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アルカナ (ARCANA)   作者: 1484ー5
13/65

第13話 覚醒:青眼の魔女3

 ようやく投稿出来ました。なかなか進まないのは仕事と育児のせいだけではないような……。取り敢えず、頑張ります!

 今回も二話同時投稿ですが、一つは設定です。良かったら、見てやってください。

 新しい居室に通され、沙樹は窓から見える町の風景を眺めていた。生憎の雨に見舞われた街並みは、まるで彼女の気持ちを代弁しているように見えた。

 窓辺に立ち尽くす表情も普段の冴えが見えない。首を傾げる所作に、黒髪がさらりと流れていく。白い肌と相まって、気怠げな雰囲気が彼女を包んでいた。

 外を見つめるその瞳には、魔力の灯火が宿っていた。


 「……私、どうなるんだろう?」


 沙樹の独り言のような呟きに、応える者はいなかった。今、この館の住人達は彼女の気持ちとは裏腹に、新しい魔女の誕生を祝福しているのだ。彼女の気持ちを本当に分かる者は、ここにはいないように思えた。


 「みんな、何してるかな……」


 不意に、口をついて漏れた言葉。しかし、彼女の胸のうちには、すぐに別の気持ちが浮かんで来る。十代の少女に相応しくない、悩み事である。


 (でも、こんな事は誰にも説明できないし……。昨日から学校も休んだままだし。本当に、どうなるんだろう?どうすればいいのかな?)


 誰にも言えない秘密を持つ事が、自分の心に重く負担となってのし掛かるとは、沙樹自身にも予想できなかった。

 儀式魔法が一段落してからというもの、彼女は通された居室にある鏡を覗いて愕然とした。


 (目の色が、変わってる……)


 映された自らの瞳に、今まで無かった魔力特有の輝きが見えるのだ。青く揺らめくような美しさと輝きを放つそれは、沙樹にとっては呪いのように恨めしくさえ思えた。

 消しようのない輝きは、きっと見る者には見えてしまう。そう思うと沙樹は不安で仕方なかった。

 雨音が、しっとりとした空気を運んで来る。

 沙樹にとって、この館に落ち着いた事は救いだった。彼女の脳裡に、あの夜からの一連の出来事が、何度となく浮かび上がっては消えていく。

 沙樹は、自分の置かれた状況を反芻しては冷静に考えるように努めた。

 彼女の疑問に答える者は、やはり使い魔しかいないだろう。沙樹は、館の何処かにいる二匹の下僕を呼ぼうとして躊躇っていた。


 「メフィスト、ウロボロス!」


 一度呼んでみるも気恥ずかしさから、声が小さくなってしまう。そして、また躊躇して悩むという悪循環に陥っていた。

 雨音だけが聞こえてくる。

 沙樹は思考がループしている事に気付いて、やはり窓から見える景色に眼をやった。


 (みんなに会いたい……)


 現状を打破する手段が思い浮かばず、自然と外を眺める視線も伏せがちになる。

 沙樹は一人、窓辺で嘆息するしかなかった。









 「こっちよ、急いで!」


 春香は内心で焦りながら、足早に雨上がりの市街地の人波を掻き分けていった。

 放課後、制服のまま沙樹を探しに出ようとしたところを友人達に捕まり、結果的に一時間近くも対応に追われた。市内を手分けして探してくれる友人達の気持ちは有り難くもあり、嬉しかくもあったが、春香としては時間を失った感は否めなかった。

 そして、邪魔も入った。


 「お願いっ、待って!」


 急いでいたところに、春香は名も知らぬこの少女と出会ってしまった。

 着ている制服から、学校は同じ市内の別の高校だと分かったが、ある理由から面識も無いその少女に関わる事になった。

 背も高く、すらりとした感じで大人しい印象を受ける()だが、何故かひどく怯えていていた。運動が不得手なのか、春香に追い付くどころか走るだけで息も絶え絶えになっている。線が細い訳ではないが、消耗しているような印象があった。

 同い年の少女の瞳に、何故か庇護欲を掻き立てられて、春香は通り過ぎる事ができなかった。

 ただ、春香としてはまったくの不本意だった。急いでいた彼女が、この少女に構っているのは、他ならぬ魔術絡みの問題が発生したからであった。

 問題とは、その少女自身だった。

 この少女は、何者かに呪いを掛けられている。その事実だけで、春香の足を止めるには十分だった。そのため、春香は急ぎたい気持ちをもて余しながらも、その少女を見捨てる事ができなかった。魔術的な効果が一目で分かるほど、少女に掛けられた呪いは強力だった。

 春香の見立てでは、後ろを付いてくる少女の未来は悪意に塗り潰されている。

 魔術の園に関わる者だけが知り得る術式には、簡単な未来予知や常態異常の有無を判断するものがある。しかし、そんなものよりも春香の第六感の方が優っていた。彼女の危機を何度も救ってきたその第六感が告げていた。この少女を見捨てるべきではないと。

 結果から判断して、春香のそれは的を射たものであった。それでも、春香の沙樹を想う気持ちが、焦りとなって悪い方向に作用していた。

 二人は、花園へと急ぐ春香が彼女にぶつかった事が切欠で出会った。

 きっと掛けられた呪いのせいで満足に眠れていないのだろう。少女のやつれた感じは、精神的な疲れに起因するものだと春香には感じられた。


 (急ぎたいけど、この娘は見捨てちゃいけない気がするし……。連れて行かないともうっ、時間がないんですけど!)


 そして、その少女の側には春香にとって、思いもよらない人物がくっついていた。


 「おいっ、少しスピードを落としてやれ!」


 春香は柳楽とも出くわしたのだ。彼もまた、沙樹を探すために奔走していた。

 柳楽光一は、初日空振りに終わった反省から、各高校の生徒会に情報の交換を持ちかけていた。なかば強引に先輩である中条の名前を出して、だ。ところが、これが僥倖となった。各高校から寄せられた情報には、ネット上にあがっているものの詳細から、未把握だったものまで、連続殺人事件に絡む女子高校生の情報が次々と寄せられてきた。

 様々な噂や情報が示すのは、近隣の各高校における不登校生徒の増加だった。

 光一は、沙樹と同年代の少女達を取り巻く現実に、とにかく何かできないかと、寄せられた情報を片っ端から暗記した。そして、それを頼りに街を探して回っていた。

 そんな彼の一見突拍子もない行動が、彼女との出会いを引き寄せていた。そう、日野貴理子、本人との出会いを。

 光一は、貴理子と出会ってすぐ、事件関連の顔写真を思い出し、沙樹への手掛かりだとばかりに声を掛けていた。そこに、春香が飛び込んで来たのだ。トラブルメーカーとしての春香の行動力に光一は感嘆の声をあげた。


 (なんでこんなタイミングで出てくるんだ、こいつは?)


 光一が驚いている隙に、春香は貴理子に何かを感じ取り、録な説明も質問も無いまま、目前の少女のために駆け出していた。


 「日野さん、早く! 間に合わないよ!」

 「待って、そんなに早く、走れない……」

 「お前、飛ばしすぎだろ?!」


 春香は二人が愚痴るのも聞かず、先を急ぐ。視線の先に、市街地に敷かれた路面電車の軌道が弧を描いている。わずかに濡れた雨上がりの地面は、走っても制服を汚すことはないが、今の彼女にはそんなことは本当に些細な事でしかなかった。

 流れていく風景に興味は無いとばりに、春香は足を速めていく。今は傾きつつある陽光にこそ、彼女の関心はあった。

 春香の気持ちは逸るばかりだった。

 何故なら、彼女には今日中に行き着かなければならない場所があったからだ。本来の目的地、花園である。

 彼女が言う花園とは、魔術絡みの用件であり、他ならぬ沙樹への手掛かりであった。

 そこへ急ぐために、春香は貴理子の保護を視野に入れて行動せざるを得なかったのだが、そのせいで手持ちの時間が削られていた。 

 駆けながら、春香は左手首にある腕時計型の情報端末を音声認識で起動させる。


 「もしもし、加藤さん? 春香です。すみません、お仕事中に……。いえ、ちょっと相談したい事が……。はい? 違います、恋愛(そっち)方面じゃありません!」


 春香は普通なら自制心の強い子だが、如何せん恋愛話に話題を逸らされて動揺した。


 「私の『習い事』の件です! 花園に行く途中、新しく見つけた花の品種が分からなくて。どうすれば良いかと思って……」


 一頻り走りながら会話する春香だったが、ようやく路面電車の停留所(ターミナル)に駆け込んで、二人に向き直った。後ろから、光一と貴理子が遅れて到着する。安全地帯に設けられた自立発光型パネルに流れる待ち時間や路線図などを確認して、手元の端末にデータ送信を受ける。

 長崎市では、従来の路面電車をフランスで提唱された次世代型LRTライトレール構想を参考にして改良が重ねられてきた。

 市民の足として、利用し易い超低床型であり、様々な通信機能に対応できる設備を備えつけていた。中には観光客用として、二階建てのオープントップ仕様まであるのだ。

 春香達のような学生にとっても、重宝する移動手段であった。

 後続の二人が息を整える間もなく、春香が同意を求めた。


 「とりあえず、桶屋町に行くから。日野さん……。もう、貴理ちゃんでいい?」

 「え? うん」


 貴理子は肩で息をしながら、よく分からないまま返答していた。ただ、その頬が少しだけ赤みを帯びているのは走ってきたせいだけではなかった。

 走り疲れて前屈みになつている貴理子に、春香が甲斐甲斐しく世話を焼いてやる。春香は息があがったままの貴理子の額の汗を拭ってやるが、そうしている彼女のほうは走って来たのが嘘のように平然としていた。


 「こんなに全力疾走したの、初めてかも……」

 「ほら、ちゃんとして。大丈夫だから。貴理ちゃん」


 (だったら、昨日今日会ったばかりの奴に走らせるなよ……)


 色々と世話をやく春香に、光一が呆れた様子で見ていた。その視線の先に前屈みになった貴理子がいるのを見咎めて、春香の叱責が飛ぶ。


 「ちょっと、あっち向きなさいよ!」

 「なっ?!」


 なんで俺が、と言いかけて、光一はぐっと思い止まった。曲がりなりにも彼女達を事態に巻き込んだのは、他ならぬ自分なのだ。負い目を感じて、光一は二人に背を向ける。歯噛みしようにも、相手は女子二人。男として、我慢するのが妥当だった。


 「あなたの事を頼める人に会いに行くから。もう大丈夫よ、心配いらないよ」


 自分を見つめる春香に、貴理子は一瞬、 愕然とした。その瞳を見つめて、少女の動きが止まる。


 (なんで……。私の事が、分かってる?)


 そう言おうとした矢先、貴理子の予想しない事が起こった。右手が春香の腕を掴んでいたのだ。驚いた貴理子が息を飲んだ時には、既に右手は目の前の少女から離れていた。

 貴理子の表情に、強い不安が浮かぶ。それを見ていないのか、春香は特に気にした風もなく、彼女に笑顔を向けていた。


 「何処に行くつもりだ? この子を頼むって、誰に会いに行くんだ?」


 軽く聞いてみた光一に、春香がジト目で睨んでくる。


 「人が急いでるっていうのに……。ふーん、そうなんだぁ」


 光一の動揺する姿に、春香が獲物を見つけたような晴れやかな表情を向ける。しかし、すぐさま彼女の瞳に違う種類の、揶揄するような光が宿った。


 「委員長……。こういう子がタイプなんだ」

 「なっ?!」


 春香が、優しい笑顔で言った。


 「隠さなくていいのに。秘密は守るよ?」


 黒い笑顔を向けられて、光一は焦った。対応が後手に回ったせいで、まるで百面相のように顔色が変わっている。苦いものでもを噛み潰したような表情で、春香を見ていた。

 光一は、何故かここでの些細な行き違いが後々致命的なミスに繋がるような気がしてならなかった。自然と彼の顔に冷や汗が浮かぶ。


 「あ、あの?」


 いたずらっ子な春香の言動に、貴理子が慌てていた。


 「わ、私も何処に行くか聞きたいと思うんだけど……」


 貴理子が間に入った事で、春香は矛を納めた。言った本人である貴理子は、光一と目を会わせられないでいる。

 春香は光一に、ここぞとばかりに畳み掛けたかったが、耳まで真っ赤になった貴理子を見て、仕方なく和解した。


 「……冗談よ。ちょっと物足りない気がするけど。今から行く所は私たち二人でいいから、委員長はここまでね。見送りはいいわよ」


 あくまで笑顔で説明する春香を見て、光一は思わず聞き返していた。


 「なっ?! いや、彼女は俺が呼び止めたんだ。俺にも責任が……」

 「やだ、何の責任取るの? 委員長、貴理ちゃんに何したの?」


 口に手を当てに驚く真似をする春香に、光一は手も足も出なかった。


 「冗談よ。委員長、さっきから『なっ』しか言わないし。社交性を育むためにも会話のキャッチボールは大切よ?」

 「お前のせいだろ!」


 春香に完全に遊ばれ、光一は思わず突っ込んでいた。

 笑顔を向ける春香の背後で、安全地帯の自立発光型パネルに流れていた商品広告(コマーシャル)が、到着を知らせるサインに切り替わった。また、春香の左手首からは、到着を知らせる音声案内が流れる。

 すると時間通りに、路面電車(コモン・トラム)が停留所に滑り込んで来た。

 春香は、左手首の端末機に触れて停止信号を送った。


 「時間も無い事だし……。委員長、あとはよろしくね!」


 にこやかな笑顔を向ける春香に、光一はあっけにとられているしかなかった。

 その僅かな間隙をつかれて、路面電車の扉が開閉する。乗り込んだ少女二人は、光一に手を振っていた。貴理子の申し訳なさそうな顔が窓に映った。

 発車した路面電車を見送りながら、光一は一人呟いた。


 「……やられた」








 陽が傾く頃、沙樹は館の外を歩いていた。その手には黒い革の訂装を施された本を抱え、その傍には黒猫が一匹付き従っていた。傍目には、雨上がりの道を飼い猫と一緒に散歩しているように見える。

 館の側には、なだらかなに続く高台があり、そこには眺望の良い小さな公園があった。公園へと歩を進める沙樹は、ワンピースから軽めのジャケット、靴まで夕陽に映える黒で統一された衣装であった。


 「ありがとう、メフィスト」


 心なしか、館にいる時より弾んだ声で沙樹はメフィストに話し掛けた。


 「こちらこそ、沙樹様に心配をおかけしました」


 主従の関係にある黒猫(メフィストフェレス)が応えた。


 「ううん、私のわがままだと思うし。こうして気分転換になってるって事は、やっぱり気が滅入ってたみたい。ごめんね」

 「明日からは普段通りの生活に戻れます」


 黒猫(メフィストフェレス)の翠色の双眸は、沙樹の気持ちを慮って慈愛に似たものを含んでいる。はにかむ沙樹の笑顔に、周囲に花が咲き綻ぶような魅力が伝わる。

 しかし、戸惑いが彼女の表情をすぐに曇らせてしまった。次第に神妙な面持ちになり、沙樹は一度口を固く結ぶと、不安を吐き出すように切り出した。


 「……ねぇ、メフィストなら知ってるよね? 私を襲ったのって、やっぱりお化けなのかな?」


 沙樹の声色に、内心の震えるような感情が滲む。主の感情を敏感に感じ取った黒猫(メフィストフェレス)が、強い口調で返答する。


 「あれは、この地にもぐり込んだ亜流の魔女が使役する者。二度とあのような真似はさせません」

 「……そう。やっぱり本当だったんだ。そうだよね」


 否定して欲しかったのか、沙樹の顔が俯く。


 「沙樹様には不安な顔は似合いません。あれは我等が責任をもって対処致します」

 「……その、正直よく分からない事だらけで、どうしたらいいのか検討もつかないけど。私、メフィスト達と会えて良かったと思うし、私の知らないママの事も分かって本当に嬉しかった。ねぇ、メフィストなら分かるんだよね、私は何をすればいいのかな?」

 「沙樹様は、亜也様の血を継ぐ方。魔女となられ、この地に居られるだけで宜しいのです。責任を感じる事はないのです。ここには、沙樹様に代償を求める者はいないのですから」


 黒猫(メフィストフェレス)の言葉に、沙樹は困ったような、戸惑うような顔をしていた。主の心中を察して、優しく宥めるように黒猫(メフィストフェレス)が提案する。


 「では、沙樹様。定期的に、こうして散歩する事としましょう。勿論、私を連れてですが」

 「……それって、相当へん。変わってるよ?」


 驚いたような顔をして、思わず沙樹は吹き出してしまっていた。この使い魔は、いつも自分の事を気に掛けてくれる。それが、何とも幸せな気持ちにさせてくれる事を彼女自身が十分理解していた。


 「ありがとう、メフィスト」


 まさに花が咲いたような笑顔を見せて、沙樹は自分の使い魔に感謝を伝えた。沙樹が両手を前に差し出して、おいでおいでと身振りで伝えると、一瞬身を強張らせたのか、固まっていた黒猫(メフィストフェレス)が駆け寄ってピョンと跳ねた。

 沙樹は手の中にいる自分の理解者を抱いて、満足そうに笑った。


 「綺麗……」


 視界の中に、夕陽に染まり始める町並みを捉えて沙樹は自然と口にしていた。小さな公園の中から見える眺望は、眼下に広がる町の様子をまるで手の中に納める事ができる宝物か何かのように見せてくれる。

 沙樹の心に、ようやく日頃と変わらぬ少女らしい感性が戻ってきていた。久しぶりに眺める風景に、沙樹が気を良くしていると、使い魔が急にトンと彼女の胸元から飛び出した。


 「あれ? メフィスト、どうしたの?」


 不意に軽くなった両手に戸惑って、沙樹は黒猫(メフィストフェレス)を呼び戻した。その呼び掛けに答えず、使い魔は彼女と距離を取った。声を掛けられたのは、その後だった。


 「支倉! 良かった、ここにいた」

 「光一君……。どうして、ここに?」


 沙樹が驚く間も無く、彼女の元へ柳楽が駆け寄って来た。 


 (もしかして、私のことを探してくれてた?)


 少女らしい気持ちでそう考えた沙樹だが、昨日からの状況が頭を過り、途端に罪悪感が押し寄せてくる。


 「ごめんね、学校のみんなに心配かけたよね」


 沙樹のいきなりの謝罪に、光一は取り敢えず事情を説明していた。事務的な口調になりかけたところを押し留めて、光一も沙樹に伝えたい事を言った。


 「君が拐われたんじゃないかって騒ぎになってる。他の高校でも行方不明になった娘がいる噂があって……。本当に無事で良かった」

 「そんなことになってたなんて……。本当にごめんなさい。明日から、ちゃんと学校にも戻るから」


 彼女の様子が少し遠慮がちだと思う事なく、光一は続けた。


 「いや、無事ならいいんだ。それに、ここに来れば会えるんじゃないかって思ってたから」


 伏し目がちな沙樹の様子に、光一は気付かなかった。そんな彼の話しを聞きながら、沙樹は伝えるべきか悩んでいるように見えた。沙樹の手が宙で遊んでいる。恥ずかしそうにしながらも、やっとのことで沙樹は光一に聞いてみた。


 「……うん。その、ねぇ、私へんじゃない?」


 伏し目がちだった沙樹は、下から見上げるかたちで光一に尋ねてみた。


 「えっ、何処が? むしろ、前より可愛い……」

 「えっ?」

 「いや、支倉は昔から見てて危なっかしいって言うか、放っとけないところがあるって言うか、いや、そうじゃなくて……」


 光一の思いがけない言葉に、沙樹は自分の心配が杞憂であったことを知った。尤も、真っ赤になった彼のほうは、照れ隠しのためか、手を口にやったり頻りに身振り(ジェスチャー)が増えたりしている。

 慌てる光一を落ち着かせようと、彼女のほうが半歩距離を詰める。


 「光一君も昔から私のこと、助けてくれたよ?」


 沙樹の切り返しに、光一は自制心を最大限に発揮させて自分で何とか気持ちを立て直した。彼のほうも話しを聞いて貰おうと距離を詰める。心なしか、沙樹を見つめる視線に熱がこもっている。


 「……俺がまだ白石光一だった頃、君と約束した事を覚えてるか?」

 「うん。覚えてる」


 交わす言葉に、二人の距離が縮む。沙樹の視線にも熱いものが込められているように見える。

 互いに寄り添うような姿勢に、彼の言葉が続く。


 「あの頃とは違うけど、俺は……」


  見つめ合う二人の距離が、更に縮もうとした矢先に、泣きそうな声で誰かが叫んだ。


 「ああっーーーーー!」

 「春香っ!」


 公園の端から現れた明るい茶髪とヘイゼルの瞳を持つ少女の存在に、沙樹がいち早く気付いた。


 「ナニしてるのよ! 沙樹ちゃんから離れなさい!」


 血相を変えて一気に詰め寄る春香に、光一は慌てふためいていた。


 「なっ、お前なんでここに?」

 「委員長! 私に面倒事を押し付けといて、抜け駆けするなんて!」

 「お前が俺を置いて行ったんだろ!」

 「誤解を招くような言い方しないで! ボキャブラリーの貧困な男は黙ってないとモテないわよ、まったく」

 「おま……、どこまで上から目線なんだよ」


 狼狽える光一を余所目に、春香は沙樹の安否を確認する。両手を掴んで何気に光一から引き離すべく、春香が二人の間に割って入る。


 「沙樹ちゃん、ほんとに大丈夫? 何処も怪我してない?」

 「心配かけてごめんね、春香も私のこと探しに来てくれたんだよね?」

 「委員長が邪魔さえしなきゃ、もっと早く来れたんだけど……」


 全身をくまなく見て、ようやく安堵する友人に、沙樹は純粋に感謝を伝えた。


 「ありがとう、春香」

 「まったく……。なんか気が抜けたな」


 互いに顔を見合せ苦笑する二人に、春香が頬を膨らませるが、夕陽が色合いを増す中、気の置けない中間内の話しが暫くの間盛り上がった。

 そして、三人が方々に散っていった後で近くに控えていた黒猫(メフィストフェレス)が沙樹にある事実を告げた。

 それは、少なからず少女の心中に波風を立てる内容のものであった。


 「沙樹様、あの少女は魔術師です」


















 次からはいよいよ「魔術戦」の予定です!

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