教会の光
強引に外出許可を得た。これは正式なものだから後でお叱りを受けることはない。
「もちろん逃げるんです。急ぎましょう! 」
そう言うと無理やり引っ張って行こうとする。
嘘? 頭の片隅にはもちろんありました。ですがその決断の速さには驚かされる。
さすがは専属メイド。頭の回転が速い。
逃げる? 本気で逃げる? そんなことが果たしてできるの?
できるとしてビアンカはどうするつもり? その逃げ方を説明してない。
まさか解放感から無計画に逃げ出そうとしている?
それは結局のところ無謀で危険な賭け。従えないし付き合えない。
二人は一心同体。ビアンカの失敗は私の失敗。
だから裏切るタイミングも難しい。やはりここではない。今がベストではない。
明日の晩餐会こそが絶好のチャンス。それはビアンカも言っていた。
それまではいくら逃げられそうだとしても無理はしてはいけない。
ここは慎重に。あちらの策略に嵌って逃亡すれば処分される。
近くに逃げ道があっても今は自重すべきでしょう。裏切りは最悪の結果を招く。
やはり初日の処刑が足かせになっている。
「待ってビアンカ。それはあまりにも単純ではありませんか? 」
ビアンカが気づかないことを私が代わって察知して指示する。
これではどちらが姉か分からない。でもこれは野生の勘みたいなもの。
ストに叱られ続けて獲得した臭いのようなもの。危険だと警告してる。
「どう言うことですお嬢様? 」
「彼らは監視をつけてない。絶対に逃れられないと言う自信がある。
それはビアンカでも感じるでしょう? 」
「そう。我々がもう暗殺者として生きると分かり自由にさせた。
もし監視されていれば逃げるのは悪手でしょう。
ですが監視がいないなら逃げない手はない」
もっともらしいことを言うがそれには危険が伴う。命懸け。選べはしない。
私たちはラクエラの町に慣れると言う名目で自由に歩き回れる。
でも逃げて門限を過ぎれば追っ手を放たれて地の果てまで。これではダメ。
故郷に逃げ込めばそれでもどうにかなる。
ですが当然のように夜はトレインは動いてない。
もう故郷にも王子の住む城にも行けやしない。
「気持ちはよく分かるのビアンカ。私だってできるならこのまま帰りたい。
あなたを巻き込んで悪いとも思ってる。あんな招待状に惑わされて来てしまった。
後悔しても遅い。でもそれでも今は戻れないし帰れない。
今逃げれば絶対に捕まってしまう。そうでしょうビアンカ? 」
私は冷静で賢い。お父様お気に入りのマリオネッタよ。
メイドが間違いを犯すなら正すのが私の役割。
いつもは私がミスをして彼女が助けるのが常だけれど。
今は故郷を離れて二人っきり。甘えてなどいられません。
どうもビアンカは私以上に興奮して冷静さを失っているのでしょう。
目の前に逃げ道があるなら誰だって進もうと冷静ではいられないか。
「はい。確かにそれは同感です」
ビアンカは納得したらしい。
それはこの真っ暗な世界を見ても嫌でも納得してしまう。
夜はどこだって真っ暗。店は閉まり人の移動は僅か。
これでは逃げるにしてもどう行けばいいか。初めての土地で地図もない。
誰か土地勘のある者か案内役でもつければそれも解消されるでしょうが。
今はただ夜の空気を吸いラクエラの闇を見る。
もっと行けば明るい場所もきっとある。
例えばあの場所。あれは……
今日中に帰ってこい。それが命令。だとすればまだ時間はある。
ギリギリまで探索するのも悪くない。これは散策で逃亡ではない。
「あの光は何だろう? 」
僅かに見える光。遠くの方で光り輝いている。
「たぶん…… 教会かと思いますが」
この辺りには大きな教会があるとビアンカは説明してくれた。
歩いて五分ってところに教会がある。
迷ってる暇はない。さあ向かいましょう。
光輝いていてこのほぼ真っ暗な世界を小さく照らす光。
暗闇を照らす一筋の光。吸い込まれるように中へ。
「どうされましたか? 」
神父様が優しく語りかける。奴ら以外の恐らくまともな人間。
ああ何日ぶりだろうか? これで助かった? もう逃げなくても……
そうするとついすべてを告白したくなってしまう。
ですがそれは決してここではないし私はそこまで弱くない。
「それが…… 」
ビアンカは迷っている様子。しかしここで余計なこと言えば巻きこむことになる。
「ハイそれで十分です。言いたくなければそれでよろしいのです。
ただどうしても何か伝えたいのであればどうぞ」
神父さんは決して無理強いはしない。
さあどうしよう? このままただ教会を見学する訳にも行かない。
手掛かりの一つぐらい残すべきでは。しかし奴らも教会にも目をつけているはず。
下手は打てない。ではどうしたらいいの?
「ではゆっくりしていてください」
そう言うと姿を消す。これでチャンスは失われた?
続く




