王子発見!
王子が来る。どうしよう……
「ほら落ち着いてマリオネッタ。深呼吸」
ビアンカが演技に入る。そうか前から演じてたもんね。
今更怖気づく訳ないか。それでは私もメイドの妹を演じるとしましょう。
ビアンカはメイドだから自然でいいよね。
私はお嬢様だからどうしても違和感がある。
「どう素敵でしょう? 一度マリオネッタに見せたくて」
「ふふふ…… 雄大ですねお姉様」
小さな滝を眺めて笑う。うん自然自然。この大きな滝も自然。
「もうマリオネッタ近づき過ぎ! 落ちてしまうでしょう? 気をつけて! 」
ビアンカも乗ってきた。即興芝居と言うより猿芝居ですけどね。
最初はぎこちないけれどそれでも徐々に慣れて本当の姉妹のようになれたらな。
問題は王子を前にした時に緊張でどうなることか。
最悪姉役のビアンカに任せればいい。私はただ従うだけ。妹の特権。
トレインから姉妹を演じて来たので決して下手ではないしボロも出ないでしょう。
お里だって別に正直に話せばいい。王子が興味を示さなければ素通りするだけ。
こちらにはこの鍔広帽もあるしそもそもが実際ラクエラに観光に来てるのだから。
元々ラクエラの名所をゆっくり二人で見回る予定だった。
だから演技とかでは決してない。一番の問題は姉妹に見えるかでしょうね。
そもそも私には二人の姉が。難しくない。
「ふふふ…… 眠くなっちゃった。お姉様どこかでゆっくりしましょう」
ビアンカに思いっきり甘えてやる。彼女は少々困った様子。
「うーんどこがいいですか。私もここが初めてだから…… 」
「嘘…… 三度目だって言ったじゃない! 任せてよって自信満々に! 」
「そんな不安そうな顔しないで。きっと素敵なところがあるはずだから」
「もうお姉様はいつもそう! それで何もないと私が寝てたか迷ったかしたと」
おっとつい興奮して演技に熱が入る。やり過ぎかな?
「何を言うのマリオネッタ? 実際そうでしょう? 子供みたいにすぐ眠いと。
今だって眠いって甘えてばかり。それにあなたに任せると絶対迷う。
もう二度と任せません! おかしなことに巻き込まれて大変なんだから! 」
ビアンカが私の軽率さを非難。今回のこともすべて私だけのせいと決めつけてる。
もう許せない。ビアンカが止めないから行けないんだから。
「何ですって? 」
「やめなさい! 子供みたいな真似はみっともない! 」
つい二人とも感情が入り過ぎてエキサイトしてしまう。
果たしてこれで正しいのでしょか? 誰か知ってる人は? いる訳ないか。
監視が外れたように思うが奴らは執念深い上に察知能力も高い。
ここで試すほど私もバカではない。ビアンカは知りませんが。
とにかく帽子を目深に被り王子の到着を待つ。
あいつまだ来ないのかよ? トロいな。早くやられに来いっての。
こっちが退屈してるだろう? 本当に眠いんだからさ。
心にもない思いがつい…… これもラクエラに来て身についたよろしくない癖。
「ははは! どうしたんだい君たち? 」
約三十人の団体さんの中心に例の王子の姿が見える。
顔は初めてなので何とも言えないが性格は悪くない?
興味深々の様子。
私たちのオーバーな演技に誘われてターゲットがついに姿を現した。
まったくどこまで単純なの? 悪口の一つや二つ言いたい。
だって王子さえ視察に来なければこんな大それたこと起きてない訳で。
ああ早く始末したい。おっとつい言葉が悪くなってしまう。
ここはしっかり上品なお嬢様を演じないとね。
いえいえそれはいつもの私。演じるまでもない。上品に振る舞うなど当然のこと。
ストに厳しく躾けられたのだから。それが今結果に結びつくと思うと感慨深い。
あのストの激しい特訓が思い出される。
スト…… 今あなたにその実力を見せられないのが残念です。
偉い人だと言う認識はできるがまさか中身が王子とは誰も思いはしない。
暗殺部隊でもない限りターゲットなど気にするはずもなく。
ただ通り過ぎていく。でも私たちはそうはならずに話しかけられた。
「ごきげんよう」
ビアンカが微笑みながら挨拶を交わす。私も真似しようとするが声が出ない。
緊張からどうしても声が思うように出ない。相当なプレッシャーだったのだろう。
「ほうお前は気づいたのか? 」
王子の横で横柄な態度のお爺さん。どうも機嫌があまりよろしくないよう。
一体何があったのでしょう?
最近爺に説教を喰らうことが多い。嫌なのよ実際問題。
大体怒ると止まらくなるし。もうお年だから仕方ないですが私は許しません。
「はい? 私は初めてだから…… 」
どうにか言い繕うが言葉にならない。
これでは王子を認識してると認めてるようなもの。
ああやってしまった。苦手なのよねこう言うの。
ビアンカみたいに嘘が口からスラスラ出てくることもない。
私はただの情けない辺境のお嬢様。メイドから変態令嬢などと揶揄されている。
続く




