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ステップ4


 今回はメール文に顔文字が使用されていますので、苦手な方はご注意下さい。





 ○月□日(火)



 こんにちは、皆さん。僕です。


「ねえねえ、アイス食べたいー」

「用事が終わったらな」

「ねえねえ、映画観にいきたーい」

「今日は駄目。また今度」

「フランクフルトも食べたい」

「夕飯入らなくなるから二人で半分こな」

「ぶーぶー」

「おうぼうだー」


 どこが横暴か。そして僕はお母さんか。

 もう季節柄、夕方でも日射しが厳しい。双子に念入りに日焼け止めを塗らせて、僕は深々ため息を吐いた。


――せっかくの自由だったはずの放課後に、何してるんだろ。


 さかのぼる事二十数分前。教室にて帰り支度中の僕がうっかり双子に「帰りに文房具を買いにショッピングモールに行く」と洩らした事が、今回の発端である。紛うことなく僕が原因です。誠に残念無念である。

 双子は迷わなかった。一緒に行きたいとごねた。駄々をこねた。いくつだお前たち。連れて行かねばショッピングモールまで駄々をこねながら着いて行くと脅迫された。どっちらにしろ着いて来るのなら、心の安寧を取る。

 教室の隅で、ハンカチの端っこを激しく噛み締めながら、血の涙を流してこっちを睨み付けてきた友人からは『リア充爆発しろ』と言うメールが、大量の爆弾絵文字と一緒に送られてきた。なので丁重に『お前が爆発しろ』と返してやった。あと『お前が手巾を持っていた事にびっくりです((((;゜Д゜)))』と追加しておいた。

『手巾←なんて読むの(´・ω・`)』と言う返信が妙に可愛らしくてイラッとした。


 ともかく、あれこれの結果、僕は現在保護者になっている訳です。おかしい。ただボールペンやシャーペンの芯や、ノート類を買いに来ただけなのに。なんで既にこんなに疲れているのか。ああ、だから、買い食いはまだしたら駄目だと言ってるのに。


「ベビーカステラげっとー!」

「ひゅー! 焼きたてー!」


 見てるから。お客さん見てるから! やめて! 本当にやめて下さい!


「見られているから何だ!」

「そこで止まる我らではない!」

「見られてこその!」

「我ら見られ隊であるぞ!」


 取り敢えず、二人の頭は素早く叩いておいた。うめき声とか聞こえません。


「あ、ねえねえ、カバン見たい!」

「うさちゃんのマスコット付きのが欲しい〜」


 立ち直りの早い双子は、ベビーカステラを食べ歩きながらそんな事を言う。


「お菓子を食べ歩きながら店内を歩く人間には選択肢はありません」

「あー! 返してー!」


 ベビーカステラを取り上げると、二人揃って半泣きである。再度問おう。いくつだお前たち。


「食べたかったら飲食スペースで待ってろ」

「やあーだー!」

「お母さんといくー!」


 誰がお母さんだ。お母さんっぽいけども。二人とも変なスイッチが入った模様。

 この機会にしつけし直した方が良いかもしれない。かなり本気で。

 僕は常々思うのだが、衣料品売り場等で物を食べながら商品を見たり、ましてや触れたりする行為はマナー違反以前の問題ではないだろうか。汚したら弁償する気はあるのか。ガムを噛みながら、飴を舐めながら、または子どもを大人しくさせる為に菓子を与えて、買い物を続ける。論外である。商品売買への冒涜である。

 流通とは美しい。需要と供給。生産者が居て消費者がいる。その間には様々な人達が作り上げた流れがあり、競合がある。血と涙と汗がある。消費者だって、同時に何らかの形の作り手でもあるはずなのだ。その流れの中にいるのだ。それを分かっているはずなのに、その流れを汚す。万死に値する。マナー遵守は人間であるからこそ出来る事なのだから。

 …………大変です。心中で熱く語っている内に双子がいなくなりました。迷子です。お母さんと一緒に行くと言っていたくせに、裏切るのが早い。お母さんじゃないけどね。


「ほいやあああっ!」

「そこだ! 今こそエクスカリバー発動の時!」


 迷子一瞬で終了。ゲームコーナーの方から双子の存在感がぎゅんぎゅんだ。対戦格闘ゲームだと思ったら、UFOキャッチャーだった。


「あああああ! 落ちたあああぁぁっ!」

「ジーザス! ブルータスお前かああぁぉっ!」


 ブルータスはお前たちには何もしてない。

 とにかく周りの目が恥ずかしすぎて素早く双子の首根っこをひっ掴んでその場を去ると、ゲームコーナーにいた小学生男子たちが生暖かい目で僕を見送っていた。そんな目で僕を見るな。最近の小学生は大人ですね! 良いよ! 景品のお菓子を僕にくれなくて良いから!


「あーあー、あと少しだったのになー」

「ねー? あと少しでなめパカぬいぐるみゲットだったのになー」


 最後に見たクレーンはどこにも引っ掛からずに、ひと仕事終えていたけどな。


「……なめパカ?」


 今、聞き捨てならない単語が聞こえた。パカと言えば僕のアルパカしかあるまい。

 僕が反応した事に気を良くしたのか、双子は首根っこを掴まれ引きずられたままニヤニヤした。器用だな。


「おやおやおや、なめパカを知らないとは!」

「あらあらあら、アルパカ信教徒なのに!」

「勝手に宗教にするな」


 アルパカに対する純粋なイメージが損なわれるだろう。アルパカ神はただ存在するだけで良いのだ。


「相変わらずアルパカに熱いなー」

「どん引きー」


 ちょっとだけ双子の首根っこをきゅっとしてやる。双子が「きゅっ」と呻いた。


「……どうせ、なめパカとか言うのも新しいゆるキャラなんだろ」


 なめたけとアルパカミックスとか、世間をなめた感じのちょい悪アルパカとか。よくあるよくある。


「えー、簡単に分かっちゃうかあ」

「そうなんだよね〜。『なめたけを自分より下に見ていて虐げ続けたアルパカ夫君が、十数年後にはなめたけ社長に虐げられるアルパカ夫平社員になった訳だが』っていうのが正式名」

「長っ! 重っ! 辛いっ!」


 全然ゆるくなかった! シビアだった! アルパカ夫君に涙が止まらない!


 もう心身共に疲れきった僕は、「アイスー」とか「カバンー」とか「お母さんが虐待するー」とか五月蝿い二人を引きずって、何とか家路に着いた。


 ……家路に着いちゃいました! 買い物すっかり忘れてました!


 もう良い。明日行く。双子を振り切って明日行く。

 そんな不貞腐れた僕のケータイに、着信があった。メールである。爆発友人からだ。


『分かった! 手巾←ごおおぉぉっどぅぅはああああんどおおお! ……だよね(´・ω・`)』


 最後のヒットポイントを削られた僕はケータイをクッションに投げてベッドにダイブした。



 総評:頑張れ、僕!





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