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ステップ3



 ○月☆日(土)



 宿題は大切だ。内申点は神様です。おはようございます。僕です。

 現在は双子の部屋にいます。友人からは「リア充爆発しろ」と言うメールが、双子宅の玄関前に差し掛かった時に届いた。今日、双子の家に行く事は言ってないんだが、何故知っている。何故タイミングが合う。ストーカー規制法を適用せねばならないのか。


「さあ! はじめましょう!」

「きっちりやり遂げるよ!」


 双子がキリッと言う。二人には机がない。代わりに折り畳み式の長方形ローテーブルが部屋に置いてあり、二人はそれで勉強している。机の無い理由は、個別に何かやるのがつまらないからだそうだ。流石はべったりな双子。


「さあさあ大先生、こちらに!」

「よろしくですよー!」


 ローテーブルの片側に双子が並んで座り、反対側を僕に指し示す。まあ、言われるまでもなく、双子と勉強する時は常に僕が二人の向かいに座るんだが。これは二人なりの勉強に入る前の儀式みたいなものだ。こうしないと脳が遊び脳のままらしい。常に遊び脳でしかない二人に、勉強脳があるとは驚きである。

 珍しくキリッとした二人は、キリッとしたままテーブルに向かっている。双子に、週明けに提出する宿題が山ほど出た為に、僕も二人に付き合っているのだ。双子のクラスは特別な理由でもない限り本来分けられるものであり、当然二人は別のクラスだ。しかし、いくつか担当教諭が共通しており、そのひとつである数学から大量に出された宿題が、同じ範囲であった。

 そして双子の面倒を見るのが僕だ。昔からの暗黙の了解と言う奴である。


「やる気がある様で嬉しいよ」


 やる気はあるのだ。しかし、常に双子のペースに狂わされるので、僕は油断しない。


「任せて下さい!」

「やり切ります!」


 二人揃ってビシッと敬礼すると、二人はすぐにテーブルに広げられた宿題に取りかかる。素晴らしい。これなら僕も自分の宿題に取りかかれる。


「…………」

「…………」


 双子は無言である。僕も無言で宿題に向かう。分からない問題があれば僕が教える事になっている。


「…………」

「…………」

「………………おい」


 僕は、テーブルに顔を向けたまま二人に声を掛けた。双子は「なんだい」と同時に答える。宿題を始めて、まだ二分。


「もう飽きてるだろ」

「「とんでもねえですぜオヤビン!」」

「嘘をつけ」


 シャーペンは動いてはいたが、余計なものまで動いていた。僕から向かって、双子の左側が右側を小突き、右側は左側に肩をぶつけたりして、お互いにちょっかいをかけているのだ。見えてはいなかったが、テーブルの振動で想像がつく。分かりやすい行動で何よりです。説教がし易い。子育てのしつけで大切なのは、悪い事をしたらその場で注意する事である。


「宿題はどうした」


 出来るだけ凄んだ。怒っている事を伝えるのも大切。しつけは大変だ。


「やっているであります軍曹殿!」


 ビシッと、さっきよりかしこまった敬礼をして答える左側。僕はオヤビンから軍曹に昇格した模様。


「しかし、我らには尊い使命があるのです!」


 右側は背まで反らす。天井しか見えてないだろ。


「理由を、玉砕覚悟で言ってみろ」


 僕の眼光は和らぐ事はない。双子にしてみれば、さほどの効果はないかもしれないが。

 僕に促された途端、二人はしょんぼりと肩を落として、お互いの顔を見合わせた。今までに無いパターンである。良い方向には期待しないが、今回に何かしらの期待をしたい。


「だって、死んじゃうから……」


 しょんぼりしたまま、左側が僕を見上げて言う。いきなり重い話題が来た。


「寂しいと、死んじゃうんだよ」


 右側が悲壮感たっぷりに訴える。意味が分からない。


「何が」


 聞いたところで、ろくでもない答えしか返ってこない事が分かっているのに、悲しいかな。僕は骨の髄まで双子の幼なじみなのだ。もうこの流れに乗るのはパブロフの犬状態である。

 双子は哀愁を漂わせて僕を揃って見つめる。


「「うさぎさんが」」


 ばっちり台詞と声まで揃えてきた。分かりきった事だがこの二人に打ち合わせはない。大事な事なのでもう一度言う。この双子のやり取りに一切の打ち合わせはない。

 そしてやはり、いつも通りで意味が分からない。

 どこからうさぎさんが出て来た。あの小突き合いは何だったんだ。あの間にうさぎさんがいたのか。うさぎさんが心底哀れで仕方ない。

 何を、どうやって、ツッコミしたら良いのか分からず、取りあえずは何かを言おうと口を開いた時、双子が「あ」と同時に悲痛な声を上げた。僕に悲しげな目を向ける。


「あーあー……」

「死んじゃったー……」


 死んだのか。何でだ。その前に何故責める様な目で僕を見る。僕か。犯人は僕なのか。二人の中でもう確定なのか。冤罪どころじゃないびっくり事件が発生である。弁護士を呼んで貰おうか。


「…………悲しんでも、アレキサンダーは帰って来ないよね」


 うさぎさんには名前がありました。どこの貴族様だ。


「うん、そうだね。フォンティーナのためにも頑張って生きて行こうね」


 せめて名前は統一しておけ。何でいつも名前は統一しないんだ。しかも今回は性別も違う。

 心の中でツッコミをする僕をよそに、二人は頷き合うと熱い握手を交わし、尚且つ涙を拭う仕草まで追加した。何だこの良い話みたいな空気は。違うからな。冤罪事件だからな。

 双子はまた僕を見ると、キリッとした。


「「と言う訳で、問8が分かりません」」

「前振りが長い上に意味が分からない。ツッコミづらい。よってお前達には教えない」

「えーーーっ!」

「横暴だーーーっ!」


 どっちがだ。

 そしてもう一度言うが、こんな意味不明なやり取りを、この双子は何の打ち合わせもなくやってのけるのである。どんなに複雑な設定でも瞬時に互いに合わせていくのだ。毎回毎回、ストーリーや設定が違う。それに毎回毎回付き合わされるのが僕だ。


――……僕の苦労が、お分かり頂けた、だろうか。


 取りあえず、宿題は翌日に持ち越したりしつつ何とか終わらせた事だけは、明記しておく。



 総評:宿題を最後までやり切らせる根性が大切です。





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