立ちなさい! 貴女自身が持つ内なる輝きを信じて!!」


 頭に響いてくる歳上の女性の声。優しさと厳しさに彩られた声に、春香は自身の罪を吐露する。


 (ダメだよ……。私は友達に……)


 罪を認めるその言葉を遮るように、声の主は春香に告げた。


 「貴女が何者であっても、光の子らしく(・・・・・・)歩きなさい。見上げる前に道は開かれ、それは貴女の足元より、続いていくでしょう」


 かけられた声に、思わず聞き返そうとしてしまった。春香は、ようやく自身の状況に意識を留めた。


 (誰? 沙樹ちゃん……?)


 思い出す自身の記憶。倒れる前になされた約束。守るべき友と、迫る魔の手の存在。


 (あ、あれ……? 私は、いったい何をして……)


 手を伸ばし、春香は床の感触を確かめる。立ち上がるべく身体を起こそうとして、よろけた。

 喉に違和感を感じた直後、血を吐いてしまう。だが、流れる血を無視して身体を支えていた。全身を襲う痛みに、少女の意識が飛びそうになる。

 偽物の感覚を無視して、ただ己の信じたものだけを頼りに意識を繋ぎ止める。

 やがて視線が上がる。上手く入らない力を振り絞り、上半身を起こす。

 全身を強烈な倦怠感が襲う。


 (くっ……。邪魔を……しないでよ!)


 取り戻した己の感情は、激しく昂る。偽物の感覚に、怒りを覚える。


 「私は、まだやりたいことがいっぱいあるんだから! 邪魔をしないで!」


 銀色の炎が、春香の背後から光を放ち始める。何か温かい陽射しのような力を感じて、春香は意識を強く持った。


 「フフッ……。あの娘のためだもの。特別に”導きの灯“を貸してあげる。さあ、立ちなさい!」


 全身を襲う倦怠感が消えていく。少女の行動に、少しずつ力が漲っていた。立ち上がる春香が目にしたのは、闇を照らす光の燭台(トーチ)

 其のあまりの輝きに、それを手に持つ人物像が認識出来ない。目を凝らして見ても、やはり分からないままだ。

 それでも、ふと視界に入った顔は、春香の知る少女に似ていた。


 (えっ? 沙樹ちゃん!?)


 漸く立ち上がった春香が見たのは、微笑みを向ける美しい女性だった。

 導きの灯が、一際目映く輝く。その銀光が、春香の視界を埋めつくしていく。


 (だ、誰……? 沙樹ちゃんなの!? 眩しくて見えないよ!)


 春香の意識が銀光に覆われた時、彼女の姿は闇の中から消えていった。









 霧の迷宮の中で沙樹達が足留めされているころ、倒れていた少女に異変が起きていた。

 誰かが、沙樹の手を握り締めていた。弱々しい手であったが、其れは沙樹の知るところとなった。

 血の気が無かった頬に、赤みが戻っていた。倒れていた親友が、少女の目を見返している。


 「春香!!」


 春香の意識が戻ったことに、沙樹は目元を押さえることもせず親友に呼び掛けていた。


 「春香! 春香、分かる? 大丈夫なの?」

 「……沙樹ちゃん。ありがとう、ね」


 確かな返事に、沙樹は涙が流れるのを堪えきれなかった。ただ、彼女の言った事に疑問が湧く。


 「えっ? 春香、なんのことを……」

 「気が付いたのか?」


 周りにいた光一達が気付く。心配する視線を集めた少女は、弱々しく笑顔を作った。

 沙樹に握られた手が、白く細く見えた。


 「……ちゃんと、守るから」


 か細い声に、思わず沙樹が身を乗り出していた。親友の小さな声に、沙樹の涙腺が緩む。


 「うん、ありがとう春香」


 友情を温め合う二人に、光一は声をかけることを控えた。嬉し泣きをする沙樹を見て、余計な横槍は躊躇われた。

 そんな少年が気を緩めた時、背後から声が掛けられた。


 「あの……?」


 それは何処かで聞いたことのある少女のもの。それを思い出す前に、彼の前に一人の少女が歩み出ていた。


 「此処がどこだか教えてくれませんか?」

 「……君は?」


 聞き返しながら、光一も思い出していた。目の前の少女には、彼も会ったことがある。


 「私、日野貴理子といいます」


 霧の迷宮に現れたのは、魔女に身体を乗っ取られた筈の貴理子に他ならなかった。

















 私的に忙しいうえに、難産でした。まだ続きますので、よろしくお願いいたします!!

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