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王子落下

刻一刻と王子暗殺が近づいている。そんな気がする。

ここは早いところお伝えしなくてはいけません。


「王子! 下を覗いてはいかがですか? きれいなお魚がたくさん泳いでますよ」

王子に伏せてもらうのがいい。そうすれば銃撃から逃れることになる。

暗殺だから。室内ではなるべく目立たないように始末するはず。

それが毒殺なのか刺殺なのか撲殺なのか。

しかし外ではそうも行かない。近づくことさえままならない。

ならば打つ手は離れたところからの銃殺にほぼ決まり。

王子のすぐそばにいれば他も可能だろうがお爺さんが目を光らせてるから。


「子供だな。魚などいつでも我が水槽で動いておるわ。それともただの貧乏人か?

悪いな。本当にそうなら許せ」

人の苦労も知らないで何て人なの? そもそも貧乏人ではない。

辺境の地とは言えお嬢様ですから。辺りでは一番の巨大屋敷。

ビアンカはまだしもこのマリオネッタお嬢様が貧乏人であるはずがない。

おかしな勘違いも同情もいらない。少しはこちらの気持ちを汲んで欲しい。

これではいつまで経っても王子の協力を得られないじゃない。

互いに助け合うべきところなのに。


「いいから従いなさいよ! 」

つい強制してしまう。絶対にやってはいけない。しかし気に入らない。

これは王子の安全の為。それが分からないの? 

「ははは! 強引だな。それでこそこの私が見込んだことだけはあるな」

そう言って笑う。この人マゾなの? マゾ王子だなんてシャレになりません。


「いいから早く! 」 

「何をする? 王子を突き飛ばす気か? 」

あらぬ疑いを掛けられる。まったく失礼しちゃう。


「まあよい。見てやろう」

さあこれからどうなる? 

「これは凄いな。透き通っていてよく見えるわ。ははは! 」

「そうでしょう。どうぞもっと近くに寄ってご覧ください」

ここで船を浮かべて三十年のベテラン。

近づけばもっと素晴らしい景色が見られると勧める。

しかしこれ以上は危険。潮の流れで急に激しくなる恐れもある。

そうだと言うのにこの人と来たら子供っぽい王子を唆す。

まさか彼こそが暗殺者? だけど仲間は全員女と聞いたが……

とにかく注視するしかない。王子もそこまでバカではないだろう。


ドドン!

物凄い水しぶきを上げ王子が海へ。

嘘でしょう? どこまで間抜けなの? これでは私が誘ったみたいじゃない。

溺れたらどうするの? きっと泳げますよね。さすがに王子だから対策は万全?


急いで男たちが海に飛び込む。

まずい。この寒さでは王子たちの体が異常を来す。

ここは夏以外は刺すような冷たさだと事前に説明があった。

そう考えると急いで王子たちを救出しなければ。でもどうすればいい?

何もできずにただ見守るしかない?

ビアンカを見るがただ心配するだけ。全然頼りにならないんだから。


おかしい……

王子が冷たい海へ落ちたと言うのに焦ることも表情を変えることもないお付き。

ビアンカほど動揺しろとは言いません。うっとうしいですからね。

ですが多少は表情を曇らせるとかあってもいい。

なぜ眉一つ動かさないで状況をただ見守ってるの? まったく理解ができない。

王子などどうでもいいと本気で思っている? 


さっき出会ったばかりの私には二人の関係がどうなのか分からない。

でも私が同じように転落すればビアンカは助けようと無理をするでしょう。

これが王子とお付きの関係。他の者がいてしっかり助けてくれると? 

それでも普通は心配するでしょう?


もしかするとお付きの彼こそが今回の暗殺者…… それはないか。

暗殺者は女だと決まっていた。

あの地下室に彼のようなお爺さんが紛れ込んでいればさすがに気付く。

奴らだって嘘を吐くはずもない。そんなメリットがないのだから。


ああ疑わしい。あの人こそが奴らの仲間。王子の周りにいる裏切り者。

ですがそれを指摘すれば王子が危ない。もう少し様子を見よう。

あるいは別の考えに基づいているの?


「どうしたお前? 王子が心配ではないのか? 随分と冷静だな。姉を見ろ! 」

逆に問い詰められる。これはおかしな展開。

あちらも私の冷静さに不気味なところを感じたのでしょう。

これは危険人物。警戒を怠ってはいけない。

「いえ…… とてもとても心配しております。今だって震えてますよ。

王子が心配で心配でいてもたってもいられません。

ですが私は実のところまったく泳げないのです。

ですから近寄ったところでお邪魔してしまう。

感情を露にすれば他の方の迷惑になると考えて…… 」


つい真面目に答える。泳げないと嘘を言ってしまったがバレないでしょう。

後は嘘泣きでどうにか凌ぎたいがその涙がでて来ない。

これでは疑われる? ただの素敵な女性では済まないかもしれない。


「まあいい。王子が無事ならそれでいい。ほら顔を上げろ」

そう言うと光が差す。そこには王子のお姿が。何と神々しいのでしょう。

おかしな演出に言葉が出ない。素敵と言っても過言ではない。

うーんここでどう振る舞えばいいのか? 奴らは教えてくれなかった。

だったらいつも通りに動くしかなさそう。


「どうぞお座りください」

もう完全に役目を忘れてただ心配するビアンカ。

それはお嬢様であるこのマリオネッタにでしょう?

「うむ。お前たちにも心配を掛けたな…… おい何をする? 」

つい勢い余ってビアンカが抱き着いてしまう。

懐に飛び込めと言われたがそれは比喩で本当に飛び込むなと言われたのに。

ビアンカったら忠告を無視して飛び込むんだから呆れる。


もし彼女が本気ならば王子の命はなかったでしょう。

はっきり言って警備体制が甘い。これではいつやられてもおかしくない。

私たちの手を煩わす前に暗殺されてしまう。


                続く

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