外出
屋敷を離れる。
王子の無事も所在も分かったことだしのんびりしよう。
舞踏会までは王子たちだって狙われることもないでしょうし。
ただ奴らの狙いがまるで分らないので不安ではありますが。
外に出るとすぐに接触があった。
あの目つきの悪い男。私たちの担当の最低最悪の男。
彼さえいなければ今頃私たちは故郷でのんびり平和に暮らしていたでしょう。
奴らの悪魔の囁きに誘われてここまでやって来てしまった。
「お前たちこっちに来い! 」
そう言って人気のないところまで誘う。まさかもう裏切りを察知された?
しかしあの場所に仲間はいなかったはず。やっぱりトルドが……
どうしよう…… 絶体絶命のピンチ? まさかもう消されるの?
ダメ。ここで悟られては相手の思う壺。冷静に冷静に。
「何があったの? 私たちはどうすればいい? 」
暗殺計画を一切伝えないからどうしていいのか分からずに途方に暮れる。
命令しておいてロクに指示も送らない。何を考えてるんだろう?
少しはこちらの身にもなって欲しい。放置はさすがに酷い。
そう言う風に持って行ければ優位に立てるのかな。
「済まないな。お前たちのせいではない。ただ失敗続きで正直イライラしている。
それでだがお前たちには引き続き任務に当たってもらいたい」
情報はないかと言うので王子の居所を正直に吐く。偶然見掛けたことに。
多少危険はあるが王子暗殺は難しいと見ている。
令嬢に扮した仲間が接触しない限り暗殺はあり得ないから。
これは奴らのやり方の盲点を突いた形。
いくら屋敷にいても立ち入り禁止エリアには進めないしね。
「何? 朝早くに出掛けたのは誤りか? では王子はまだ屋敷にいるんだな? 」
「そうだけど…… どうするおびき寄せる? 始末したあげようか? 」
「ふふふ…… 余計なことをするなと言ったろ? 情報を寄越すだけでいい」
どうやら今回の接触は制裁ではなくこれまでの報告に情報収集。
それくらい構わない。まだ王子を狙ってない今なら好きなだけ。
しかし王子に危機が迫ったら逆に口を噤む。
知らないと言い張ればいくら不自然でもどうにもならない。
怪しまれる前にすべてを終わらせればいいだけ。
「よし戻れ! 」
おめでたい人。まだ従順なしもべだと思ってるらしい。これでも一応は暗殺者。
そんな甘い訳ないじゃない。ですがこれも奴らの手の内なのかもしれませんが。
初日の地下室でのあの凄惨な現場を見せられれば誰でも恐怖で従うでしょう。
実際あの日は震えが止まらなかった。そもそも他の者は目的を知っていた。
知っていながら断ったり帰ろうとすれば当然口封じされる。
今だってそれがバレそうになれば躊躇はしないはず。
私たちが許されてるのはまだ裏切ってないから。
兆候ぐらいはあるでしょうが今のことで信頼を得たので問題ない。
「もう少し具体的に暗殺計画について教えて頂けませんか? 」
ビアンカが馬鹿丁寧に聞く。これなら違和感はないだろう。
「ふふふ…… お前らが知る必要のないことだ。そしてその権限は俺にはない」
不気味な笑い声で支配しようとする。
「でも…… どう動いていいか? 今だって…… 」
「指示はもちろん出すさ。それはもっと後だ。今は晩餐会を楽しめばいい。
楽しめばな…… 舞踏会までは好きに動け。しかし何度も言うが逃げるなよ?
裏切れば問答無用で処分される。生き残りたければ大人しく言うことを聞け! 」
そう言うと質問を受け付けないと去っていく。
誰が楽しめるのよ? 血塗られた招待状が暗示するように無事で済むはずがない。
「ほら行きましょうマリオネッタ」
こうして久しぶりに二人っきりで自由な時間を満喫する。
昨日も充分楽しめたけれどあれはほぼ指示通りに動いて王子に近づいただけ。
まあいいでしょう。今は男の言うようにラクエラの町を楽しむとしましょうか。
その頃。故郷では。
「どうした? まだ見つからないのか? 」
「旦那様! この手紙を…… 」
マリオネッタのくず入れから見つかったのは招待状の一部。
ラクエ以降は血で黒ずんで見えないが明らかにラクエラと書かれている。
どうやらマリオネットはラクエラに向かったらしい。
「おいスト! これはどう言うことだ? 何がどうなってるのか説明しろ!
お前がストの地位に上り詰めたのは能力あってこそ。まさか監視を怠ったか? 」
「滅相もございません! お嬢様は朝起きると突然姿を消しておりました」
彼女の力を持ってもあの好奇心旺盛なマリオネッタをコントロールできない。
ストとは言えど人間。地位に胡坐を掻いて失態を犯したのでは決してない。
俯いたままただ投げかけられた言葉を受け止め続ける。
「もうよい! 急いで向かうぞ! 」
「お待ちください! 旦那様にはそのような時間はありません」
執事が堪らずに制止する。
「我が娘。かわいいかわいいマリオネッタだぞ? ふざけたことを抜かすな! 」
怒り狂う田舎の王。この地域を掌握した文字通り王と呼ぶにふさわしい人物。
もちろん一年に一度の国王挨拶は欠かさない。これがこの地域の安定に繋がる。
しかし今は周辺国と連携して勢力を拡大してる新興国の対応に精一杯。
マリオネッタ失踪の報にもすぐに駆け付けられずに今となっている。
「落ち着いて下さい旦那様! 今離れては士気が下がる。充分ご存じかと? 」
執事の懸命な説得に折れる田舎の王。カリスマ性で民を従わせてるところがある。
「ではどうしろと? 」
「代わりを立てるのです。お任せください。適任者がおりますので」
こうして呼ばれたのはドロダール兄弟。
果たしてドロダール兄弟の実力は?
続く




