悪いものを弾く結界と結界師の話
私はアイシャ。結界師。
結界を張り、そして維持する仕事。
この都市国家を守るため。
最近、新たに「悪いものを弾く結界」を編み出した。
敵が来ても自動的に弾き返す。盗人は即座に弾き出される。
なんと便利な結界だと、王様は喜んで導入を決めた。
私はそのために今日も祈り、結界と国を守る。
ある日、王子が私の結界から弾き出された。
この人は私の婚約者。
私にずっとよくしてくれていたし、優しいし、理由がわからなかった。
その事を王様にご相談した。
「我が息子が悪人だと言うのか! お前など国外追放だ!」
カンカンに怒ってしまった。
その瞬間、王様も結界から弾き出されてしまった。
私は弾かれる人を選んでいない。私に濡れ衣を着せてしまったから。
王も王子も結界から弾かれ、王宮は困ったことになった。
まず「今のうち」と留守の王座を奪おうとした大臣一派が結界から弾かれた。
そして、大臣たちがいなくなり空いたポストに就こうと、宰相に賄賂を送った人たちが結界から弾かれた。
魔が差して受け取ってしまった宰相も。
そこまで来ると、さすがに誰も空き巣まがいのことはしなくなった。けれど代わりに政治が停滞した。
そこに事態を知った隣国が攻めてきた。
しかし結界に阻まれて帰っていった。
王や大臣たちは城壁の角、内側ギリギリに建てた仮の王宮で暮らしている。
そこだけ結界に入らないように大きさを調整している。ここが隣国にバレなくてよかった。
私は事の発端である王子だけはなぜ弾かれたかがわからなかった。
原因究明のため、仮の王宮の前で王子に問いただす。
「実は……他の子と浮気をしまして……」
バツが悪そうに告白する王子。
裏切られた。
衝動的に王子に飛びかかった。
その瞬間、私も結界から弾かれてしまった。
殺してやろうかと思って行動に移してしまったからだ。
いけない、結界師が結界から出てしまったら、じきに結界は消える。
「王子、私があなたに殺意を向けなくて済む方法を早急に考えてください。国が滅びます」
王子は固まってしまった。
代わりに隣にいた王様が口を開く。
「この国を背負わんとする者が何という事か……アイシャよ、すまなかった。我が息子よ、父として、王としてお前に責任を取らさねばならん。お前からその王子の地位を剥奪する!」
「な……父上……もうこんなことしませんから」
「ならん! そして国外退去処分とする。国を危機に晒した罪を償うのだ! 一人で生きて行け!」
「そ、そんな……! ちょっと浮気したくらいで!」
王子が兵士に連れて行かれる。
「アイシャ! 助けてくれー!」
私は無言で見送った。
罰としては充分だろう。
そのとき、私と王様が結界の中に戻った。
弾かれる理由がなくなったからだ。
王子の証言で浮気相手がわかった。なんとまだ結界の中にいた。酒場にいる、旅の踊り子。
王城につれてこられ、王に問い詰められる。
「あら、あの坊ちゃん王子だったの? 婚約者がいた? そんなの知らなかったからねえ」
悪びれずに言う。
「ええい、この者を国外退去処分にせよ!」
ああ、また。
王様が結界から弾かれた。
結界は悪いものを弾く。
彼女は悪くないから、無実の罪を着せた王様が弾かれた。
冷静になるように誰かに伝えてもらおう。
私も憎いと思ってはいけない。また弾かれてしまうから。
私は今日も祈り、結界と国を守る。
ただ、この結界は失敗作だったかもしれない。
悪くないものなんて、そういないから。
お読みいただきありがとうございました。
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