ショーのフィナーレ
想定外のことが起こる。
ドラクエラの仕切りで乾杯を終え暗殺に取り掛かるところで事件発生。
謎の被り物男の乱入。会場は一時パニックに。
腰を抜かす者に拍手喝采する者。受け入れ方は人それぞれ。
だがこいつらにはいいが暗殺を控えてる俺たちにはバットタイミング。
なぜこんなつまらないことをしようとするんだ?
まったく信じられない。いい加減にしろよな本当に。
これは遊びじゃない。余興のつもりだろうがふざけるなっての。
「ちょっとあなた何をしてるの? 邪魔をしないで頂戴! 」
ドラクエラはお構いなく怪しげな被り物をした男に近づいて行く。
文句の一つも言ってやりたいと鼻息が荒い。いや正義感に燃えてるらしい。
もうここまで来ると茶番だと分かるので誰も拍手をしないでただ見守る。
これって失敗じゃないのか? 暗殺も失敗だけどつまらない演出も失敗。
拍手はため息に変わり失笑が広がる。仕方なく見てやるかと視線を送る招待客。
「何奴だ? 」
ビック隊長の力のこもった演技が意外にも受けている。
奇声を上げる者まで。これは成功? 意外にも成功なのか?
おっと…… 人の心配してる時じゃないよな。
つまらない茶番のせいで暗殺が失敗したのだから。
「ふふふ…… 私は名もなき騎士。王子の秘密を知る者だ! 」
そう叫ぶので興奮する少々飽き気味のお嬢様方。
「秘密だと? 王子まさかあなた様は…… 」
ビックの一言に慌てる貫禄も何もない王子。もう本当に大丈夫かよ?
俺が心配するのはおかしいが王子はいまいちで情けないガキだからな。
「この私に秘密があると言うのか? それは何だ? 答えよ! 」
巻き込まれた王子はいいとばっちり。震えてさえいるじゃないか。
全然練習してこなかった? どうでもいいか。
俺は晩餐会なんか初めてだからな。こう言う手の込んだ悪ふざけもあるのかな?
しかしこれ以上続ければ王子にボロが出るぞ。
いい加減恥ずかしいからやめたらいいのに。もう限界だろう?
尊敬されるはずが嘲笑の対象に。
だがそれでも続けようとする。
この劇が終わらないと次に行けないなら可哀想な話。
「どうした答えよ! 」
「それは言えません。ですが王子には大きな秘密があるのです。そうだろう皆?」
聴衆を焚きつける。謎の男に感化された者たちがそうだそうだと合の手を入れる。
すごいなこれ。ずっと見てられる。暗殺計画を邪魔したのも確かだから侮れない。
「頑張って! 応援してる! 」
「王子なんてやっつけて! 」
「そうよそうよ! あんな子供は倒しなさい! 」
ドンドン過激になって行く謎の男と聴衆。
「何を言う! この者を捕らえよ! 」
王子は演技が上手くなっている。それとも慣れてなくてつい口走ったか?
謎のマスクマン対王子の戦い。
まったくこいつらは邪魔ばかりしてどう言うつもりなんだよ。
それに拍手で応える聴衆。この後どうなって行くのかな……
ついそんな風に思う。
「スーテル…… 」
後ろにピンチラの影。
振り向かずに大声で話す。そうしないと聴衆の声にかき消される。
本当にどいつもこいつも緊張感がない。
王子に選ばれたいと緊張してるはずの令嬢。
狙われてると警戒してるはずの王子たち。
どちらにせよ相当な緊張状態なはずなのにふざけてるとしか思えない即興芝居。
頭が混乱するだろうが。どうなってやがるんだ?
これも奴らの手だとしたら参謀には相当な切れ者がいるに違いない。
「この熱狂の中で手を掛けるのは一見正しいように見えるが観衆の目がある。
どう頑張っても暗殺は不可能。ここは大人しく様子を見守るしかないだろ? 」
提案と言うか諦めだな。今日の計画は中止を余儀なくされた。
明日以降に機会を窺うしかない。それが俺たちの共通認識。
俺たちの失態じゃない。予定通りに明かりを落とさなかった奴の問題。
暗殺でなく強引にぶち殺すなら今からでも問題ないがそれでは奴らには不都合?
面倒だから無視していっそのこと今すぐ。そうすれば懸賞金は手に入る。
文句は言わせない。いくら奴らに従えと言ったところで暗殺すればこちらのもの。
称賛されても制裁を受ける道理はない。だが注文は複雑だからな。
その為に俺たち女を集めた訳だしな。
もし暗殺ではなく襲撃なら俺たち女を利用する必要がない。
奴らの考えをもう一度聞いてからでも実行は遅くないか。
これは臆病でもやる気がないでもない。裏切りでもなければ敵前逃亡でさえない。
俺たちの計画に穴があった以上白紙に戻しやり直すのがセオリー。
この件でゴタゴタ言う奴はぶち殺せや。
衆人環視の中で誰が暗殺できると言うのか?
「おお! 裏切りの王子! 私を切り見捨てたと言うのか? 」
「違う! お前など知る者か! 王子は私一人だ。お前に用はない! 」
二人はどんどんエスカレートしている。最後には剣を交えることになる。
「剣を抜くがいい裏切りの王子よ! 」
「ほざくな! 拾ってやった恩を忘れて楯突くとは何事だ! 」
どうやらそろそろフィナーレらしい。
「行くぞハッチ! 」
「来い愚か者めが! 」
こうして剣で語り合う二人であった。
そこで暗転。 長く感じられたが三十秒もしないで元に戻る。
「いかがでしたか皆さん? お楽しみいただけたでしょうか?
ハッチ王子と謎のマスクマン。それにビッグ隊長に温かい拍手を! 」
ドラクエラが場を仕切る。
きゃああああ!
大歓声に迎えられ王子が戻る。
王子帰還に大盛り上がり。もう熱狂冷め止まぬ中でショーはフィナーレ。
「いかがでした王子? 」
「うん。悪くない。若干私が悪人になってるところが気に食わんがよかろう。
しかし主役はこの私ハッチ王子だと言うことを忘れないでもらいたい」
王子としてのプライドがある。それはそうか。ただのクソガキじゃない。
「では皆さんゆっくりとお寛ぎください。舞踏会は明日。どうぞご参加願います」
晩餐会はまだ終わらない。
続く




