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「婚約破棄された悪役令嬢――私はもう、あなたたちのためには生きません」


本作『悪役令嬢を辞めたら、隣国で英雄になりました』をお読みいただき、ありがとうございます。


婚約破棄、国外追放という絶望から始まる一人の令嬢が、自らの知識と努力、そして人との出会いによって新たな人生を切り拓いていく逆転ファンタジーです。


最後までお楽しみいただけましたら幸いです。



王都グランディア王国。


一年で最も華やかな建国記念舞踏会。


巨大なシャンデリアの光が磨き上げられた大理石の床を照らし、国内の貴族や各国の使節団が見守る中、その瞬間は訪れた。


「セレスティア・フォン・アルヴィン公爵令嬢」


王太子レオンハルトが高らかに名を呼ぶ。


会場中の視線が、一人の令嬢へ集まった。


銀色の長い髪。


澄み切った青い瞳。


王家に嫁ぐためだけに育てられた完璧な淑女――セレスティアだった。


彼女は静かに一礼する。


「お呼びでしょうか、殿下」


しかし、レオンハルトの口元には勝ち誇った笑みが浮かんでいた。


その隣には純白のドレスをまとった少女。


男爵令嬢リリア・エルフォード。


最近になって聖女と呼ばれ始めた女性だった。


レオンハルトは高らかに宣言する。


「今日この場で、君との婚約を破棄する!」


会場が騒然となる。


貴族たちは息を呑み、音楽隊までも演奏を止めた。


「君はリリアを何度もいじめ、社交界から追い出そうとした。さらに王家への反逆を企てていた証拠も見つかった。」


リリアは目元を押さえ、小さく震える。


「セレスティア様……私は何も望んでいませんでした……。」


すすり泣く姿に、多くの貴族が同情の視線を向けた。


セレスティアだけは静かだった。


心の中では、もう何年も前からこの結末を予想していたからだ。


(……やはり、この日が来ましたか。)


彼女は幼い頃から王太子教育と同じ内容を学んできた。


外交。


法律。


経済。


軍事。


農業。


医療。


税制。


近隣諸国との歴史。


王家の誰よりも多くを学び、誰よりも努力した。


だが、それらは誰にも知られることはない。


成功すれば王太子の手柄。


失敗すれば婚約者の責任。


それが彼女の役目だった。


「何か言い訳はあるか!」


レオンハルトが叫ぶ。


セレスティアは小さく首を振った。


「ございません。」


「認めるのか!」


「……いいえ。」


彼女は真っ直ぐ王太子を見つめた。


「ですが、何を申し上げても、殿下のお考えは変わらないのでしょう?」


一瞬、王太子は言葉を失う。


「……当然だ!」


「でしたら、私は何も申し上げません。」


会場はざわつく。


泣き叫ぶでもなく、怒るでもなく、ただ穏やかに受け入れる令嬢。


その姿は誰も予想していなかった。


国王が重々しく立ち上がる。


「セレスティア・フォン・アルヴィン。」


「はい。」


「公爵家の爵位は維持する。しかし、お前は本日をもって国外追放とする。」


「承知いたしました。」


静かな返事だった。


その瞬間、父であるアルヴィン公爵だけが目を閉じる。


娘は何も悪くない。


それを誰より知っていた。


しかし逆らえば、一族全てが処罰される。


「……すまない。」


父は小さく呟いた。


その言葉だけで十分だった。


セレスティアは微笑む。


「お父様。謝らないでください。」


母も涙を流していた。


弟は拳を握り締めていた。


家族だけは味方だった。


それだけで救われた。


セレスティアは王太子へ最後に一礼する。


「殿下。」


「何だ。」


「長い間、お世話になりました。」


その一言だけだった。


罵倒もしない。


恨み言もない。


その姿に、逆に王太子は妙な苛立ちを覚える。


「最後まで可愛げのない女だ。」


セレスティアは何も返さなかった。



三日後。


王都を出る馬車は、たった一台だけ。


護衛も最低限。


豪華な荷物もない。


持っていくのは数冊の本と日記、それから母が持たせてくれたティーセットだけだった。


門の前で父が言う。


「……戻って来られる日が来ることを願っている。」


「そのお気持ちだけで十分です。」


母は娘を強く抱き締める。


「身体だけは大切に。」


「はい、お母様。」


弟は涙を堪えながら笑う。


「姉上なら、どこへ行っても大丈夫です。」


「ありがとう。」


馬車はゆっくり動き出した。


王都の城壁が少しずつ遠ざかっていく。


幼い頃から暮らした街。


学び続けた城。


すべてが小さくなっていく。


やがて国境が見えた。


兵士が門を開く。


「ここから先は隣国アルヴェリア王国だ。」


セレスティアは最後に一度だけ祖国を振り返った。


「さようなら。」


その声には悲しみではなく、どこか晴れやかな響きがあった。


「私はもう……悪役令嬢ではありません。」


馬車は国境を越える。


その瞬間、彼女は知らなかった。


この追放こそが、自分の人生を大きく変える始まりであることを。


そして数年後――。


「白銀の英雄」と呼ばれる女性として、隣国の歴史にその名を刻むことになるとは、まだ誰一人として知る者はいなかった。



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


『悪役令嬢を辞めたら、隣国で英雄になりました』は、婚約破棄によってすべてを失った令嬢が、隣国で新たな人生を歩み始める物語です。


もし本作を「面白かった」「続きが読みたい」と感じていただけましたら、ブックマークや評価、感想をいただけると大変励みになります。


皆さまからの評価や応援があれば、続編の執筆へ進もうと考えています。


これからもセレスティアの歩む新たな物語を、どうぞよろしくお願いいたします。


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