王子の噂
わざわざブランチを中座させてまですること。
お姉様ったら一体どのような御用があると言うの?
怖いんですけど? どうしましょう?
「ああそうだ。ビアンカがあなた付きのエラとなりましたよ」
お姉様はただ妹いじめしようとしたのではなく伝えたいことがあったようです。
もう本当に脅かしててっきり叱れるのかとばかりドキドキ。
ビアンカは私のお気に入りメイド。そのことはお姉様たちにも知られている。
でもどうして私はビアンカを気に入ったんだろう?
メイドとして有能で新人だから他のメイドより言うことを聞くし扱いやすい。
でもそれだけでない何か。ただ仕えるだけではないビアンカから感じ取ったもの。
それが自分でもよく分かってない。
どうもまだ仮決定らしい。正式なものはまだ先。
ビアンカも私に心を開いてくれている。
だから凄くやり易い。ただエラはちょっと……
エラとは元々この国だけのものではなかった。
いつ誰がエラにしろストにしろ考えそう呼んだのか定かではない。
昔の古い書物にも確かに出て来る。
それを参考に現国王が新たに作り上げたもの。
三つの頭文字を取ってESS制度と呼ばれている。
エラは優秀なり。
シスはその上を行くものなり。
ストはすべてを超越したものなり。
詳しいことは聞いてみないと分からないがとにかくビアンカはエラになった。
それはただのメイドではなくなったことを意味している。私を指導する立場に。
ああ昨日までのビアンカが懐かしい。
一緒に協力して駆け回った日々が本当に懐かしい。
たかがメイドされどメイド。
礼を言ってブランチを残す。
少々もったいないですがこれもいつものこと。
控室。
メイドたちの溜まり場。情報交換の場となっている。
ベテランになればなるほどお父様さえも知り得ないような情報を持っている。
今お姉様から聞いたばかりの極秘情報を早く伝えたくて仕方ない。
お姉様だって私から伝えたら喜ぶと思って話してくれたのでしょう。
「ねえビアンカを見なかった? 」
いつもここで捕まえられるのに今回は無理みたい。
「はい。それでしたらスト様に呼ばれてどこかへ」
またスト? この世界ではストは最高の栄誉。
仮にメイドであろうと何であろうとそれは変わらない。
いくら家柄がよろしくても貴族だとしても意味がない。
爵位でもない限りその優位性は保てない。
スト最強説がこの世界では密かに囁かれている。
そんなことよりも問題はビアンカ。
せっかく従順なメイドだったのにエラにでもなったら日課に付き合わせられない。
しかも最低なことにエラは最初の内はストの監視下に置かれる。
それは私まで監視下に置かれることになる。
ああそれだけはどうしても避けないとなりません。
日課の終焉を意味する。ああそれはあまりにも辛すぎる現実。
毎日の退屈を凌ぐためにも必要なことなのに誰も分かってくれない。
「そうだお嬢様。この噂を知っていますか? 」
興味はある。特にこのお屋敷に関することと国王様関係。
「ええ何? 最近忙しくて…… 」
促すとようやく語り出す。もう語りたいなら早くしなさいよ。
付き合ってあげるんだから。どうもメイドたちは噂を信じやすい性質。
しかし私は違う。いちいち間に受けない。ただの噂にそこまでのめり込まない。
それがお嬢様の余裕。いくら暇で退屈でも。
「実は来てるんですよ。いえまだ未確定なので本当かどうかは…… 」
「誰よ? 」
投げやり。どうせいい加減な噂でどうでもいいけど早く教えなさいよ。
「王子様に決まってます! 」
何一つ決まってないが続けて欲しい。
「何でもこの辺りの鉱山の視察とか。実際は別だとか」
どうもいい加減な噂。たとえ真実だとしてそれが何だと言うのでしょう?
ああ王子様! どうぞ私をあなたの側に。
つい舞い上がってしまう。妄想が止まらない。ああどうしてしまったの?
妄想すること十分。自分の世界に入り込んでしまっていた。
いけない。メイドたちから冷たい目で見られる。恥ずかしいったらない。
「何ですか皆さん? お似合いではないと? 」
お嬢様なのですよ? いくら片田舎でもこの地域を支配する一族の娘。
マリオネッタお嬢様なのですよ? 文句があるなら堂々と言いなさい。
うーん。私って優しい。だって直接声に出さない。ただ不機嫌になってみる。
叱りつけるのは慣れてません。さあ察しなさい。思いっきり忖度しなさい。
それがあなたたちにできる唯一のことなのだから。
「いえそのようなことは誰も。ねえ? 」
話すんじゃなかったと言う顔で他の者に同意を求める。
ああまたバカにして。でも少なくてもこの中で私に敵う美貌の持ち主はいない。
それは確かにメイドたちを下に見てるがそれは身分の違い。
これは私のせいでもなければ彼女たちのせいでもない。すべて時代のせい。
私だってこれで満足してる訳じゃない。もっと素敵な方の裸を覗きたい。
違った。違いました。もっと素敵な方の肩に抱かれたい。
そうそうこれこれ。王子はその願望に相応しいお方。だから妄想も抱く。
続く




