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小話 ~ジュード~ ドラッド砦の悪夢2

 目の前に横たわる死屍累々を見て、リアナの噂について半信半疑だったジュードですら納得せざるおえなかった。それ程までに壮絶だった。飴と鞭なんて可愛いものじゃない。生か死かと言わんばかりの厳しさだ。それを手伝う一部の兵士も気の毒そうに見ている。逃げるなら仲間の屍を越えていけ、と初日に笑顔で言い放ったリアナの言葉が当に現実となっている。それ位の覚悟で臨まなければ脱走なんて夢のまた夢。それより地獄で仲間を増やす悪鬼(兵士)の方が、明らかに早い。

 午前、午後で訓練を交替することになるのだが、午前の段階でジュードの扱きを受けていた兵士達は、隣の阿鼻叫喚の図に悲愴な顔をしていたのが焼きついている。訓練初日にして、ジュードは現実を知った。


 リアナが兵士に課す訓練はいってみれば単純に筋力作りだった。手始めに荒れ放題になっていた砦内の畑を耕させる。兵士とて元の職種は様々だ。農民の子供も多く、慣れた手つきで耕していく。しかし、そこには恐ろしい罠が仕掛けられていた。一定時間内に、各班毎に決められた敷地を耕さないと、見る間に畑が元の状態になる。というか魔術をかけられる。決められた各班にはそれぞれ畑を触ったことの無いような兵士もいて、彼等が足を引っぱるのだ。つまり、チームワークが必須になってくるというわけだ。精神面でも追い詰められ、かといって手を抜けば永遠に終わらない。

 更には、派遣されているが暇を持て余している魔術師の暇つぶしにもなる。実際の戦闘には、対魔術師戦も加わるのだが、広範囲魔術になるとあまりにも危険なので、地方対抗戦はあくまで人の戦いだ。

 余談だがこの畑。後日、種を植えて、立派に機能させた。果物が多く栽培され、食堂でデザートが充実するようになったとか。女性兵士に人気の食堂もとい赴任先になっている。




「うーん、今日はここまでですね」


 太陽の傾きで、リアナがそう言うのをどれだけ待ちわびたか。来るべき日に備えて兵士達に混じって訓練しているリアナの部下は、さすがというかこれ以上の扱きを受けているために、苦笑しつつも周りに合わせてその場で座り込んだ。

「お疲れ様です。あちらに飲み物が用意されてますので、ゆっくり休んでくださいね」

 そこらの女とは比べものにならない整ったリアナの微笑みで、単純な男心は癒されるのだが、相手は男で、しかも元凶だと忘れてはならない。この訓練を通して彼等が一番悟った事は、見た目に騙されてはいけないという事だろう。


 隣の人間の表情が見えなくなる頃には、立っている者など皆無で、その中心に唯一立っている人影へとジュードは近づく。


「リトル」


 偽りの名前に、妹が振り返る。日も暮れるのに、清々しいほどその笑顔は眩かった。


「ジュード様。そちらは終わりましたか?」

「ああ。どれも使い物にならなくてな」

「少しやりすぎましたね。かといって、体力作りは必須ですし」

「明日からは俺が午前を担当するから、お前が午後を担当したらどうだ?」


 本来の役割分担はジュードが指南、リアナが実戦を教えることになっているのだが、実戦を行うには技術と体力があまりになさすぎたため、体力強化を施しているのだが結果は全滅。


「そうですね。夜間の奇襲訓練もしたかったのですが、流石に可哀相ですし」


 そこまで非道ではなかったかとジュードは胸を撫で下ろした。過酷なリアナの訓練に耐えているリアナ直属の部下の強さの一端を垣間見た気がする。雑用係と揶揄されている彼等だが、個性豊かな竜騎士達と接することの出来る強者揃いなのだ。


 隊長の扱きに比べりゃ可愛いもんさ。


 とは、彼等の口癖であるが、成る程的を射ている。


「それはもう少し後でも間に合うだろう。今は力をつけることが優先だな」

「はい。明日からは各自個別の訓練メニューにしようと思います。本番まで三月しかありませんから、徹底的にやりますよ」

「そ、そうか。程々にな」


 適当なところで食堂に放り込んでくださいと残して、リアナは中へと入っていった。これから、王都に帰るのだろう。リューグの地方業務は王都に残った副官がしてくれているはずだから、ほとんど無いのだが、リアナの場合はヴァリアスの補佐官という立場がある。正式に竜騎士長になったヴァリアスの仕事は膨大で、リアナが欠けるだけで大きな痛手になるのだ。既に後任を育てているとはいえ、リアナのこなす仕事には遠く及ばない。


 近くで呻き声が上がり、我に返る。よく見ればそれは査定官として派遣されているリアナの部下の一人だった。


「最悪っす。隊長が個別の訓練メニューって……」

「泣くほど大変なのか?」

「分刻みなんすよ」

「は?」

「一日にやるべきことを分刻みで渡されるんす。短期間で鍛えるためには生活改善からって、朝から晩までびっしり。もしそれをさぼるのがばれたら、覚悟を決めた方がいいんですよ。因みに、サボりにくい、互いに監視システムを作ってるので、無駄です。地獄の強化合宿はマジで地獄を見ます」

「強化合宿と言うと、一年に一度のあれか。だが、これだけの大人数なんだ。いくらリトルでも不可能だろう」

「ジュード様は甘いっすよ。隊長には、今日接した全員分の特徴と俺達が事前に行ってる調査で確実に作ります。今頃王都の奴等は書き取りさせられてるんじゃないっすかね。あれ、本人の弱点を明確に補う訓練なんで、実際強くはなるんすけど」


 遠い目をするリアナの部下に、冗談の色はない。頑張れという意味を込めて、無言で肩を叩いたジュードだった。

 そして次の日。彼の予感は的中していた。




 こんな監視された生活送ってられるかと、彼は配られた紙を破り捨てて通常の訓練をこなして眠っていた。配られた予定スケジュールでは、この後腹筋一〇〇回、懸垂一〇回と書かれていた。そして、一番下の小さな注意事項には、尚怠っている者を発見、及び報告した者には訓練が免除される。訓練を怠った、もしくは怠った者を見逃した場合は、一日監視下に置かれると書かれたそれを彼が知る由もない。

 きつい訓練が少しでも軽くなるなら、と報告した同室の者によって彼の怠慢は明らかになり、一日、リアナと生活を共にすることを余儀なくされた。あっという間にそれが事実であることが広がって、互いに監視の目を向けるようになる。中にはリアナを襲おうとする輩もいたが、当然ながらあっさり撃退され、加えて温厚と定評のあるジュードにまできつくお灸が据えられ、更には黒い何かによって悪夢を毎晩見続ける羽目になった。

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