消えた王子
二日目の朝。
「王子様はどちらにお出かけになられたの? はっきりしなさいよ! 」
無駄に待たされて怒り狂う令嬢たちに一人で対応するトルド。
もうそろそろ限界でしょうか? ただの王子のお付きの者。
このような対応は本来別の者がするところ。しかしなぜか彼が。
「それは言えません。警備上の秘密ですのでご理解ください」
「ふざけるないで! きちんと答えなさいよ! 」
無理らしい。迫る令嬢たちをただ睨みつけるだけではどうにもならない。
「ねえあんたはついて行かなかったのかい? 」
王子の世話役。そんな彼がここに留まってるのはどう考えても不自然だ。
それを指摘するあの口の悪い女。ビアンカと親しくなったらしいが。
だからって全面的に信用はできない。
彼女だってこちら側の人間でもおかしくない。
見た目に鋭い目つき。瞬時に考えを導き出す頭脳。
暗殺者のそれに見える。招待を受けた令嬢ならもう少し言葉遣いはマシなはず。
彼女がライバルなのはもはや疑いようがない。
それを見守るかわいらしい女性。彼女は自然な振る舞いで令嬢でも充分通る。
どうしても心配で見てしまう。それが二人の切っても切れない関係なのでしょう。
それは私たちにも通じるところがある。とにかくこれで二人はほぼ間違いない。
それから…… おっとこれ以上の観察は逆に疑われるだけ。
どうしよう? 奴らは舞踏会で襲撃するはず。恐らく王子にも監視をつけている。
だとすればここでのんびり無駄な時間を過ごしてられない。
それとも二手に分かれる? どうしよう?
迷いが生じたらとりあえずビアンカに相談。決めてもらう。
今回の招待状がどのようなものか聞いてない。当然ビアンカも知らされてない。
まさか二日目まであるとも思ってもみなかった。だとすれば三日目もあり得る?
いやそうに違いない。何日かかるか? 長期戦も覚悟しなくてはいけません。
二日目に舞踏会が盛大に行われる。
参加者は厳選されたそれなりに名の知れた令嬢。
それがなぜかこのマリオネッタお嬢様には届かず。
諦め切れずにおかしな謀略に巻き込まれた。
これと言って何も知らせず放り込まれれば混乱するばかり。
なぜ奴らはきちんと説明し適切な指示を送らないのか?
失敗が続き奴らまで混乱を来してる? それは好都合? それとも危機的状況?
まだ大胆には動けない。王子の元へ駆け込むには早い。
誰が味方で誰が敵かが不確か。もっと信頼を得て奴らに気づかれないように。
これしかない。今はただ流れに身を任せることしかできない。
不甲斐ないですがこれが現実。令嬢探偵の本領発揮はまだ先になる。
ビアンカがアイコンタクトを送る。急いでお花を摘みに。
人気がないか辺りを見回して声を抑える。
「どうしたの? 」
なるべく名前を言わないようにとこれもビアンカの考え。
誰か分からなければ疑いを掛けられても言い逃れができる。
声だけではさすがに判別できないでしょう。
「やっぱり疑わしい…… 」
元気がない。どうやら友人を疑うことにストレスを感じてるのでしょう。
「それで私たちはどうすればいい? 」
「単独行動は奴らの目に着くし危険。どうするかは私が決めます」
ビアンカは屋敷に残り情報収集するか王子の後を追って動きを探るか熟考。
悩んだ末に王子の元へ向かうことにした。
暗殺者である以上任務はここに留まることじゃない。
王子の側でチャンスを窺うのがいいと。
こうして私たちは王子の後を追うことに。
ですが誰一人王子の行方を知らない。話を聞くにも目立ってしまう。
王子の行方…… 手掛かりなし。とにかく王子の所在を知っていそうな者を探る。
その一番手がお付きのお爺さん。トルドだろう。
「どうした? 王子は出掛けたと言ったろう? 」
訝しがる様子を見せない。これは逆に何かを隠している?
「王子はどうでもいいんです。舞踏会でお会いすればよいのですから」
王子の行方を探る怪しげな奴らでは何かとやりづらい。ここは無視しましょう。
「本当に王子はよいのか? 」
「はい。それよりもメグレン様がどちらにいらっしゃるか教えて頂けませんか?」
実際王子などどうでもいい。まだ右も左も分からないただのガキでしょう?
王子の地位以外に興味などあるはずがない。言い過ぎかな?
「ちょっとマリオネッタ! 失礼でしょう? 」
ビアンカは王子がいいらしい。でもこれって彼女の作戦のはずなのに。
「でも…… 王子はいないって…… 」
「そうだ! 王子はお出かけに。だから会えない。大人しく待っていてくれんか」
「はい。だからメグレン様をお呼びくださいませんか? 」
「馬鹿者! 王子をそっちのけで他の男に現を抜かすのか? 」
興奮して紅潮するお爺さん。もう年なんだから無理してはいけません。
何をそんなに慌ててるの? ただメグレン様に会いたいだけなのに。
「仕方ないでしょう? いないんですから」
「まったくお前と言う奴はしつこい奴らだ。よかろう王子に合わせてやる。
ついてこい二人とも! 」
こうして立ち入りを禁じられているエリアへ。まさか王子はまだ屋敷内にいるの?
それにしてもなぜこうもあっさり王子との面会を許可したのか?
確かに私たちは偶然同じ船に乗った仲間ですが。そこまで信頼するもの?
それとも何か知られたくない秘密でもあるの? 王子の秘密に近づこうとしてる?
たとえそうでも私たちは暗殺者。王子を暗殺してしまえば任務はそこで終了。
非情さを持って任務に当たる。それが私たちの生きる道。
おっと…… 間違えた。私たちは暗殺者から王子を守る使命を託されたのでした。
続く




