ビック隊長
ラクエラまでトレインで。
ぞろぞろと家来を引き連れないで十人弱の少数精鋭で向かう。
人が多ければそれだけ情報が洩れる恐れがある。
これは私の判断と言うよりはトルドのアイディア。私も賛成している。
大所帯では肩も凝るし何と言っても恥ずかしい。
ラクエラにも協力者はいるようなので向こうに着けばどうにかなるだろう。
トントン
トントン
「失礼します! 」
トレイン保安員が姿を見せる。保安員だけあって体格もよく威圧感がある。
それこそ凶暴そうな熊のような近寄りがたい存在だが腰は低くすぐに転倒しそう。
彼一人にトレインの安全を任せるのは少々不安 。
「定時連絡です。不審者及び不審物は見受けられません」
彼には常時車両の安全に目を光らせてもらい不審者等にも対応してもらっている。
「うむ。ご苦労であった。王子は何かありますかな? 」
「隊長にも見回りを」
ビック隊長は今回の王子護衛隊の隊長。元々は国王に仕えていた情に厚い男。
彼の指示の元で僅かな人数で動いている。
彼が最後の防波堤となってこの私を守ってくれることだろう。
もちろん何かあった場合だが。そう簡単に手は出せないはず。
私は今のところ一応は第一王子。国王から継承権を継ぐことになっている。
そんな私を襲えば一族郎党が抹殺されるだけ。
常識で考えれば私に限らず王族に手を出すことは通常あり得ない。
国王に反旗を翻すことになる。それは国を追われるだけに留まらない。
あらゆる責め苦を受けた末に処刑されるのだ。痛いし怖いし辛いぞ。
だから確たる思いがない限り大胆な真似をするはずがない。
「それは構いませんがここが手薄になってはまずいのでは? 」
王子の命を狙う不届き者に察知されては手薄になるほど余計に危うくなる。
隊長が誘い出されたら誰も守れない。相手の思う壺。
しかしこの王子とてただやられる為に生まれたのではない。
猛者でもない限り倒されはしない。それよりも神経を使うのは毒殺の方。
毒見を経てから食事しているが巧妙に毒殺する輩がいないとも限らない。
屋敷を離れればいくら鉄壁の布陣でも穴はいくらでも見つかる。
一見完璧に見えても実際は穴ぼこだらけ。
「では王子。見回りしてきますのでどうぞそのままで」
呑気に寛げと隊長。まさかそこまでこの王子に気を遣うことはない。
今は一国の王子ではなくただの乗客。余計な気遣いは不要。
私も少しは頭を使わねば。ただ守られているのは嫌だ。
この辺のことを一度相談役に聞くのもいいだろう。
もしもこのトレインに刺客が紛れ込み隊長が見逃し襲ってきたとしてどこから?
窓から? しかしトレインは走ってるのだぞ? ノロノロ動いてるならまだしも。
それならば外からとは考えにくいな。ならば中から。乗客に紛れてが自然。
「しかしよろしいのですか? トレインに王子がいることをお伝えしなくて」
「心配するのは分かるが目立たないように隠密に動いている。
余計な情報を相手に与えては逆に危険だ」
これが自分のやり方。目立って狙われるとトレインごともあり得るからな。
それでは助かる見込はない。そして無関係な民が多数巻き込まれることになる。
もちろん犠牲は付きものだがここに視察に来たのはこちらの都合。
いくら国王の代理でも無辜の民を巻き込んではならない。実際は代理の代理だが。
しかし残念だがそう考えない輩もいるのだ。
「隠密も結構ですが情報が筒抜けならば人は多いに越したことありませんよ」
安全策をとうるさい。うーんどちらにも長所も欠点もある。
致命的な欠点は動きが敵に筒抜けだった場合トレインに細工し諸共。
逆に隠密の場合は数で圧倒された場合に打つ手がない。
何と言っても動いてる車内では逃げ場もない。あるとすれば秘密の空間ぐらい。
しかし時間は掛かるが隠れる場所などしらみつぶしに探せば……
いややめよう。これは私にとっても気分転換の旅なのだから。もっと楽しもう。
狙われたら狙われたでいい。その時は全力で守ってもらえばいいさ。
すべて事前に調べてもらっていてもしもの時の対策はできている。
問題は正面から堂々と来られた場合にどうしても遅れがち。
音も立てず近づいて来る暗殺者だった場合には気づいた頃には命はない。
そうして目立った騒ぎもなく半分が過ぎようとしている。
「おかしいですぞ。トラブル報告がないのは逆に変ではありませんか」
トルドの第六感が働いたのだろう。それは今までの経験から来るものに違いない。
そうだとしても一体何がそんなに引っかかるのか?
トラブルがない方がいいに決まってる。
のんびりと旅を楽しめばいい。年だから色々と余計に考えて気が立つのか?
じっとしてられないのか座れば貧乏ゆすりを始める。
「どうしたトルド。そんなに不安か? 」
「ははは! まさかあり得ません。ただ気になるんですよ」
強がるばかりのトルド。どうも緊張しているようだ。
ははは! らしくない。ちっともトルドらしくない。
トレインはラクエラへ。
続く




