第六話 自作自演劇場『憐れな少年救出短編物語(ギルドサイド』(後編)
皆よ、私は帰ってきた!
………すいません更新しないで(_ _)
だって合宿で風邪引いてダウンして帰ってからもいろいろあったんだもん。
それに携帯で打つの面倒だし
まあそれは置いといて
ついに後編です。
というわけで一言いいですか?
こんなに長くなる予定無かったあぁぁぁ!!
テラと村長に追い出されたトールは、言われた通りちゃんと村の見回りをしていた。
「というかなんかあれだな、確実になんか隠してるな」
話しを途中でわざと切られたトールはテラと村長の二人が何かを隠していることに感づいていた。
(師匠と村長のハムレットさん、なんか仲良かったし。知り合いなのかな?)
うーんと悩むトール。
(それにカイトと村が壊滅した話しはなんか繋がりがあるのかな? 途中で追い出されたから分からないな………まあいいや)
頭が弱いので考えるのを止めたトールは見回りの最後の場所として夕方に来た広場に着いた。広場の中心にそびえる大木は、夕方時と印象を変え、今はとても重く全てを拒否するかのような印象を抱かせる。
そして、そんな印象と同化して大木の下に立って星空を見上げている少年をトールは見つけた。
(もしかして…)
トールは小走りで少年に近寄る。その少年がやはりカイトだとわかるとトールは話しかけた。
「やあ、また会ったね。カイト」
「……なんで?」
何故自分が名前を知っているのか驚いている(顔には出ていないが)様子でこちらを見てくるカイトに、トールは理由を言う。
「村長さんに聞いたんだ、君の名前」
「………そう」
カイトはトールから目を離し、地面に座って再び空を見上げる。
その様子を見て
「カイトは空が好きなの?」
同じように座りながら言うトール。
「………何で?」
「いや、ずっとそうやって空を見ているから好きなのかなと」
夕方にあったときもそうしていたよねとトール。
「………別に好きじゃない」
そこでカイトは間を開け、
「………空に、お母さんとお父さんがいるから」
「………………え?」
固まるトール。
「………死んじゃった。お母さんとお父さん。魔物に殺されて、生き残ったのは………僕だけ」
そうしてカイトは襲われた時のことを思い出しているのか、孤独を感じさせる悲しい表情をした。
そうか。だからカイトの話をした後に、村が壊滅した話を村長さんはしたのか。
そして何故夕方の時の去っていく表情が悲しそうだったのか、その理由をトールは知りカイトのことをかわいそうに思った。
何とかしてあげたいと思った。
それは、カイトとトール自身の境遇が似ているからなのか。
昔。昔といっても二、三年前の話だが、トールも魔法を使えないが故に孤独だった。『落ちこぼれ』のレッテルを貼られ、みんなに蔑まれる日々。
もしあのときテラがトールの剣の才能を見出し、弟子にとっていなかったら、トールはおそらく壊れていただろう。
カイトにもそんな自分と重なる部分があると、トールは思った。
だから、カイトを助けたい。しかし自分は『不可視の剣豪』のテラの弟子とは言ってもEランク成り立てのハンターでテラのように強くもなければ魔法も使えない。
そんな自分がカイトを孤独という悲しみから助けることなど出来るわけがない。
「………ねえ」
「え、あ、な何?」
自責の念の海に溺れていたトールはカイトの声によって現実に意識を掬い上げられ、考えて下げていた頭を上げた。
「………名前、何?」
そうか、まだ名前を言ってなかったなとトール。
「オレの名前はトール・アイトス。『不可視の剣豪』テラ・トウェインの弟子でギルドランクはE。よろしくね、カイト」
「………トール、トール、トール……」
覚えてくれようとしているのか、自分の名前を一生懸命反芻してくれるカイトを見て、トールは嬉しく思った。
(そうだ。強くなくったっていい。カイトを、カイトの心を支えられれば良いんだ)
名前を教えた後、トールとカイトは何もしゃべらずに、しかしそこに余所余所しい空気はなくまるで兄弟のように並んで大木の下に座っていた。
「そろそろ戻るかな。宿で師匠も待っているだろうしね」
そういって立ち上がるトール。
「………うん」
心無しか柔らかくなった口調で返事をして、カイトも立ち上がる。
「あれ、そういえばカイトはどこで暮らしているの?」
「………バームさん家にいる」
「……そっか。バームさんは優しい?」
「………うん。良く、してくれる」
ちゃんと返事をしてくれるカイトを見て、無口なのは感情表現が苦手なだけなのかとトールは思った。
「じゃあね、カイト。また明日」
そういってカイトから離れ、宿に戻ろうとするトール。
そのときだった。
風が吹く。
大木の葉が揺れる。
「トール」
--------------------ゾク
「!!」
思わず悪寒が走る声で自分の名前を呼ばれたトールは声のする方、後ろを振り向く。
もちろんそこにはカイトがいた。
しかし、まとっている雰囲気が先ほどとはまるで違う。今のカイトのそれは、子供が持つものとはあまりにかけ離れていて、異質な物であった。
「トール」
そしてもう一つ、決定的な違いがあった。
さっきまでのカイトの黒い眼。
それが、赤く輝く眼に変わっているのだ。
「トール」
カイトの三度目の呼びかけに、カイトの今までと全く違う雰囲気、口調にとまどいを覚えながらトールは答える。
「……なんだい、カイト」
一瞬の静寂。そして、
「それは本当にFランクか?」
「え?」
なんのことか分からないトールに、カイトはもう一度言った。
「依頼の魔物は、本当にFランクか?」
早朝、まだ村の人々が活動を始める前の時間、魔物が出るという畑にテラとトールは来ていた。
「やはり足跡が残っているな。しかも森まで足跡が続いている。これをたどれば魔物の所に行けるかもしれん。」
「……」
「この時間帯は一番魔物の動きが鈍くなる。運が良ければ不意をつけることができる」
「……」
「今の内に……っておいトール聞いているのか?」
「……え、あ、はい。な、何でしょうか?」
「聞いているのかと言っているんだ馬鹿弟子。お前の為に魔物の追跡法を教えているんだぞ。」
「すすいません師匠。聞いてませんでした……」
トールの言葉にため息はつくテラ。
「もう一度言うから今度はちゃんと聞けよ?」
「……はい」
「ここに足跡が残……」
最初からきちんと説明しているテラだが、正直トールの耳には一つも入っていなかった。
何故かというと昨日の出来事が頭から離れないからだ。
(昨日のカイトの言動……)
『本当にFランクか?』
(あれは、何だったんだろう……?)
あの後、謎の言動の直後だがカイトはトールに背を向けて走り去り消えてしまった。
「カイト……君はいったい……何者なんだ?」
「話を聞け馬鹿弟子!!」
「痛っ!!」
「おかしい」
森での魔物捜索を打ち切り空が暗くなり始めた頃村に戻って酒場に行き休憩しているときにテラが言った。
酒場のテーブル席に座り、テラの手には先程注文した茶(みたいな物)、トールの手にはソーダ(みたいな物)が入ったグラスが握られている。
「何がですか?」
ソーダを一口飲み、トールが言う。
「お前は気がつかなかったのか?」
茶をすすりながらテラ。
トールはしばらくソーダを飲みながら、思い当たることを言った。
「もしかして、魔物の足跡の事ですか?」
「それだ」
頷くテラ。
確かに、今考えるとあれは変だったとトールは思った。早朝森での捜索時に、畑から辿っていた足跡が森の中で消えていたのだ。他に見つけた足跡を辿っていってもしばらくすると消えていた。
しょうがなく魔物が好む肉を置いておびき寄せても魔物は出てこなかった。
あのときトールは簡単には魔物は出てこないんだなぐらいにしか思わなかったが、
「普通Fランク程度の魔物ならば知能は無いに等しい。今回の討伐対象の"ローウルフ"も足跡を消すという行動はしないはずだ。消したとしてもこの私が追えなくなるわけがない」
テラの言葉にトールは頷いた。
テラはさらに、
「それに罠として置いておいた肉にもすぐにおびき寄せられてくるはずだ。」
「じゃあなんで魔物は出てこなかったんですか?」
「……分からん」
首を横にふるテラ。そこでいったん茶をすすり、しばし考えてテラは言った。
「もしかしたら、Fランクじゃないのかもしれん」
「ぶっ!!」
「……何をするんだ」
「すすすすいません!!」
飲んでいたソーダを盛大に吹き出しテラにかけてしまうトール。すぐに謝り服にかかってしまったソーダを拭き取りながら理由を述べる。
「すいません。……師匠がカイトと同じ事を言うんでつい驚いてしまって」
「……カイトか。あの少年がなにか言っていたのか」
眉をぴくりと動かしテラ。
「はい。ええと……確か『本当にFランクか?』と……。あ、噂をすればあそこに」
ほらといってトールが指さした方には酒場のドアが開きっぱなしの出入り口の向こうに見えるおなじみの大木の下にカイトが座っていた。
もうほとんど夜になりつつある村を松明の灯が辺りを照らしている。その灯りは大木の下まで照らし、カイトの表情まで照らしていたがその表情はやはりまだ悲しそうであった。
テラは少し考えた後立ち上がり言う。
「カイトと話をする」
「師匠?」
不思議そうにテラを見つめるトール。
「何故そんなことをいったのか興味がある。お前もついてこい」
テラの言葉にトールも立ち上がり二人とも酒場を出て大木の下のカイトの所に向かった。
--------------------そして舞台は整った。
「カイト〜〜〜〜」
「!………トール!」
トールの呼びかけにさっきまでしていた悲しい表情を吹き飛ばし嬉しそうな表情をするカイト。
「カイト、紹介するよ。テラ・トウェイン。オレの師匠だ」
「テラ・トウェインだ。よろしくなカイト」
そういってテラは握手の意の手を差し出すが
「………」
差し出されたテラの手を握らないカイト。
(師匠のことを怖がってるのかな?)
「カイト、師匠は良い人だから怖がらなくて大丈夫だよ」
怖がっているカイトに言うトール。
「……よろしく」
トールを信用し握手をするカイト。
「……懐かれているんだなトール」
「いや〜それほどでも」
「ふん!」
照れているトールを叩くテラ。
「叩くことはないじゃないですか……」
「さてカイト。君と話したいことがある」
不満を言うトールを無視し本題に入るテラ。
「カイトは昨日トール魔物がFランクか問うたな。それは何故だ」
まるで攻めるような口調で言うテラ。それにトールは待ったをかける。
「し師匠! もっと口調を良くしてください! だから子供に嫌われるんですよ!」
「お前は一言多いし黙っていろ。私は今カイトとしゃべっているんだ。………カイト、何故そう思ったんだ。答えろ」
口調をさらに厳しくして問うテラ。
しばしの沈黙の後、
「……感じたんだ、急に」
「……感じた、だと………?」
カイトの発言の意味が分からないという表情のテラ。
さらに詳しく質問しようとする。
その時だった。
「魔物だ!魔物が出たぞ!!」
村人の焦った声が村に響き渡る。その声に家の外にいた村人たちは混乱し始める。
すぐに叫んだ村人の元に言って話しかけるテラ。
「魔物はどこに出た?」
「ひ、東の森の近くの畑に! い、一匹じゃねえ。何十匹もだ!」
「きゃあ、魔物よ! 村に入り込んできたわ!」
振り向くテラ。女の声のする方向には村に入り込んできた一匹のローウルフが辺りを走り回っていた。
「師匠!あいつはオレがやります!」
そういってローウルフに剣を持って飛びかかるトール。トールは剣を振り落としたが魔物はそれをひらりと避けて、逃げて行ってしまった。
「くそ!逃がすか魔物め!」
「馬鹿!そっちには行くな!」
テラは止めるが、しかし時すでに遅くトールは魔物が逃げていった方向………夜の東の森に走り去っていってしまった。
追いかけようとするも先程の一匹入り込んだローウルフの後を追ってか、ぞくぞくとローウルフが村に入り込み広場にも来ていた。
そしてカイトもいないことにテラは気付いた。姿をさがすとトールが走っていったあとを追いかけていくカイトを見付けた。
「くそ! あの馬鹿ガキどもめ!」
愚痴るテラの後ろからローウルフが襲いかかる。
「あぶない!」
村人が悲鳴をあげる。しかし、
「グャン!」
気づいたときには、テラが剣を抜いていて手に持っている状態。魔物はというと真っ二つになっていた。
「え?」
何が起こったのか分からない村人たち。
「『不可視の剣豪』。その剣を振る速度は人の限界を超え目には見えることは無く、魔物たちは知らぬ間に真っ二つ……てことですよ」
解説をしながら村人たちとテラの元に歩いてくる村長。
「村長!!」
「あなた達は家に戻って、ここは危険です」
村長の言葉に、家に戻っていく村人達。
「……ハムレット」
「どうしたんですかテラ?」
さっき魔物を斬ってから動かないテラを不思議そうにみるハムレット。
「依頼の魔物はFランク……それは間違いだ」
しかし剣を握るその手は震えていた。
「………どういう事ですか?」
表情を強ばらせ問うハムレット。
「こいつはFランクローウルフなんかじゃない………
こいつは、Dランク"メタモアフォーズ"だ」
「メタモアフォーズ?!なんでそんな魔物が?!」
予想外の魔物に驚くハムレットに、焦った表情でテラが言う。
「トールとカイトが危ない!」
魔物が逃げた先は東の森の入り口だった。
魔物はいったんそこで逃げるのやめ、トールの方に向かって方向転換しその牙を向けてきた。
「くらうかよ!」
身を翻し攻撃をよけるトール。そのままがら空きになった魔物の腹へ剣を突き立てる--------
ガキンッ!!
「え?」
「ガウ!」
「うわっ!」
よけられた後すぐにまた攻撃してきたローウルフの攻撃をよけるトール。だが、
「剣が……はじかれた?」
「"メタモアフォーズ"………他の魔物の姿形を取りこみ、その魔物の数倍の力をもって変態をする変異性魔物。……なんでそんな魔物が?」
「わからん……そもそもこんな場所には存在しない魔物だ。……しかし、斬った時の感触、間違いない」
テラは二度メタモアフォーズに取り込まれた魔物に出会ったことがある。その両方とも、魔物の体皮が異常なまでに堅かった。
今回もそれと同様だった。
「おそらく今のトールでは絶対に勝てない。斬ることすら出来ないだろうからな」
声音こそ落ち着いているが、テラの表情は焦っていた。
「早くトール君とカイトを助けに行ってあげたら?メタモアフォーズって言っても所詮はDランク。ここは僕に任せて」
広場にいるローウルフの姿をしたメタモアフォーズの群れを見ながら言うハムレットは剣を構える。
「頼んだぞハムレ……」
ここは任せた、と去ろうしたときだった。
[ズドン!]
「「!!」」
大地を押し潰すかのような轟音にテラは足を止め、ハムレットは音のする方を向く。
[ズドン!!]
「訂正するよテラ。行かれたら僕が、村人が死ぬかもしれないから一緒に戦って欲しいな」
ある一点を見つめたまま顔を動かさないで言うハムレット。
[ズドン!!!]
轟音は村の前まで来て、夜の月明かりがその轟音を出している魔物を照らし出す。
「ああ、同感だハムレット。是非とも共闘を願う」
その魔物を見てテラも言う。
そして
「ギギャアアァァァァァァァァァァァァァァァアアアア!!」
村に、Aランク魔物"デバース"が襲い掛かった。
夜の東の森の中をトールは走っていた。
「あれはDランクのメタモアフォーズじゃんかよ!」
走りながら後ろを振り向くとそこにはローウルフの姿をした別の魔物がたくさんトールの後を追いかけてきていた。
テラからメタモアフォーズに取り込まれた魔物の話し(勿論体皮が異常に堅くなることも)を聞いたことがあるトールは、すぐにこれがそうだと気付いて逃げていた。
『ハンターたるもの、命あっての物種』
テラにそう教えこまれているトールはすぐに倒せないと判断し、いまこうして走って逃げていた。
そして冒頭部分に戻る。
走る。
走る。走る。
走って、走って、走る。
「はあっはあっはあッ……」
半月の夜。
月の光があまり届かない森の中を走り続ける。
「はあっはあっくそッ! はあっはあッ…」
今、夜の森の中を満たす音は、風の音、風で揺れる木々の音、青年が全速力で走る音。
そして、その青年を、二十頭以上の魔物が追いかける音。
「はあっはあっ、な……んでッ」
息も絶え絶えになりながらも青年、トール・アイトスは走り続ける。
彼はFランクの魔物の討伐依頼を受けて、近くの村からこの森に来ていた。
そのはずだった。しかし、
(なんでDランクの魔物なんだ!?)
彼の後を追いかけている魔物はFランクなんかではなく、まさしくDランク。
彼、トール・アイトスでは手も足も出ない。
「はあっはあっ……あッ!?」
夜の森では辺り一帯が暗く、視界が悪いため、地中から這い出ていた木の根に気付かず、トールは足を引っ掛けて転んでしまった。
「はは……こ、こりゃまずったな…」
後ろを見ると、そこには数多くの魔物が迫ってきていた。
しかし今度はトールの背後から物音がした。
「!」
すかさず振り返るトール。そこには、
「………トール、大丈夫?」
「カ、カイト!なんでこんなところに?!」
「………トールが心配で」
そう言ってる間に、魔物はもうすぐそこ、トールとカイトの目の前に来ていた。
「くそっ!!」
もう逃げられないと判断したトールは剣を抜いてせまりくる魔物に向ける。
(せめてカイトだけでも逃がさないと!)
「カイト、オレが囮になる!早く逃げて!」
「………やだ」
もうすでにトール達に追いついていた魔物達は彼等を取り逃がすまいと囲みはじめる。
「囲まれてたまるか!」
すぐに魔物の狙いに気づきそうはさせまいとするトール。
「いまならまだ囲まれてない!早く逃げてカイト!」
「………やだよ」
魔物達を剣で斬れないが剣の腹で当て、吹っ飛ばすトール。しかしそれと同時に襲い掛かる魔物の牙を弾かなくてはいけない。そう長くは持たない。
「逃げるなら今しかないんだカイト!だから」
「やだよ!!!」
カイトの悲痛の叫び。それを聞いたトールは思わず剣を動かしていた腕を止め、カイトを見る。
カイトは泣いていた。
「せっかく!せっかくこの村に来てから初めて仲良くなれたんだ!!」
「カイト……」
「……死んじゃうなんて許さない!!絶対逃げない!!」
カイトらしからぬ感情的な言葉に思考を欠いてしまったトール。故に、
「ガウッ」
「く!……しまっ…!」
トールに向かって飛び掛かる魔物。トールはそれを咄嗟に剣でいなすが、無理に体を捻って防いだために転んでしまった。
そこ今だといった様子で飛び掛かろうとする魔物。
(ここまでか……)
トールは死を感じ、来るであろう痛みに思わず目を閉じた。
しかし、いつまでたっても痛みが襲い掛かってこない。
恐る恐る目を開けてみると、目の前の魔物達はトールに向かって跳び上がる直前のまま止まっていた。
恐怖の表情を顔に貼付けて。
(どういうことだ…!?)
魔物はトールを見ていなかった。トールより後ろを凝視して恐怖していた。
トールは魔物が見ている方を向く。
そこには眼を"紅く"したカイトが覇気を纏わせ立っていた。
(これはあの時の!)
「去れ」
カイトの声に魔物は体を震わせる。
「トールを殺したら、赦さない」
カイトの声にじりじりと身を引く魔物。
「………去れ!」
魔物達は一斉に逃げ出した。
しばらくして立ち上がったトールはカイトに走り寄る。
カイトの眼はいつの間にか紅から黒に戻っていた。
「………トール、大丈夫?」
「カイト……さっきのは」
「ギギャアアァァァァァァァァァァァァァァァアアアア!!」
突然の咆哮に思わず耳を塞ぐトール。辺りを見回すと、森の中からでも見える巨体をした魔物が村を襲っているのが見えた。
「やばい、村が……!!」
焦るトール。しかし、
「トール」
「……カイト?」
「僕になら止められる」
再び眼を紅くしたカイトが言った。
その馬鹿げた巨体から生えている六本の腕から繰り出される連撃を避ける。がら空きになっているデバースの腹にお返しとばかりに連斬を加えるテラ。しかし歴戦の経験からなのか直ぐに腕を寄せて守るデバース。
「なかなかに強いね」
「ああ、やはりSランク並のデバースだ」
ハムレットの分析に頷くテラ。
デバースはその凶暴さから格上のSランクの魔物にさえ闘いを挑むことがある。そして倒してしまうことさえもだ。その時点でそのデバースはSランクに格上げになる。今テラが戦っているデバースの強さもそれだった。
「そっちは終わったか、ハムレット?」
「おかげさまでね。君がデバースの注意を引き付けている間にメタモアフォーズは全滅させることができたよ。だけど…」
そう言ってデバースを睨むハムレット。
「あとはこいつをどうするかだね」
「ああ。だが……」
怪訝な顔をするテラに、ハムレットはどうしたと聞く。
「あのデバース……。何かに怯えている様な……それにさっきから動きが泊まっている……?」
そう。ハムレットが来た辺りからデバースは動きを止め、まるで何かに怯えているように体を震わせていた。
確かに、とハムレットが呟く。
(しかもさっきほど意識がこちらに向いていない。あいつは何処を見ている?)
テラはデバースの視線の行く先を辿る。そこにあるのは東の森のみである。
(森の中に何かにいるのか?それとも……!!)
東の森の中から出てきた人影に気付いたテラ。その二人はトールとカイトであった。
(二人とも無事だったのか!!)
半ば二人が死んでいると思って絶望していたテラは喜んだ。が、それ以上に不可解なことがあった。
(何故生き残れた?それにカイトのあの紅い眼は……)
トールは直ぐにテラとハムレットを見付けると駆け寄って来たが、あろうことにカイトはデバースに走り寄っていった。
「師匠!」
「馬鹿弟子!何をしている、早くカイトを止め……?!」
デバースに殺されるぞと言葉を続けようとしたテラはそれが間違いであることに気づいた。
デバースにある程度まで近付き、走るのをやめ歩み寄るカイトの事を、怯えた表情で見るデバースの光景がそこにはあった。
「出ていけ」
さっき話しをした時とは全然違う声音で喋るカイトにテラは驚く。
「ギ……ギ……
呼吸すらままならないほど追い詰められた様子のデバース。カイトが一歩近寄る度にデバースは一歩退く。
「この村から……」
歩みを止めデバースの前に立ち、カイトは大声で言った。
「出ていけ!!!」
そして
「ギャアァァァァァ!!」
デバースは逃げて言った。
「……どういうことだトール」
信じられない光景を間近で見たテラはトールに問う。
「……分かりません。でもオレはカイトのあの力に助けられました。今俺が生きて師匠の前にいられるのもカイトのおかげです」
「……そうか、彼に感謝しないとだな」
テラとトールは一人立ったままでいるカイトの所に行く。
「カイト、大丈夫?」
「……トール。………うん大丈夫。ちょっと疲れただけ」
そこでカイトはテラを見て
「………トールのお師匠さん、大丈夫?」
「ああ大丈夫だ、助かったよ。それに弟子を助けて頂き、ありがとう」
テラはカイトに対して頭を下げる。
それにカイトは首を横に振り、
「………ううん、僕もトールに助けてもらったから」
そうして話している時だった。
「あ、悪魔だ!やっぱりあいつは悪魔だ!」
先程のカイトがデバースを村から追い出した一部始終をを見ていたのか、村人がカイトを指差し、そう叫んだ。
「あんなデカイ魔物が逃げていったぞ!あいつは悪魔だ!!」
その声に家の中に逃げていた村人達が外に出て騒ぎはじめる。
「あの子が魔物を?!やっぱり!!」
「先日の村が壊滅した原因だってきっとあいつだ!」
「あいつがいたら村が魔物に壊されるぞ!」
「出ていけ!!」
「そうだ出ていけ!!」
次々と話しが広がり、カイトに村人からの罵詈雑言がとぶ。
「ま、待てよ!カイトは村を救っ……!」
トールは村人達に抗議しようと声を荒げかけたが、いつの間にか後ろに立っていた村長に肩を掴まれ遮られた。
トールは村長に言う。
「村長、どうして止めるんですか!カイトは彼等を、村を救ったんですよ?!それをちゃんと説明すれば」
「分かってはくれないだろうね」
「な……?!」
「カイトは君達が来る前から悪魔と呼ばれていた。そして今こうして事が起こり、カイトが魔物を追い払った……いや、彼等の目には魔物がカイトを見て逃げたと映っただろうね。村人達はカイトのことをどう思う?」
村長の正論に、トールは言い返せなかった。
「それでもオレは……」
「残念だけどトール君…………それが人だ」
トールはカイトを見る。自分が罵詈雑言を浴びているのに動じていないように見えるカイト。だが、そう見えるだけだ。トールにはカイトが心で泣いているのが痛いほど分かった。
だから、
「師匠、カイトを地方都市"パーシス"に連れていきませんか?」
「トール……」
トールの言葉にテラは驚いた。
「オレは弱いです。今回だって何もしちゃいない。カイトだって守れない、逆に今ここにこうしていれるのだって、、カイトのおかげです。そのカイトがこんなところにいるなんて……オレには……」
「……」
トールの言葉に、テラは黙ったままでいる。
「僕からもお願いするよテラ」
「……村長さん?」
「こうなってしまった以上、カイト君を村に残すのは村長としての立場上無理だからね」
そして今度はテラにだけ聞こえるように、
「……カイト君の"絶対属性"のこともあるからね」
と言った。
「………カイト、お前の意見が聞きたい。お前はどうしたい?」
黙っていたテラはカイトに質問する。
「………僕もトールといたい。一緒にいたい。」
カイトは小さく、それでいて意思を篭めて言った。
「そうか……。」
そこでテラはトールを向き、
「トール、人の一生は重い。人が計れないほどにな。それを支え背負う覚悟は、カイトを背負う覚悟はあるか?」
「…ある、あるに決まってます!」
テラの問いに、トールは力強く答える。
テラはトールの覚悟を確認すると、
「今日、今すぐにでもパーシスに向けて発つ。こうなったら早ければ早いほど良い。トール、お前は先に発つ準備をして村の出口まで行け。3分で済ませろ」
「分かりました!」
そう言ってトールはすぐさま準備をするため宿に行く。
「…さてカイト。別れを言いたい人はいるか?」
いるならいまのうちだぞとテラ。
「……あそこにいる二人に」
そういってカイトが指差した場所には、カイトの事を心配そうに見つめる老夫婦がいた。二人はカイトの方に寄って来ると、カイト、テラ、村長の顔を順番に見て、悟ったような表情をした。
老婦人が口を開く。
「……村を出ていってしまうんだね、カイト」
「……うん、おばさん……今までありがとう。…おじさんも」
「いつでも戻ってくるんじゃぞ、誰が何と言おうとここはお前の家なんだからな」
「……うん。……おばさんとおじさんに出会えて、良かった」
そこで老夫婦はテラに体を向けて
「カイトを宜しくお願いします」
そこにはカイトは慈しむ優しさと別れへの悲しみがあった。
「……分かっている。カイトは私と弟子のトールが責任を持って育てる」
テラは老夫婦にそう言うと、カイトを見て
「時間だカイト、行くぞ」
「……分かった」
そうしてカイトは老夫婦と別れ、テラと村を出た。
村の出口に行くと言われた通りに支度を終えたトールが待っていた。
テラがカイトとトールに言う。
「ここからパーシスまで夜通し走っていくぞ。それなら昼前ぐらいにパーシスにつけるだろう」
「え、でもカイトは……」
言葉を止め、カイトを見るトール。
「………僕、そんなに走れない」
カイトは不安そうにテラに向かって言った。
しかしテラはにこやかに笑い、カイトの頭を撫でて、
「大丈夫だぞカイト。だって………………………………………………………」
テラはじっくりと溜め
「………トールがずっとおんぶしてくれるからな」
そんな、ことを言った。
「は?」
呆然とするトール。
「え?それってつまりオレがカイトをおんぶしてパーシスまで走れってことですか……?!」
「なんだ、出来ないのか?」
「いや、さすがにそれは……」
「カイトを背負う覚悟があるんだろ?」
トールの否定的な態度に、テラはにやりと笑い言う。
「まさか……ないのか?」
「…!ありますよ!ええ、背負う覚悟ぐらいありますよ!」
ガバッとカイトの方を振り向くトール。
「カイト、背中に乗って!」
正直あまりの迫力にカイトが若干引いたの秘密。
(意外と重いな……)
まだ8歳ぐらいのカイトをおんぶし立ち上がったトールは思った。
(……これが人の、カイトの人生の重さか)
そうだ、オレはこれからカイトを支えて生きていくんだ。
「カイト」
背中に抱き着くカイトにトールは言う。
「……何、トール?」
背負っていて顔が見えないカイトに向かってトールは言った。
「これからよろしくな!」
「…………うん!!」
カイトの声は、今までトールが聞いた中で、一番嬉しそうなものだった。
こんな駄糞を踏んでいただき……間違えた、こんな駄文を読んでいただきありがとうございます!
次回は自作自演劇場の種明かし編をやります。
久しぶりに神様が出て来るよ!!