森の妖精
ざわざわ
ざわざわ
どうも外が騒がしい。まさか何かあった?
聞こえてくるのは当番メイドの声と…… げげっ! スト?
せっかく気持ちよく寝ているのにまさか起こす気? 冗談じゃない。
ストの前では仮病も通用しない。何と言ってもその手のスペシャリストですから。
三日前だって寝たふりしてたら叩かれた。このマリオネッタお嬢様をですよ?
信じられない。普通ではあり得ないこと。
一昨日だって面倒臭くなって泣いたふりしてたら見破られた。
そして本気で泣くまで許してくれなかった。どんな人なんでしょうねストは?
悪い人じゃないけど絶対に良い人ではない。
「何だい? またマリオネッタは仮病かい? 私が叩き起こしてやるよ! 」
かわいらしいお嬢様が仮病とは言えおやすみになってるところを邪魔するなんて。
そんなことが許されるはずがありません。お父様に言いつけてやる。
でもお父様はなぜか私よりもストを信じる傾向にある。
まだ私が子供っぽいから充分な信頼を得られてない。きっとそうなんだ。
実績があればお父様だって私をもっと信頼してくれるはず。
私の忠実なるしもべを使ってきっと成し遂げて見せる。
それで何を成し遂げればいいのでしょう? 問題はそこだ。
「お待ちください! ここを通さぬようにと厳命されています」
危ない危ない。強行突破する気らしい。まったくおちおち寝てられない。
仕方ない。ここは逃げるとしますか。と言っても逃げ道は一つ。
窓を開けて…… うわ固い! どうしてこういつも固いのよ?
早くしないと来ちゃう! どうしてこんなに固い訳?
思いっきり力を入れないといけないんだもんな。お嬢様の力ではとてもとても。
ストにでも頼めばいいんでしょうけどそのストから逃げる為だから。
「失礼しますよお嬢様! 入らせてもらいますからね! 」
メイドの静止を振り切って入って来る。誰もストを止められない。
「お待ちくださいスト様! お嬢様は寝込んでおります」
「いいから邪魔しないの! 開けるわよ! 」
「あああ…… 」
「ああん? どこに行ったのよあの小娘は? 」
「ええ? お嬢様がいないんですか? 」
「ほら。よく見回しなさい! いないでしょう? それとも隠したの? 」
「いえ…… とんでもありません! まさかさらわれた? 」
「そんなはずないでしょう? 冷静になって考えてみなさい。
敷地に侵入するのだって大変なのにこんな真昼間から目立つような真似しない。
きっと自らの意思で逃げたのよ。お嬢様はいつもこうなんだから」
危なかった。
ストの金切り声が響き渡り耳に残る。
急いでビアンカに会わないと…… でもどこに行ったんだろう?
気配は感じるのになぜかどこにも姿が見えない。
大声でビアンカを呼べば連れ戻されてしまう。仕方ないここは一旦敷地の外へ。
幼い頃からの脱出路である抜け道で森へ。
昼間とは言え薄気味悪いところ。何が出るか分かったものじゃない。
ここはあえて見回りコースから外している。
それにしても私は何をやってるんだろう?
王子の情報を得ようとしてるのに森に入ってどうするの?
うん? あそこに人がいる。せっかくなのでいつもの挨拶を。
「ごきげんよう」
「アアン! 何だよ? ここにいちゃ悪いのかよ? 」
ダメだ。何も言ってないのにキレてる。こう言う人いるのよね。
余裕がないのかただ態度がでかいのか? あるいはおバカさん?
私が誰か分からない愚か者? どのみち要警戒人物に違いない。
「あなたは誰? ここの者じゃないでしょう? 」
マリオネッタお嬢様を知らないはずがない。
「俺はレベレーってんだ。あんたは? 」
意外にも素直。顔もよく見れば悪くない。体だって申し分ない。
「私は森の妖精です」
知らない人にはついて行かない。本名を伝えないが鉄則。幼い頃からの教え。
とは言えこの全身から溢れ出すお嬢様のオーラ―は隠せない。
幼き頃より一人で行動することはほぼなかったから。朝の見回りぐらい?
ストから逃げるようなヘマをしない限りこのような事態は起こり得ない。
「はあ森の妖精だと? そんな風には見えないがな」
どうやら半分疑っているらしい。でもおめでたい方。
いるはずないでしょう妖精なんか? 私はただのお嬢様なのですから。
「おい妖精はお前一人か? 」
何気なく聞くからどうも分かり辛い。もしかして本気で信じてる?
こう言う時に一人ですと正直に伝えれば危険なのは百も承知。
「いえいえ仲間はそこら中に」
「だったら呼んでみろよ! 」
まずい。おかしな男に引っ掛かったぞ。もう男運悪いな。
「その代わり見せてくれませんか? 」
ついいつもの癖で裸を要求してしまう。
「おおいいぞ。好きなだけ見て行け! 」
そう言うと本気で脱ぎ始めた。交換条件に妖精の仲間を見せるだから無茶な要求。
上着を脱ぎパンツまで脱ごうとしたのでそこは遠慮する。
やっぱり筋肉が凄い。腕もそうだけど太ももがそれはそれは魅力的。
胸だって負けてない。それからお尻もたぶん……
「触っていい? 」
「いや…… いいけどよ。おかしな奴だな」
満更でもないと言った表情。うんやっぱり力強い。私なんか一発でしょう。
この力が手に入るといいんだけど。ただお兄様たちには遠く及ばない。
お兄様たちはもっと信じられないぐらい太くて恐ろしい存在だった。
「この傷は? 」
「それは十年前のくそったれが切りつけたものだ」
どうやら彼も先の戦いで負傷したのでしょう。その傷が癒えることはない。
「舐めてもいい? 」
「いい訳あるか! お前は変態なのか? 」
「もう冗談なのに。それでこっちの傷は? 」
「それは三年前に決闘で負った傷だ。深いだろう? 苦労したんだから」
「舐めていい? 」
「だからいいはずないだろう? お前は本当に妖精か? 」
そんな風に多少恐れてるらしい。気持ちも分かりますけどね。
「背中のこれは? 」
ちょっと感じが違う。浅いし薄い。
「ああ母ちゃんの。女がバレて逃げたところをスパッとな。一週間前の傷だ」
何だ奥さんいたんだ? ちょっと残念。
続く




