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アルカナ (ARCANA)   作者: 1484ー5
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第33話 語られる事のない戦い2

 魔術戦です!

 「面会謝絶ですか?」


 野瀬が声に出したように、生徒会メンバー達の反応は一様に失望の色に染まっていた。

 ナースステーションで説明された内容は、中条茉莉花の容態ではなく、面会禁止という通知(もの)だった。理由は中条本人の病状によるものであったが、家族も到着していない現状では担当医師も面会に待ったをかけざるを得なかったのだという。

 やるせない現実に、野瀬は落胆した表情を隠せなかった。相対する看護師も溜め息を吐く。


 「わざわざ来てくれたけど、すまないね。患者さんには後で伝えておくよ」

 「……その、なんとかなりませんか?」


 申し訳なさそうに尋ねる野瀬達に、四十代くらいの男性看護師も頭を掻いて唸った。


 「外から眺めるだけならまぁ……。でも、余計に辛くなるかもしれないよ?」

 「お願いします」


 機転を利かせてくれた男性の看護師さんにお礼を言いながら、野瀬達、生徒会一行は同じ階にある集中治療室(ICU)のあるフロアの奥へと進んだ。

 重篤な患者を受け入れ、専門的に治療・管理するための高度医療機器を備えたICU施設は、この病院にも設置されている。救急指定病院でもあるため、二十四時間体制で患者の容態を看視することができる医療体制が整った施設(フロア)全体が、集中治療室(ICU)と同義であった。

 昨今の高度医療機器の小型・軽量化により、医療機器が一体化されたベッドは、一見するとスッキリとした近未来的な印象を与える。非常にスマートな外観(フォルム)のそれは、治療に必要な意識レベル及び呼吸心拍の監視、血行動態モニター等を完備しており、別体の端末操作により直感的な操作で、瞬時に必要な情報を医師達に知らせる事ができた。

 そんなベッドが、医療関係者用の動線に沿って左右に整然と並ぶ区画が目に入った。

 ナースステーションからオープンになった空間(スペース)と、看視用システムによる集中管理がなされている点が普通の入院病棟とは違うものの、プライバシーの保護にも配意した個室仕様の区画には、多数の患者がいる事が分かる。

 個別に部屋(・・)を割り当てられた患者達のベッドが見渡せる一般者用通路の一画で、男性看護師が立ち止まった。

 通路側には、かなり大きなはめ殺しの一枚硝子の窓が設置されており、中の様子を伺う事ができた。病院側の管理体制に一役買っている窓越しに、男性看護師が或るベッドを指差した。


 「ここだよ。あの娘が、そうだ」


 分厚いガラスの向こうに見える中条茉莉花の姿に、誰もが言葉を失った。その場の誰もが、唯々見入っていた。

 細い腕には幾本ものチューブが繋がれ、すらりと伸びた脚にも、一部包帯が巻かれている。

 生徒会のメンバーがいる場所からはパーティションの影になっているため、直接的に中条の顔色を伺う事はできない。しかし、それが却って彼女の纏う悲壮感を増長している事に間違いはなかった。

 上級生の少女の中には、声を抑えて泣き始めた者もいる。

 

 (……意識不明なんて、嘘だろ)


 光一も自分が守ろうとした中条茉莉花の惨状(すがた)を見て、言葉を失っていた。まだ怪我をする前、彼女が話した他校の生徒達の現状に、嫌な予感ばかりが重なる。


 「やだ、茉莉花先輩……」


 女子生徒の一人から、悲痛な声が漏れる。そんな少女達の心中を察してか、看護師が皆に聞こえるように話しかけた。


 「意識が戻れば、HCU(ハイ・ケア・ユニット)のフロアに移って面会もできると思うんだがね」


 申し訳なさそうに説明して、男性看護師は頭を掻いた。それが気休めでも、野瀬達には有りがたかった。辺りに漂う沈黙と小さな嗚咽に、皆口を閉ざしていた。

 窓硝子に映り込む夕焼けの色が、いやに赤く染まっている。外に目をやれば、もう陽が傾きはじめている。もうすぐ、夕闇が迫る時間帯だ。


 「みんな、帰ろう」


 女子生徒達を気遣い、まとめ役を買ってでた野瀬に、仕方なく光一も賛同した。


 「どうも、ありがとうございました」


 しっかりとお礼を言えたのは、流石に生徒会の役員というところか。

 対応してくれた男性看護師も、彼等に手をあげて応えた。


 「気を付けて帰るんだよ」

 

 もう一度頭を下げて、生徒会一行は無言のまま病院をあとにした。

 光一もまた、無言だった。中条茉莉花の怪我に、後悔ばかりが先に立つ。あの時、もっとこうしていたらという仮定の話ばかりを考え、何も言えず気に病んでいた。下を向く自分自身が、情けなかった。

 一行の最後尾を歩く事になったのも、ごく自然な成り行きであった。心の中に(わだかま)る負の感情を抱えながら、光一は足を進めた。そんな彼の歩みは遅々として遅い。

 まるで暗い気持ちが消えないまま、一階のロビーが見渡せる場所に差し掛かった。

 不意に室温が下がった気がして、光一は立ち止まった。


 (なっ、なんだ!?)


 振り返った光一の背後で、音もなく魔術の発露が起こる。ロビーを含む空間に、亀裂が走っていく様が見える。特定の空間を隔離する術式が、光一の眼前で発動していた。

 視界を塗り替えていく灰色の空間に、光一の背筋に冷たいものが走る。


 「この感じは、あの時と同じ……」


 視界の隅、病院の廊下の奥に得たいの知れない何かが通り過ぎて行く。目の端に捉えてしまったがために、光一は冷や汗が噴き出していた。見たものを信じられない自分がいる。


 「……なんだ、あれ!?いま、何が通ったんだよ?」


 いるはずがないものが、身近に存在している恐怖。知ってしまったが故に、少年は一歩後ろにさがっていた。

 振り返れぱ、野瀬達は自分から離れていく。まるで自分の存在など、気付かないかのようにだ。そして、野瀬達と自分の間に、近寄れない何かがある事を彼は直感した。


 (今ならまだ、間に合う!?先輩達のところへ……)


 希望も虚しく、灰色の魔術は自分と彼等を分かつ。立ち去る事も出来ない少年を巻き込んだそれは、魔術戦の余波を抑えるためにできた結界。しかし、それを知らない彼にとっては、まさに孤立無援の状態(じじつ)を示していた。

 先程から、人影がまったく見えない。無人の圧力が、少年の心理面を圧迫する。

 立ち竦む光一の耳に、動物的な息遣いが聞こえる。フッフッフッフッという連続的な息遣いに、大型の肉食獣を連想する。次第に近くなるそれに、光一の手が汗ばむ。見えない檻に囲まれた牢獄で、光一は現実を理解出来ずにいた。

 再び廊下の端に現れたのは、黒い獣。

 大型犬より一回り以上も大きな体躯は黒い体毛で覆われ、暗がりに赤い目が光る。獰猛な吼声を響かせる死神が、其処にいた。


 (な、なんでこんな病院(ところ)猛獣(こんなの)がいるんだよ!?)


 少年の身体は固まり、思考は驚きのあまり停止したままだ。

 近付いてくる獣に、光一は無慈悲な現実を突き付けられていた。黒い巨体を間近に見据えて、彼もひとつの事実を悟った。逃れようのない”恐怖“だ。

 黒い獣の太い四肢の筋肉が盛り上がる。それは、獲物を見つけた動物の反応だった。


 『お待ち』


 黒い巨体を制する声が掛けられたのは、奇跡的なタイミングであった。

 引き絞られた弓矢の如く、獲物を喰らうために駆け出そうとしていた獣が、主人の声で静止する。外国語のそれは、光一には聞き取れなかった。

 ローブを纏う細い人影が其処に居た。

 黒い獣の隣に並び立ち、その背を優しく撫で下ろす。獣の甘えた唸り声を聞いて、口許が緩む。僅かに首を捻っただけの動作は、その人物像に酷薄そうな印象を与えた。

 生成り地に黒い幾何学模様の入ったローブを纏うのは、自分より小柄な人物のようであった。突然現れた不審な人物に、光一は訝しむように目を細めた。


 『フン、また来たんだ』


 ローブの人物がそう口にした時、スッと風の通るような流れが起きた。 

 途端、雪崩れ込むような強風が巻き起こり、呪符が弾けた。


 「動かないで!」


 突如発生した目も眩む閃光の中、何処かで聞いた声が響く。

 いつの間にか現れたのは、女性的な妙なる影。光が収まった後に残されたのは、無力化された魔獣の姿だった。

 呪符に絡みつかれた獣は野太い咆哮をあげて、悶え苦しむ。呪符による魔力の鎖が、呪縛となって魔獣を拘束していた。その様子を冴えた目で見る主人は、既に獣の傍から離れていた。数メートルの跳躍が、目深に被ったフードを揺らす。

 視界を奪う閃光をものともせず、対峙する二人の人物が視線を交えていた。

 閉鎖された灰色の世界に、容赦なく魔術を行使した人物こそ、他ならぬ久和春香だった。

 常とは違う黒い艶姿に、光一の理解が追い付かない。

 締め上げられる呪縛が苦しいのか、魔獣は苦悶の声をあげていた。蕀の鎖と変じた呪符が魔獣の肉を穿つ。

 火花を散らす視線の先に、春香は魔女の姿を捉えていた。一瞬、その鋭い視線が自分に向けられた気がして、光一は緊張に身を強張らせる。彼女の視線が自分を責めている気がしたのだ。

 春香が魔女を睨んだまま、呪符を取り出す。その一枚が、彼女の手から離れる。投げられた螺旋の軌道は目で追えず、あっという間に少年を拘束してしまう。目に見えぬ呪縛に、光一は抗うことも出来ない。呆然としたまま、光一は自分が一般人(邪魔者)であると思い知らされた。

 春香の行動を隙と見たのか、魔女の背後から新たな黒い魔獣の姿が現れる。

 獅子すら凌駕する巨体に、春香は緊張した素振りも見せない。息吹きを整え、九字の印を切る。彼女の全身に、新たな気と魔力が巡っていく。神経が研ぎ澄まされていくなか、春香は体得したバトルスタイルへ完全に移行していた。


 「行くよ、私の十二天将……」


 保安要員(マーシャル)が共同で造り出した中規模結界術式。

 発動中の符陣の中で、春香は並列起動型の攻撃魔術を準備する。左右に印を切る右手の軌跡を追うように、三つの光珠が出現する。

 彼女は、魔女に向かって疾走した。


 「行け、青龍!」


 踊る光珠に決意をのせて、春香の魔術が宙を舞う。

 三つに分かれ放たれるそれは、高水圧の水流の(ほこ)となって魔女を襲う。水神の法による第二撃は、刹那の瞬間にローブを穿った。


 (外した!初見で私の縛鎖だけじゃなく、三叉戟も躱したの!?)


 鋭い眼差しが、たゆとうように身を躱す魔女を追う。

 油断せず、春香は距離を取る。魔女の殺気から、光一を自らの背後に隠す。視線を交わしたまま、二人の間に殺気を孕んだ緊張感が高まる。

 主人と共に身を躱した魔獣が、低い唸りで威嚇してくる。猛獣の身のこなしは、野性の鋭さを感じるほどだ。


 『クククッ、楽しませてくれそう』


 裂けたローブを一瞥して、魔女が嗤う。

 懐から片手斧(セクリス)が光る。魔女が細身の身体を半身に捻る。

 魔獣の野太い咆哮が、戦いの狼煙となった。


 「コントロール、目標を捕捉した。気をつけて!こいつ、確かに”手練れ“みたい」


 春香は情報を送る。その口調には警戒と、どこか愉しむような韻があった。


 「こちらサードロー、東側から向かう!」

 「コントロールから各員、警戒(オレンジ)を発令する。ツーマンセルを維持せよ!」


 春香は、返される情報を脳内処理しながら、迫り来る魔女に対応した。

 魔女の殺気が形をとって迫る。“気”の塊が呪詛になって放たれる。見た目より大きな尾を引く”気“の塊は、着弾と同時にロビーのソファを粉砕した。棚引く“邪気”は触れるものを喰らう。

 二つ、三つと放たれる魔女の呪詛は、春香に思うような行動を執らせない。

 二合、三合と続く魔術の応酬にも、少女は足を止めずクールフェイスを崩さない。

 ひと当てした感触が、彼女に冷静さを強いる。


 (これじゃ、思うように戦えない……。グラベルに足を取られるし、あいつはホントにお邪魔虫だし!)


 内心、憤懣やるかたない春香だったが、それはおくびにも出さない。彼女の呪符が“円盾”となって迫る呪詛を弾く。防御の魔術が、魔女の放つ“邪気”の塊を払い落とす。


 (おっと!この黒い魔獣()も抑えないと……)


 飛び出して来た黒い巨体に、咄嗟に反応する。手持ちの呪符が縛鎖に変ずる。

 蕀の縛鎖が、黒い魔獣を捕らえる。突進してきた勢いを殺しきれず、巨体が転倒する。足掻いても取れない蕀の檻に、魔獣が怨めしげに咆哮をあげる。


 (これで振り出しに戻る、と……)


 綺麗に空中で回転してみせた少女は、着地点を狙う悪意を直感した。

 唸る片手斧(セクリス)が春香に迫る。

 その一撃を僅かな体重移動でかわし、少女の体温がすっと下がる。まるで仇敵を前にした復讐者の如く、春香の顔が本気のそれになった。

 反撃の狼煙をあげるべく、少女は前に踏み込む。

 直後、春香は膝から身体を落とす。屈み込んだ彼女の頭上を片手斧(セクリス)が通りすぎる。風の唸りを事後に聞いて、春香は表情を引き締めた。


 (質量のある物体を!)

 

 睨む敵は、その口元に笑みを浮かべていた。


 「やってくれるじゃない……」

 

 視認する敵は、どこか細い影に見える。まるで、その中身は年頃の少女であるかのように。

 白と黒の幾何学模様を纏う影は、魔力の波動をあげる。それに呼応するように、春香も魔力を練り上げる。


 「乙女の柔肌に、もし掠りでもしたら、どう責任を取ってくれるのよ!」


 春香が怒りに吠えた矢先、二つの応援(ひとかげ)が現れる。彼女の右手に位置取る様は、魔女を警戒している証拠か。しかし、少女の表情から何かを読み取ったのか自らを的にして前へと出る。


 「前衛は交替する。後衛を頼むぞ!」


 九州男児の言葉どおり、長崎においても男性が武勇を尊ぶ気風は根強く残っている。

 それは同時に、女性や子供が危険な目に逢っていれば矢面に立つのを厭わない事も意味する。実際、春香はこれまでの戦闘経験で窮地を救われた事も少なくない。

 女性でありながらアタッカーの役割をこなす人材は少数派だ。女性の力が重要視されている現代でも命懸けの仕事になる守護者としての指命は、あまりに危険が多い。ディフェンスや後方支援要員(バックアップ)に回っている女性が多いのは、決して女性が弱い存在だという理由からではないのだ。

 尤も、時折女性でありながら飛び抜けた才能を示す者がおり、彼女達は並み居る男性魔術師の何倍もの魔力を扱い、極める。

 この場にいる春香のように、だ。


 「了解です。でも気をつけて!」


 春香の心配を余所に、駆け付けた応援組(サードロー)は戦闘に入った。接近戦で挑むつもりか、手には特殊警棒(スタン・バトン)が握られている。強烈な電気ショックによる無力化を図るつもりか。

 そう思いながら、春香も距離を取り直す。彼我の距離は、あてにならない。相手が操作系統の魔術を使える可能性があるのなら尚更だった。

 次の一手を考える間に、サードローの攻撃が火を噴く。二人組による空手の技か、接近短打の連撃が紫電の火花を散らして舞う。ただ、その(ことごと)くを魔女は捌く。

 翻り、時に重厚に受け止め、打撃を反らし、反撃する。その合間には、フェイントを織りまぜて片手斧(セクリス)が凶刃を振るう。

 劣勢だ、と春香は思った。あのままでは決定打に欠ける、と。

 春香の心配が的中したのか、仲間(サードロー)のひとりが肩に一撃を喰らう。


 (あっ、ダメ!)


 魔女の視界を埋めるべく牽制を撃つ。放つ呪符は十二天将のひとつ、青龍。

 その間隙を利用して、仲間(サードロー)二人に離脱を薦める。


 「離れて!」


 言うが早いか、最速の一手が空を駆ける。阿吽の呼吸で魔女と離れる男達は、ひとりがダメージを負ったようだ。

 守護者達の連係など嘲笑うように、魔女が細身の身体を宙へと翻していた。美しくすらある宙返りで、呪符の一撃を躱す。

 青龍の威力をものともせず、孤高の魔女が地を踏みつける。嗤いながら、春香に見せつける。お前の技など執るに足りない、と。

 その嗤い声が、春香の勘に障った。魔術師としてのプライドが沸騰する。

 まだ全力投球ではなかった。手の内を探りあう程度だ。本気の一撃など放っていない。あんな奴に、笑われる謂れはないのだ。

 優雅な仕草で片手斧(セクリス)を持つ手を伸ばし、春香を誘う。来てみろ、と魔女が挑発する。


 「あとはお願い。コントロールには、適当に言っといて!」


 不意を突かれた二人組は、走り出す春香を止められない。魔術による身体強化が加速する。


 「おい、待て!通信切りやがった!こちらサードロー、一人が負傷した。あとファーストロー(嬢ちゃん)が突入した!支援を回してくれ!」

 「こちらセカンドロー!魔獣に足止めをくらって戦闘中だ。持ちこたえてくれ!」

 「くそっ!まったく、子供(弟子)の教育は(師匠)の責任だぞ!」


 後に残された仲間は、エース級である春香の実力を知っている。仲間がやられて怒りに燃える心もだ。だからこそ、彼女単独の突撃に慌てたのだ。次の世代を担う彼女を、ここで失う訳にはいかない。

 そんな仲間の心配を余所に、特殊警棒(スタン・バトン)が引き抜かれる。普段は好んで使用するものではない。だが、あの魔女に一撃を加えるなら、絶対にこれだ。春香の有り余る魔力を受けて、紫電の火花が尾を引く。

 握り締める手に魔力を加えて、春香は振り抜く。

 魔女の片手斧(セクリス)が受けてたつ。悲鳴のような金属音が響き渡る。

 命のやりとりに昂るのか、魔女が嗤う。対する春香の口にも笑みが浮かぶ。

 二人の魔術師は舞うように切り結ぶ。魔力の余波を血飛沫に、気迫と邪気の応酬を剣戟に代えて、踊り続ける。

 互いに切り結び、呪符を使った魔力弾と邪気の塊が衝突する。

 鬩ぎ合う二つの力は、二人の魔術師を巻き込まもうと牙を剥く。衝突する力の爆発を強引に受け流して、二つ影は仕切り直した。

 今、隙を見せるなら死を覚悟しなければならない。火花を散らす攻防は、佳境へと突入した。

 周囲の守護者(なかま)達の心配を承知で、春香は魔女と打ち合う。だが、その均衡が建物を揺るがす衝撃音に遮られた。

 地鳴りのような短い鳴動に、春香は爆発音の一種だと気付く。ロビーに施された筈の中規模結界術式が(たわ)む。衝撃で外に面した硝子が割れ、飛び散る破片がロビーに舞い散る雪の結晶のように煌めいた。


 (なに、これ!?外からの攻撃なの?)


 新たな敵に身構える春香の頭上を高速で駆け抜けるものがあった。魔力の気配に、春香は慌てて通信を復活させる。そして彼女が見たのは、飛燕の黒翼が刻む二筋の渦。

 その風の渦に巻き込まれまいと、慌てて魔女が飛び退いた。赤い血が魔女の腕から滴り落ちる。


 「えっ?なに!?」


 少女の疑問に、緊急連絡のサインが鳴り響く。


 「緊急連絡(エマージェンシー)、緊急連絡(エマージェンシー)!各員、警戒(オレンジ)を維持せよ!すべてのアタッカーは到着後の指示を待て!」


 灰色の空間を切り裂いて飛ぶ黒い影に、春香は信じられないものを見ていた。


 「……嘘、まさかスピードデーモン!?」


 春香の言葉を掻き消すような衝撃が走った。

 爆発する魔力の衝撃に、春香は目を見張る。少女を避けて迸る魔力爆発の奔流は、まるで指向性を持つ衝撃波のようであった。熟練者にしかできない芸当が、少女の目の前で行われていた。

 彼女の驚く顔を(たしな)めるように、爆煙の中から人影が浮かぶ。


 「放出系魔術は収束が肝。気は泰然として、空間に満ちる魔力の淡を感じなさいと教えた筈よ」


 戦いの場に、勇み立つ戦女神の姿があった。


 「なってないわね、春香」


 凛とした美貌が見せる笑顔に、春香の目が輝く。


 「花菜(かな)さん!」


 魔術師集団である守護者達の中における筆頭魔術師(ポールシッター)にして、不動のNo.1(エース)

 春香の”魔術の師“にして、国内最強の符術師との呼び声も高い千々和花菜(ちぢわ かな)が参戦した。



















 メインキャラクターではないのですが、ようやく登場させてやれました。魔術師 、花菜ちゃんの出撃です!


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