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悪いものを弾く結界と結界師の話

作者: エフピロ
掲載日:2026/03/07

 私はアイシャ。結界師。

 結界を張り、そして維持する仕事。

 この都市国家を守るため。


 最近、新たに「悪いものを弾く結界」を編み出した。

 敵が来ても自動的に弾き返す。盗人は即座に弾き出される。

 なんと便利な結界だと、王様は喜んで導入を決めた。


 私はそのために今日も祈り、結界と国を守る。



 ある日、王子が私の結界から弾き出された。


 この人は私の婚約者。

 私にずっとよくしてくれていたし、優しいし、理由がわからなかった。


 その事を王様にご相談した。


「我が息子が悪人だと言うのか! お前など国外追放だ!」


 カンカンに怒ってしまった。

 その瞬間、王様も結界から弾き出されてしまった。

 私は弾かれる人を選んでいない。私に濡れ衣を着せてしまったから。


 王も王子も結界から弾かれ、王宮は困ったことになった。


 まず「今のうち」と留守の王座を奪おうとした大臣一派が結界から弾かれた。


 そして、大臣たちがいなくなり空いたポストに就こうと、宰相に賄賂を送った人たちが結界から弾かれた。

 魔が差して受け取ってしまった宰相も。


 そこまで来ると、さすがに誰も空き巣まがいのことはしなくなった。けれど代わりに政治が停滞した。


 そこに事態を知った隣国が攻めてきた。

 しかし結界に阻まれて帰っていった。


 王や大臣たちは城壁の角、内側ギリギリに建てた仮の王宮で暮らしている。

 そこだけ結界に入らないように大きさを調整している。ここが隣国にバレなくてよかった。


 私は事の発端である王子だけはなぜ弾かれたかがわからなかった。

 原因究明のため、仮の王宮の前で王子に問いただす。


「実は……他の子と浮気をしまして……」


 バツが悪そうに告白する王子。


 裏切られた。

 衝動的に王子に飛びかかった。


 その瞬間、私も結界から弾かれてしまった。

 殺してやろうかと思って行動に移してしまったからだ。


 いけない、結界師が結界から出てしまったら、じきに結界は消える。


「王子、私があなたに殺意を向けなくて済む方法を早急に考えてください。国が滅びます」


 王子は固まってしまった。

 代わりに隣にいた王様が口を開く。


「この国を背負わんとする者が何という事か……アイシャよ、すまなかった。我が息子よ、父として、王としてお前に責任を取らさねばならん。お前からその王子の地位を剥奪する!」


「な……父上……もうこんなことしませんから」


「ならん! そして国外退去処分とする。国を危機に晒した罪を償うのだ! 一人で生きて行け!」


「そ、そんな……! ちょっと浮気したくらいで!」


 王子が兵士に連れて行かれる。


「アイシャ! 助けてくれー!」


 私は無言で見送った。

 罰としては充分だろう。


 そのとき、私と王様が結界の中に戻った。

 弾かれる理由がなくなったからだ。


 王子の証言で浮気相手がわかった。なんとまだ結界の中にいた。酒場にいる、旅の踊り子。


 王城につれてこられ、王に問い詰められる。


「あら、あの坊ちゃん王子だったの? 婚約者がいた? そんなの知らなかったからねえ」


 悪びれずに言う。


「ええい、この者を国外退去処分にせよ!」


 ああ、また。

 王様が結界から弾かれた。


 結界は悪いものを弾く。

 彼女は悪くないから、無実の罪を着せた王様が弾かれた。

 冷静になるように誰かに伝えてもらおう。

 私も憎いと思ってはいけない。また弾かれてしまうから。



 私は今日も祈り、結界と国を守る。


 ただ、この結界は失敗作だったかもしれない。

 悪くないものなんて、そういないから。


お読みいただきありがとうございました。

こういうちょっと変わった感じのお話はいかがでしょう?

お気に召したら反応や評価いただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
結界師の仕事ものに見えて、そこへ“悪いものを弾く結界”というひと工夫を入れてくるのが面白いです。ショートショート風味とある通り、短い中で発想の勝ち方をしてくるタイプっぽくて好印象でした。結界がもたらす…
結界(自動システム)だから仕方ない 正義感あふれる人は人間を白か黒かに分けたがる 分けた結果、『そして誰も居なくなる』んだよね。誰かから見た正義は、誰かからの悪だから。 一人の人間の10%が悪だと…
なんか形は違えどリアルな世界にもありそうなものです。両刃の刃ですね。優れていると称賛するのもつかの間、いつかは手に負えない代物になってしまいそうです。 何かちょっと絵本のようなテイストの、不思議な読了…
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