お父様のお言葉
メイドたちの噂。王子がすでにお越しになってるか間もなくお越しになるか。
果たしてこの真偽不明の噂をバラまいてる愚か者は一体誰でしょうか?
こんなことされたら王子のことで頭が一杯で誰も仕事が手につかない。
身が入らないと言うものです。それはお嬢様の私だって同じこと。
きゃああ! 早く愛しの我が王子……
まずい。本気で軽蔑の目を向けている。
私はこれでもお嬢様なのよ? これくらいの妄想したっていい。
いやらしいことを想像してるでは決してない。
ただ森で馬に乗って微笑む王子に迎えられる場面を想像してるだけ。
「ちょっと待って王子って? 」
「さあそれは分かりかねます」
メイドたちはそれ以上の情報を持っていないらしい。単なる噂だから。
ただ王子が視察に来るのは間違いない。そして私に一目惚れするのも間違いない。
自信過剰ですって? 違う! 私はお父様から上を目指せと言われている。
ほとんどの令嬢は位の高い方のところに嫁ぐそうだが私はそれは許さんと。
自分で素敵な男性を見つけなさいと厳命が下っている。
くだらないアホ男に一生を捧げるのは間違ってると。
よく見かける実力もないのに吠えたり威張ったり暴力的な方。
恐らくは彼らのことを言ってるのでしょう。
私も幼き頃からお父様に連れられていろいろな方を見てきました。
身近に年の離れた兄の存在。お兄様たちはお父様の後を追い進軍する敵に応戦。
我が国の領土を守るために必死に戦っております。
たまに戻って来ては今何が起きてるのか起きようとしてるのか語ってくれます。
それに感化されて自分もとなるのですがいけませんとストに止められてしまう。
我が一族は実力で成り上がって来た歴史があるのだとか。
別に男などいらないと言ってはみたがお前には無理だと言われてしまった。
「どうしてお父様? 私は信用できませんか? 」
「いやそうではなく初めから男を捨てるのはいかん。マシな男も探せばいるはず」
自分のようにと結局は自慢話が始まる。
若き頃の嘘くさい武勇伝。そうだよなとお付きの者に問う。
事実であろうとなかろうと首を縦に振るでしょう。
そもそもこの人私が生まれてからやって来た人じゃない。知りようがない。
「ほほほ…… お父様みたいな人はたぶんいらっしゃらないかと」
まったく嘘ばかり。どれだけ娘に格好よく思われたいの?
これだからメイドたちに嫌われるんでしょう?
もうお父様ったらこの調子でメイドたちに手を出してなきゃいいけど。
亡きお母様に顔向けできません。
「よいか。我が娘はもうお前一人なんだ。だからしっかりやれ! 」
戦地に赴いたお兄様たちからの手紙が届くのも稀。
大体十も違うお兄様たちですから。
お姉様も間もなく嫁ぐことに。
お二人ともそれは優秀で美しいですからお相手に苦労することはないでしょう。
どこぞの大臣だの侯爵だのと大騒ぎ。ですが嫁ぎ先は二人とも田舎貴族。
それはそれで悪くはないですが。もし激化し戦乱の世になれば……
今が多少平和になったとは言えそれもまやかしに過ぎない。
新たな火種がくすぶり続けている。
いつ戦況が悪化することか。そうなればお兄様たちはきっと。
そうなる前にお父様が始めた戦いを終わらせる必要がある。
都から外れた戦争ばかり。お父様だってそれほどのカリスマがあるのではない。
それこそ王子と結ばれれば一瞬で勝利を収めることでしょう。
と言うより跪くに違いないのです。
「お嬢様? お嬢様! マリオネッタお嬢様? 」
「どうか致しまして? 」
「ぼうっとなされていましたよ。最近特に多いですよ」
「それは…… 」
今はただお父様のことを思い出していただけ。
「お熱でもあるのでしょうか? 」
そうやってベッドに連れて行かれてしまう。
「ちょっと…… 」
最近ぼうっとすることが多くなった。ストにも毎日叱られている。
そんな時はいつも見回りのことを思い出してる。
でも恥ずかしくて素直には言えない。言えるはずがありません。
こうして風邪気味のお嬢様は寝かしつけられる。
まあいいか。午後の予定はキャンセルしてのんびりしてましょう。
それにしても王子ってどんな方かしら。不細工だったらどうしよう。
おじさんだったり生意気なガキだったら嫌だな。
もちろん子供でも構わないんです。
ただいつも見回りしてる彼らみたいにかわいいなら。
贅沢言ってる時でもないか。
戦況が悪化しお兄様たちに万が一のことがあれば私がこの屋敷を守ることになる。
ふわああ!
そう言えば最近張り切り過ぎて睡眠不足だったのよね。
たっぷり眠るとしましょうか。
続く
また明日!




