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ステップ1



 ○月△日(日)



 今日は朝から双子の襲撃を受けている。こんにちは、僕です。

 玄関チャイムのピンポンが鳴り終わる前に、他人様の家に上がり込む双子に、一から常識を教え込むのは不可能に近い。母さんがにこにこと二人を受け入れた時点で積んでいるのだ。


「さあさあお坊ちゃま!」

「高校デビューのお時間です!」

「断る」


 いきなり部屋を襲撃されて、居間に引きずり出されたかと思えば何を突然。


「いやいやいや」

「いやいやいやいや、断るのは早計というもの!」

「もうろくするのは早いよ諸葛孔明!」

「もうろくするのは早いよワトソンくん!」


 三国志かシャーロック・ホームズがどちらかに絞って欲しい。二人とも読んだ事ないだろうに。三国志は読んだ事は無いが、封神演義は読んだらしい。今は関係ないが。


「高校デビューとか、意味が分からない」

「説明しよう!」

「ばっばーん」

「高校デビューとは! 冴えない眼鏡男子が眼鏡を外すと美男子になると言う摩訶不思議現象である!」

「ひゅー!」


 いや絶対に違う。そんな非科学的現象が高校デビューであってたまるか。意味は知っている。僕がデビューする意味が分からないのだ。あと説明担当と効果音担当に分かれる意味はいったい何なのだろうか。役割分担がきっちりし過ぎててちょっと引いた。


「僕は眼鏡男子では無いんだが」

「「それです!」」


 何がそれ。二人のユニゾンが毎回危険を呼んでる気がしてならない。主に僕の平和が破壊される。

 そして二人は今日もお揃いの装いである。ピンクのキャミソールにグレーのショートパンツ。暑かったのだろうか。二人の大胆な服装を今更目にしても、僕の心は動じないのである。どこで見つけたかは知らないがアルパカをデフォルメしたヘアピンは可愛いかもしれない。

 真面目な表情で分析する僕を双子はやはり放っておいてはくれない。世は無情なり。


「眼鏡だよ諸葛孔明!」

「モノクルじゃないよワトソンくん!」


 だからどちらかにしろと。

 双子の片割れが僕のよれよれのパジャマ代わりのTシャツの襟ぐりをひっつかんだ。もう一人は僕の頭をガシッと両手で掴んでいる。端から見たら私刑一秒前である。平穏な休日が吹き飛ぶレベルだ。

 頭を掴んでいる方が僕の頭を今度は撫で回し、最終的に僕の前髪をかき上げた。


「うぬぅ、頭の形はすこぶる良いけども」

「やっぱり足りないよ」

「足りないね」

「眼鏡しかないね」


 足りないとか眼鏡しかないとか、この双子はいったいどうしたと言うのか。そして僕をどうしたいのか。

 険しい表情で二人はお互いの顔を見ると、深く頷き合った。何でこんなに重々しいんだ。絶対にろくな事をしないのだから、この空気はおかしい。前振りとして嫌な予感しかしない。よく考えなくても嫌な予感しかないのだこの二人には。せめて部屋着のTシャツに着替えたい。駄目だろうな。


「たったいまキミ改造計画会議にて決議がとられました!」

「キミの眼鏡男子改造計画法案が可決されました!」

「静粛に! 静粛に!」

「ビール瓶を投げ込むのは止めたまえ!」


 混ざってる。国会中継とプロレスの実況が混ざっている。二人はこのままにしておくと大相撲まで混ぜるかもしれない。


「廃案を要求しよう」

「却下です!」

「一対百八で棄却されました!」


 煩悩の数だけお前たちがいるのか。やめろ。混沌とした未来しか見えない。


「め、が、ね!」

「め、が、ね!」


 僕から離れると二人は奇妙な眼鏡コールを始めた。眼鏡でも召喚するのか。二人なら出来てしまう気がするが、僕は非科学的現象を認めるつもりは無いので、二人の額にアルパカストラップを投げつけてやった。全部ガチャポンで僕が自腹で手に入れた品々です。あとで自主回収します。

 双子は悶絶して床に転がった。


「痛い!」

「投げてはいけません! 先が尖ったおもちゃを人に投げてはいけません!」


 双子がまともな事を言った。だがしかし、存在自体が非常識なのでその諌言は受け入れ却下だ。

 それにそのストラップはスポンジ製の紐でくくるタイプなので、痛いはずがない。むしろよく空気抵抗に耐えきって双子に当たったものだ。あのアルパカも二人の戯れ言に黙っていられなかったのだろう。流石はアルパカストラップ。僕はアルパカに夢を見過ぎている気がしなくもない。今は目を瞑ろう。


「アルパカ神の降臨にだって負けないんだから!」


 僕の可愛いアルパカは神格化した模様です。


「キミへのアタックは続くんだぞー!」


 ならばディフェンスに徹しようか。


「いったい、何がしたいんだ」


 きっちりアルパカを回収しつつ二人に問い掛けると、何故か二人は僕をキッと睨み付けてきた。理不尽だと思うのは気のせいだろうか。


「キャラ付けだよ!」


 片割れの台詞にぽかんとした。きゃらづけ、お茶漬けの仲間か。キャラ弁ならぬキャラ茶漬けか。僕にはあれらの類は理解不能である。母親が毎朝弁当を作ってくれるだけでも有り難いではないか。僕なら毎日同じおかずでも構わない。キャラ弁が作る本人の楽しみなら、認める事もやぶさかではないが。隣の双子みたいにアニメやゲームやゆるキャラやら、毎回毎回違う双子キャラでキャラ弁を作って貰うのは如何なものだろう。自分で作りなさい。ただし姉に限る。妹は……ダメだ。本当にダメだ。とにかく恐ろしい事になるのでダメです。


「ちょっと! 話を聞きなさい!」


 見逃して貰えなかったか。


「地味なキミにキャラ付けは必要なんでパカ!」


 お前がキャラ付けしてどうする。パカとか、アルパカから取ったのなら僕はお前を許さない。


「そうアル! キミの存在感を不動のものにするアル!」


 お前も語尾をアルパカから取ったんだろうが、それはただの二次元中国人です。本物の中国人に日本製炊飯器持参で謝りなさい。

 地味地味と五月蝿い双子ではあるが、僕はそこまで地味ではない。なんとも失礼な双子である。双子は双子であるだけで注目を集めやすい。この二人の様に姿形どころか装いまでお揃いであれば、その注目度は鰻登り。それと比較されれば、成る程。確かに僕は地味だ。ミジンコ並みの存在感だ。余計なお世話である。


「今は眼鏡キャラが熱いパカ」

「鬼畜系! のんびり系! 秀才系! ヘタレ系! その他にもお色気系からチャラ男眼鏡に、風紀委員長に学級委員長まで様々なキャラが眼鏡には宿っているアル!」


 風紀委員長と学級委員長はキャラなのか。


「キミも今日から眼鏡キャラなのパカ!」

「キミの中の何かが目覚めるアル!」


 いつまでそのキャラを引きずるのだろう。明日には元に戻ってくれないだろうか。だいたい一緒にいる僕が変な目で見られるから。大丈夫か。片割れが飽き性だからもう一人も簡単に流されて飽きるだろう。今すぐ飽きて欲しい。

 期待に満ちた二人の目に僕は深々とため息を吐いた。もう、いい加減、解放されたい。


「……分かった。眼鏡キャラになるかどうかは置いといて、用意した眼鏡を見せてみろ」


 どうせ僕の意見など二人にとってのミジンコ。始めから着ける眼鏡も決まっているに違いない。

 僕の返答に二人は「きゃはーー!」と歓声を上げた。イラッとした。


「モチロン!」

「お坊ちゃまに満足頂ける品をご用意していますとも!」


 はっきり言おう。何を用意されようと僕が満足する事は無い。

 双子は善は急げとばかりに、何故か一人が僕を背後から羽交い締めにし、一人が目にも止まらぬ早さで僕の顔に眼鏡を掛けた。どんな眼鏡か見る間も無かった。どうでも良いが他人に眼鏡を掛けられる恐怖は半端ないと思う。何の躊躇いも無く刺す勢いで眼鏡を掛けた双子に、今更ながら慄然とする。

 しかしこの眼鏡、何か、違和感が。

 疑問を口にする前に、双子の片割れが僕の前に手鏡を差し出した。


「さあ、お坊ちゃま、ご覧くださいませ」

「こ、これは……!」


 大きな黒く丸いフレームは見る者からは警戒心を取り払い、親しみを持たせるだろう。レンズには光のエフェクトがありキラリ光る瞳はまるで少女漫画の王子様。しかし、そこには爽やかさしかなく、尚且つ近寄りがたさを無くす為のギャップ狙いの口髭付きの疑似鼻が。

 つまり。


「鼻眼鏡じゃないか!」


 べしっと顔から剥ぎ取って床に投げつけると、双子は床を転げ回っていた。


「に、似合う……っ」

「よそう、いじょ、のマッチ感……っ」

「ギャップ萌え極まれり!」

「あははははははっ! 真面目キャラの、はな、鼻眼鏡ーーっ!」

「おな、おなか、いた……っ! ひひっ、ふはは、苦し……!」


 バンバンとフローリングを叩き、二人は息も出来ない程に笑い転げている。箸が転がるだけで笑う女子、許すまじ。

 二人はフローリングを腹這いで進むと、叩き付けられた鼻眼鏡をがしりと掴んだ。

 そこから蛇の様な素早さで玄関に移動した。何このホラー映像。


「つ、次は、新しいの、用意する、から」

「ぶふっ、た、楽しみにしててねー」


 頼むからもう来るな。

 ドアが開く音がして、二人がさっさと出て行ったのが分かった。まさか、あのまま匍匐前進ほふくぜんしんで帰ったんじゃないだろうな。


「あら、二人とも帰っちゃったの?」


 キッチンから母さんの残念そうな声がした。いいえ違います。愉快犯が逃亡したんです。


「母さん、塩撒いといて」

「あらあら、あの二人ならマカロン撒いた方が良いんじゃない?」


 そんなん撒いたら「きゃほーい」と寄ってくるじゃないか。即座にUターンしてくるだろ。

 我が家の子どもは僕一人なので、母さんはあの二人で娘不足を解消しているらしい。だからマカロンなどと言う可愛らしいものが用意されているのだ。

 僕はよろよろと二人掛けソファに腰掛けた。


 ああ、もう、何だか、大事な何かを失った気分だ。


 手の中のアルパカ神に守護して貰いたい。そんな初夏の休日でした。



総評:もう少し押し負けない自分になりましょう。






日本製炊飯器持参云々は、中国人旅行者が日本の秋葉原に来た際に、炊飯器を買って行くと言う話をニュースか何かで知って、入れてみました。


ふっくらご飯は神!



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