恥ずかしいところ
怪しい男に体の傷を見せてもらっている。
「背中のこれは? 」
ちょっと感じが違う。浅いし薄い。
「ああ母ちゃんの。女がバレて逃げたところをスパッとな。一週間前の傷だ」
残念。見た目よりも年が行っていた。しかも奥さんまで。
「あんたバカじゃないの? 」
「何だと! 」
「ああ…… ごめんなさい。つい感情移入したみたい。奥さんに」
つまらない傷を見せないで欲しい。せっかくの傷が格好悪いものになってしまう。
「それで森の妖精さんは仲間を呼べるのか? 」
まだ妖精だと思ってるらしい。おめでたい男。でもそうか私かわいいもんね。
何と言ってもお嬢様ですから。この世の者とは思えないほどの美しさ。
神々しい。あまりに神々しい女神様のような存在。
それがこの私マリオネッタお嬢様なのです。
「その前にあなたはなぜ森に? 」
ここは私の思い通り動いてもらうわよ。だって妖精の仲間なんかいないんだから。
どうにかごまかして有益な情報を得たい。もうそれだけ。
それにこの男は気をつけないと火傷することになる。
からかわれてるのが分からない困ったお方ですからね。逆に面倒で恐ろしい存在。
適当にごまかせばいいんだけどきっと気づく。怪しむに決まっている。
「ああ…… 今なちょっと任務があってな。妖精さんには関係ないが王子関係だ」
王子関係? こんな簡単に王子に繋がるなんて展開が早過ぎない?
まさか王族? それともお友だちとか? まったくそうは見えない気品のなさ。
「いけねえ! これは極秘だった」
そんな風にベラベラと余計なことを喋ればすべてをゲロすることに。
あらいけないいけない。ゲロだなんてお嬢様ともあろう者が下品でした。
「ではゲロ…… ではなく王族の方」
「いや違う。ただの下っ端だ。極秘任務があるのさ。おっとこれ以上は秘密だぜ」
「森の妖精にでも? 」
「ああ…… そう言われたんだ。誰にも言うな。たとえ子猫ちゃんにもとな」
それは意味が違うと思うけど。妖精は子猫扱い?
「そうだ。あそこに泉があるの。この紙コップを投げてみて。
すると女神様が現れて金の紙コップに替えてくれるから」
何だか知らないが面白そうだと紙コップを泉に投げる男。それはそれで怖い。
まずは草を頭に乗せて泥で顔をパックしてドレスを脱いで完了。
お兄様から頂いたぴかっと光るものを投げて男を威嚇してから女神様に変身。
「この汚れた紙コップを落としたのはあなたですか? 」
「うおお! 女神様? なぜ下は穿いてない? 」
凝視するいやらしい男。どうしてつまらないことを気にするかな?
だから母ちゃんにぶっ叩かれるのよ。
「細かいことはよろしいのです。あなたの為に急いで来てあげたのですよ? 」
「ありがたや。ありがたや」
跪いて手を合わせる男。大げさなんだから。これでたぶん信じたでしょう。
「あなたはなぜここへ? 」
「言えません! たとえ女神様でも言えないのです! 子猫ちゃんが…… 」
「もういいわその話! 聞き飽きたんだから黙りなさい! 」
「へへい! 」
「では正直者のあなたには新しい糸電話用の金の紙コップを差し上げます」
面倒なので話を先に進めることに。
「はあ…… 女神様。それは何に使えばよろしいので? 」
「いいですか? ストレス溜めては体に悪い。あなたは話したいのに敵わない。
そのストレスでもう限界のはず。ですからこの紙コップにすべてぶつけなさい」
「ありがとうございます。女神様の心遣いに感謝致します」
素直な人。こんな方を騙すのは忍びない。ぜひ家来にしたい。
「何か他にありますか? 」
「だったら一つ。寒くありませんか? 」
「うるさい! 放っておきなさいよ! 」
そう言って煙幕を投下。
煙が収まるまでに元の姿に戻る。
「おいどうした? どこに行ってたお前? 何か薄汚れてるぞ」
「それが…… 間もなく見えなくなるんです。妖精の姿は仮の姿で…… 」
「だったら早く仲間を呼んでくれ! 約束だろう? 」
「でも力が…… 」
どうにかごまかそうとするが男が納得しない。
体を張ったのにまずい展開。
ここまでしたのにバレては意味がない。ここは退散する?
「ああこんなところにいた。もう帰る時間だよ」
ビアンカ登場。どうやら妖精の振りをしてくれたらしい。
どこかで私たちのやり取りを見ていたに違いありません。
まったく隠れてないでもっと早く出て来なさいよ。
お嬢様が困っているでしょう?
「もう時間? ごめんね」
「おお…… 元気でな」
凄く単純な男で助かった。
さあ隠れて男が紙コップに思いを込めるのを待つ。
「俺は…… 極秘任務があるんだ。でも子猫ちゃんにも言えない。
王子の件なんだ。招待状がある。それさえ配ればもう任務完了。
王子だからな。それはそれは人気もあって報酬も弾んで。堪らねえな。
うまく行けば俺は大金持ちさ。おっと…… これ以上はいいや。
告白すると三人…… いや実は五人いるんだ。でも会えなくて寂しい。
いつも母ちゃんがいるから…… 」
ダメだ。男はつまらない話を始める。これ以上は無駄。
ほぼ無意味でつまらないものだったけれど招待状さえあればいいことが分かった。
さあ一歩前進。
続く




