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第四話 自作自演劇場『憐れな少年救出短編物語(ギルドサイド』(前編)



この劇場は、脚本家 カイト と 監督 カイト の二人のスポンサーのご提供でおおくりします。

走る。



走る。走る。



走って、走って、走る。



「はあっはあっはあッ……」



半月の夜。



月の光があまり届かない森の中を走り続ける。



「はあっはあっくそッ! はあっはあッ…」



今、夜の森の中を満たす音は、風の音、風で揺れる木々の音、青年が全速力で走る音。



そして、その青年を、二十頭以上の魔物が追いかける音。



「はあっはあっ、な……んでッ」



息も絶え絶えになりながらも青年、トール・アイトスは走り続ける。


彼はFランクの魔物の討伐依頼を受けて、近くの村からこの森に来ていた。


そのはずだった。しかし、



(なんでDランクの魔物なんだ!?)


彼の後を追いかけている魔物はFランクなんかではなく、まさしくDランク。


彼、トール・アイトスでは手も足も出ない。



「はあっはあっ……あッ!?」


夜の森では辺り一帯が暗く、視界が悪いため、地中から這い出ていた木の根に気付かず、トールは足を引っ掛けて転んでしまった。



「はは……こ、こりゃまずったな…」



後ろを見ると、そこには数多くの魔物が迫ってきていた。



トールは、何故このような状況に陥ったのか、記憶を振り返った……………






―――――――――――



地方都市"パーシス"からある小さな村を結ぶ林道に、剣を腰にさして並んで歩く二つの人影があった。


一人ははたから見てもはしゃいでいるのが分かる快活な青年。


もう一人は顔から判断するに50歳半ばといった辺りだが、その姿は凜としていて覇気を感じさせる、まさにいぶし銀の艾年男性。



青年の名はトール・アイトス。


最近ギルドランクEになったばかりの新米ハンターだ。


対してその隣を歩く男性の名はテラ・トウェイン。


トールの師匠とも呼ぶべき存在で、ギルドランクはS。二つ名『不可視の剣豪』を擁するギルド屈指のハンターだ。



そんな二人はただ今、ギルドの依頼を受けて魔物が出るという村へと向かっている途中である。



「師匠。今回は依頼にご一緒させていただき、ありがとうございます!」


「今回はさして難しい依頼ではないからな。お前を一緒に連れていっても良いと判断したまでだ。」


トールの浮かれた声に、師匠ことテラは厳格な声で答える。



「それでも、今までどんなに難易度が低いランクでも、一緒に連れていってくれなかったじゃないですか」


「それは単にお前が弱かったからだ」


つまり今は弱くない、と言ってくれているのだとトールはテラの言葉を聞いて思った。


昔から、テラがトールを弟子にしたときから、テラは一回も「お前にはまだ早い」と言って、トールをギルドの依頼に連れていくことはしなかった。


故にトールは、今回自分を連れていくのは自分のことを師匠が認めてくれた、強くなったと認めてくれたのだと思い、喜んでいた。


(今回の依頼で師匠に良いところを見せられれば………!)


トールはそう意気込みながら、村へと向かうのであった。






地方都市から長い道のりを歩いて、ようやく村に着いたときには、もう夕方であった。


「私は依頼の詳細を依頼主の村長の元に伺いに行くから、お前はその辺をぶらぶらしていろ」


どうせ待っていろと言っても待たないからなお前は、と言葉を付け足したテラはトールを置いて村長宅に向かった。


トールは元来堪え性のない男だ。


だから、テラが「お前はここで待っていろ」と言ってもすぐにふらふらどこかへ行ってしまう。


そのことが、テラがトールを連れて行かない理由のひとつなのだが、彼が知る由もない。





トールはぶらぶらしていろと言われたので、村の広場に来ていた。


広場の中心にはとても大きな木があり、その周りでは子供達が思い思いに遊んでいた。が、夕方だからなのだろうか、一人また一人と遊ぶのを止め、それぞれ家へと帰って行った。


「いや〜しかし、村は小さいのにこの木は似合わず大きいな〜」


トールは若干失礼なことを言いながら、木を見上げた。


近寄れば近寄るほど、その大きさに圧倒される。



そうしてスゲーと思って木に近寄っていくと、トールは木の下に佇んでいる黒髪の少年に気が付いた。



(うわ、かっこいいなあの子。それにしても、何をしているんだろう?)



黒髪の少年は、ただ単に立っているだけだが、どこか空を見つめ物思いに耽っている様にも見える。


トールはそうしてじっと立っている少年を見ていると、少年もこちらに気付いて見返してきたので、近づいて話し掛けることにした。


「やあ、こんなところで何してるんだ?」


「………………」


だが少年は何も言わない。


トールの顔を見るだけで、なんの反応も示さない。


「遊んでるの?」


「………………」


「もう夕方だよ、帰らなくて良いの?」


「………………」


トールが話し掛けるも、無反応な少年。


(無口な子だな……)


トールは、次はなんて言葉をかけようか悩んでいると、少年の目が自分の顔から腰に差している剣の方に向いたことに気が付いた。


「あ、この剣? オレって実はこれでも一応ハンターの端くれでね。ギルドの依頼で師匠と一緒に魔物退治するためにこの村に来たんだ」


「……………魔物?」


お、食いついてきた。


トールは少年の興味を引くために、さらに言葉をかける。


「そう、魔物。でもまああんまり強くないらしいからね。依頼のランクもFだったし。討伐依頼の魔物もFランクの、…たしか"ローウルフ"?だっけな。まあ弱い魔物だからね」


余裕で倒せるよ、とトールは言葉を付け足した。


「…………………」


「それにオレの師匠は凄く………あれ?」


トールは饒舌に話していたが、話しの途中で少年が走り去っていってしまったので驚いた。



「…なんか気に障ることでも言ったかなオレ?」



自分の言動を振り返って見るが、そんなものは見当たらない。


トールは首を傾げた。



「おーーいトール!」


自分の名前が呼ぶ声がした方を見るトール。当然、そこにはテラがいた。


「師匠ッ!!」


トールは子供の様にテラの下に駆け寄る。


「何をしていたんだ、あんなところで?」


テラは訝しげに言う


「いや、なんもしてないです。ただぶらぶらしてました」


「そうか。村長から大体の依頼の内容は聞いた。東の森の近くにある畑に魔物が頻繁に出るらしい。今日はもう遅いから村長が用意してくれた宿にいって休んで、明日その畑に向かうぞ」


「了解しました!」



宿に向かって歩いていくテラの後に付いて行きながら、トールはさっきの少年のことを思っていた。



(不思議な雰囲気の少年だったな。それにあと………)



話しの途中で走り去っていったときの少年の表情。



その表情はどこか………









悲しそう、だったな。



この劇場は、脚本家 カイト と 監督 カイト の二人のスポンサーのご提供でおおくりしました。



次回は 自作自演劇場『憐れな少年救出短編物語(ギルドサイド』(中編)をおおくりします。

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