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小話 ~ジュード~ ドラッド砦の悪夢4

 最終戦は皇都郊外にある二つの砦で行われる。尚その砦の兵士達は、勝ち残った地方砦へと一時出張させられるので警備の問題はない。手続きは果てしなく面倒だが。そしてそれを、忙しいからと三日で仕上げ(させられ)た上司も、この日ばかりは観戦するために赴いていた。


「俺は責任者だからな。見届けるのは当然だが、なぜお前がいる?」

「僕の可憐な竜騎士の勇姿を見にきただけだよ」

「誰がお前のだ!あいつは俺のものだ」

「それも、もうすぐやめると聞いたけれど?彼の永久先は僕に決まりだ」


 開始前の双方の代表者が集まる目の前で繰り広げられる不毛な争い。明らかに誰を差しているか判る人物は、見慣れた争いを傍観に徹し、あるいは高位の存在に緊張していた人物は笑いを懸命に

堪え、当事者のリアナは氷の微笑で二人を止めていた。


「お二人ともいい加減になさいませ。ここは公の場です。喧嘩をしに来ただけならば、即座に帰って溜まった書類仕事でもしていて下さい」


 冷たい風が、二人に吹き荒ぶ。並んだ竜騎士達はお見事とその手腕を讃え、代表者達はひたすら小さくなった。




 上官でも年下ということもあって、親しく付き合うことが出来たのだが、あの中に平然といるリトルを見ていると、やはり世界が違うんだなとぼんやりマルーカは思った。皇太子殿下や騎士隊長に平然と口を利くのを許される立場なのだ。本当なら、関わりになることも無かったはずの人。短い間だったが、寝食も惜しんで砦のために働いてくれたことをマルーカは知っている。たとえそれが任務であったとしても感謝していた。それはジュードもだが、あくまで彼の場合は指南役であって、それ以上のことはしていない。リトルのお陰で砦の生活は格段に向上し、腐敗もなくなった。厳しすぎる訓練だったが、その甲斐あってこうして最終戦まで残れたのだ。彼の働きを無駄にしないためにも、全力で勝ちたい。


「ただいまより、地方対抗戦の最終線を行う。両者とも、帝国の名に恥じぬ戦いを見せよ」

「はっ」


 その場に低頭していた全員が声を揃える。志気も高いようだなとヴァリアスは満足の様子。準備をするために自陣へ戻る中にリアナとジュードの姿もある。戦いそのものに参加は出来ないが、最後に策を授けるなり、鼓舞をするなりすることは許されているのだ。


 一月の間にいくつもの戦いを経た兵士達の顔つきは変わっていた。見ない間に逞しくなった彼等を誇らしく思う。いつも笑顔をたたえた麗人の姿に、一同は畏怖と敬愛の目で迎えた。


「皆さん。よくここまで生き残りました。最後の特別メニューはいかがでしたか?」

 

 二度と味わいたくねーよ。どこまで鬼っすか、あんた。等とからかい混じりの野次が飛ぶ。


「あれくらい、部下ならば半日で終えますよ。それを考えたら、私もまだまだ甘いですね」


 その時、彼等は思った。彼の竜騎士の元で働く部下達は人間じゃないと。一部は半笑いで地獄の日々を思い出した。これが終わったらまたあの日々かと思うと泣きたくなる。


「ですが、貴方達は彼等の鍛錬の半分をやりきった。それだけでも凄いことだと、多分思います」

「多分かよー」「そこは凄いって言い切るとこですって」

「私は正直者なので」


 どっとその場が沸く。いい意味で肩の力が抜けたのを確認して、リアナは不適な笑顔で見回した。


「負けたら本当に地方勤務に回されるかもしれないので、頑張って下さい」


 その瞬間、心は一つになった。リトルの赴任を断固拒否。そうでなければ、自分達に明日がないと。



 解散を言い渡すのと同時に散っていく彼等を、壇上で見送っていた。


「先程のリトルさんと閣下や殿下を見ていればあり得ないのに」

「全くだ」


 くすくす笑うマルーカ女史に、憮然としたジュードが同意する。マルーカの前でリアナは右手を差しだした。


「嘘か本当か、最終決定権は陛下とヴァリアス様にあるので判りませんよ?」

「いいえ、有能な部下を手放すとは思えません。閣下に愛されているようですし。……本当にお世話になりました」


 自分よりも遙かに小さい手をマルーカは握る。その時覗いた華奢な手首でマルーカは気づいてしまった。弟がいたからこそ、些細な事で気づいてしまう。


「もうすぐ辞めると殿下が仰っていましたが、本当に?」

「ええ。田舎でのんびりしたいと思っています」


 どうしてこの方が少年に見えるのだろう。こんなに可愛らしい方なのに。細やかな気配りもその為だとしたら納得がいく。だったらなぜ隠す必要があったのか。帝国は女性登用も積極的に行っているはずだ。現にマルーカもその一人。


「惜しいです。貴方はまだ若いのに」


 リアナは微笑んだまま黙殺した。最後に二人に頭を下げ、マルーカ女史は砦に消えていく。


「いつから気づかれていた?」

「恐らくつい先程でしょうね。握手は危険みたいです」


 ひらひら右手を振るリアナに、ジュードは頷いた。普段は手袋をしているので気づかれにくいだろうが、今は手袋を外している。


「このまま、続けばいいのにな」


 リアナはリトルとして、竜騎士のままでいればいい。マルーカ女史ではないが、女だと明かしてもこのまま働く事は出来るだろう。


「何時かは明るみに出ます。私が守られるには、一つしかないのです、お義兄様」


 国を出て何処か遠い地へ行けば、また違うだろうが。それをするには、この国に大切な者が出来過ぎた。別れは来ると知っていても、少しでも先へ延ばしたいと願っている。


「お前が選ぶなら俺は何も言わん」


 手触りの良い黒髪を、乱暴に撫でた。





 最終的にドラッド砦兵士達の執念のお陰か、開戦後、間もなくして試合は終了した。決め手となったのは、対侵入者用の多彩な罠の数々と彼等の見事な連携プレー、そして一人一人の強さだろう。痛みすらも凌駕する執念こそが彼等に勝利を呼んだ。


 滂沱の涙を流しながら神、ウェイアーに感謝する兵士達が続出。世界最後の日がようやく終わったのだと、踊り出す者まで現れた。この時ばかりは彼等にとっての邪悪な天使が癒しの天使となって舞い降りる。直々に手当を受けた兵士達は鼻の下を伸ばし、その後ろでなぜか皇太子と騎士団長が睨みを効かせるという変わった光景も見られた。

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