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プロローグ


文章:ぐるコメのひと。

ストーリー&監修:余、竜転のひと。


あてんしょん:事件が起こったりラブがあったり、あまつさえ三角関係に陥るとか、そんな展開はストーブの中で燃え尽きました。

ゆるい日常話で、毎回短めです。




 おはようございます。晴れやかな清々しい朝ですね。僕です。

 僕は現在、在籍する藤ノ森高校に登校する為、初夏の陽気に晒されながらのんびり歩いている。ごめん。面白い事が言えなくて。嫌いな言葉は「で、オチは?」です。高校一年生に成り立ての僕には厳しいハードルだ。

 僕はそれで良いのだ。ちょうど良い。バランスが取れている。……いや、やっぱりちょっと、バランスは悪いかもしれない。もう少し「彼女たち」には自重と言うものを。


「きゃっほーい」

「ぐふっ」


 どーんと、軽やかな少女の声と共に背後から全力の体当たりをされた。朝食が胃の中で暴動を起こしかけた。そして体当たり犯に背中に張り付かれる。


「ふひゃー相変わらずかったい体ですなー」


 何たる言い草。

 だったら何で体当たりした。何で抱き付いた。そして顔を摺り寄せるな。

 僕が彼女に注意しようと振り返ろうとした瞬間だった。


「すかさずどーーーん!」

「げふっ」


 軽やかな以下略。とにかく、二人目の襲撃者も少女だった。彼女は、電柱か何かの陰に隠れていたのだろう。僕が振り返る瞬間を狙い、前方から僕の腰に全力で抱きついてきたのだ。計画的犯行だ。恐ろしい。

 迂闊だった。僕は気付くべきだったのだ。事前に僕は考えていたはずなのに。


――「彼女たち」、と。


 複数犯の犯行が予測されたならば、それに対して油断しない事が常道である。それを怠った時点で僕の敗北は、と、ちょ、待て、僕が考え事をしてる間くらい大人しく、痛い痛い痛い、締め上げる、な。


「キミは、私たちを無視したらダメー」

「考え事する前に、構えー。うらうらー」


 無茶だ。そんな要求をする前に、締め上げるのを止めて欲しい。苦しい。悲鳴を上げていいですか。


「ぎゃー」

「相変わらず、危機感の無い悲鳴ですな」

「というか、ただの音になってるよねー」


 いえ、立派に悲鳴です。僕にしてみれば。

 胃と腰と背中は、もっと悲惨な状態だけど。うげろ、と心で吐いてみる。


「どうして二人とも抱き付くんだ」


 そして出来れば今すぐ解放して下さい。無理か。分かった。しかし犯行の動機くらいは聞かせて貰おう。主に、後々の説教の為に。


「え」


 何でそんな信じられないものに対する様な声を出す。背中側の犯人。


「分からないキミにびっくりです」


 腰側の犯人、そんなお前に僕がびっくりです。

 君たちの思考を理解するのは、大変難解です。

 そんな僕の気持ちが伝わったのか、はああぁという深い溜め息を吐かれてしまった。二人同時に。なんだ。呆れたいのは、僕の方だ。


「……なら、聞くけど」


 背中側が、僕から離れる。良かった。思ったよりも早く解放された。今日は。あくまでも、今日は、である。


「キミは、公平でいたいと思わないのかい?」


 という訳の分からない事を言って、腰から離れるもう一人。腰も解放された。ばんざい。


「……何が、言いたい」


 僕は、開放感いっぱいに息を吐き出して、問うてみる。


「「キミの愛情の在り方だよ!」」


 二人は、声を揃えて言い放った。相変わらずの、シンクロ率だ。感心する。

 僕が見つめる先には、同じ藤ノ森高校の制服に身を包んだ二人の少女がいた。

 揃いの焦げ茶のボブヘアー、揃いの腕時計、揃いのヘアピン。顔までお揃い、浮かべる表情まで同じ。キリッとしている。イラッとする。

 彼女たちは、何もかもがお揃いの、双子の姉妹であった。ちなみに無情な事実として僕の幼なじみである。お隣。おぎゃーと泣いた頃からの付き合いである。僕は二人ほど泣かなかったらしいが、きっとあの頃から全てを受け入れ諦めていたのだろう。

 閑話休題。双子の主張に戻ろう。

 双子はキリッとしたまま、びしっと僕を指差した。ひとを指差してはいけない。


「私が抱き付いたならば!」

「平等に私も抱き付こう!」

「何でそこを平等にした」

「私がキミを締め上げるならば!」

「私も締め上げねばなるまい!」


 無視された。僕の声は二人の勢いにかき消されていく。そういう運命なのだ。そういう、運命、なんだ。


「暴力反対」


 なけなしの反論。


「これは暴力ではありませんー」

「愛情を伝える為のコミュニケーションですー」


 あっさりと蹴り飛ばされた。

 物は言いよう。彼女たちに正しいコミュニケーションの何たるかを理解させる事は、シーラカンスに滅亡しない為の生存戦略を聞き出す事並みに難しいのだ。


「さあ、私たちは平等にキミを構いました」

「ならばキミも私たちに平等に愛情を示すのだ」


 ばばーんと言う効果音と集中線が見えそうな勢いで言い放った彼女たち。意味が分からない。平等とは、こういうものだっただろうか。いや違う。

 主に自分たち二人だけの平等を愛する彼女たちには何を言っても無駄なので、ここは平穏無事に学校にたどり着く為にも強硬手段を取ろう。ああ、びっくりだ。こんなに疲れているのにまだ学校への道のりの半分にも到達していないとか。僕の学校生活はどうなっているんだ。こうなっているんだ。

 僕は落ち着く為に、しっかり二人を見据えた。


「分かった。平等にしろと言うのなら、二人の勉強会は無期延期」

「よおし! 今すぐ登校だー!」

「あらあらお坊ちゃま、制服がよれていますわね、お直ししますわ」

「さあさあ、学校までご案内いたしますぜ旦那!」

「道中の露払いはお任せ下さいませー」


 最後まで言い切る前に双子の態度がころっと変わった。猫なで声だ。あと最後は何時代にタイムスリップした。何を払う気だ。

 とにかく、やっと学校に行ける。僕は安心した。

 ん? 勉強会? ああ、双子はどこまでもお揃いだけれど、双子の学力まではお揃いじゃないんだ。だから、僕が勉強を見て上げないと一人が大変な事になる。双子の仲が大変よろしくて良かった。

 いや、待て。双子の仲が良いせいでこんな風に一方的な、双子曰わくじゃれ合いをされているのだから、全てマイナスに作用している。いったい今日も二人が何をしたくて、尚且つ何が言いたかったのかさっぱり分からず仕舞いだ。

 しかし、これが僕の日常のほんの一幕なのである。


――さて、今日も日課の日記を書く事にしようか。





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