王子登場
ビアンカ豹変は彼女の作戦だった。
欲深い冷酷な暗殺者を演じることで疑いを逸らし優位な展開に持って行こうと。
彼女の本性とかでは決してない。それは彼女の名誉にかけて否定しなければ。
それにしても突然手紙を書けだもんな。何を考えてるんだか。
頭の回転が速いビアンカのことだから何かあるんでしょうね。
私としてもお父様や皆に一刻も早く無事を知らせたい。
突然屋敷からいなくなったんですから特にお父様には心労を掛けたことでしょう。
<拝啓お父様。現在ラクエラの地下で王子暗殺作戦に参加しています。
詳細は次に譲るとして今はビアンカの助けもあり無事だとお伝えしておきます>
うん。これくらい簡潔でいい。字もきれいとは行かないまでも独特で個性的。
ではさっそく手紙を送るとしますか。
「おいどこに行く? 」
当然のように監視されていた。自由はなく地下でさえ勝手に歩き回れない。
窮屈で堪らない。三日とは言え息が詰まりそう。
「それが…… お父様にお手紙をと思いまして」
「ふざけるなこの裏切り者が! 」
見張りが紙をビリビリに破いてしまう。せっかく書いたのに……
「うんどうした? 」
大声を上げるものだから大ごとになるじゃない。
でもこれで本当にいいのビアンカ? ふざけてない?
しかもお嬢様一人にやらすなど何を考えてるの?
本来これらすべて専属のお世話係がやるべきことでしょう。
ただ後ろから見守るって酷過ぎる。
「騒がしいな。言ってみろ」
「それがこいつが手紙を…… 」
「おおふざけておるの。気にするな。こいつらは本物だ。
我々の本気度を測ってるだけに過ぎない。そうだろう? もう退屈してるのか?」
さっきまで脅迫していた男は見事にビアンカの演技に騙され笑顔さえ見せる。
「ふふふ…… もう少しまともで冷静な奴を使いなさいよ。騒いでうっとうしい」
「そう言うな。処分しろとでも? 」
「いえいい。今度からは気をつけるのね」
もはやビアンカはいつもの優しくて情けないメイドではない。
頼りになるお姉さんだ。それが彼女の隠された力。
私の方が修羅場を経験してきたと思ったのにどうやら違ったらしい。
またビアンカの新たな一面が見られたような気がする。
こうして三日ほど地下に籠って準備を整える。
ただやることと言ったら水晶玉の手入れとダンス。
これでは占い師と踊り子の姉妹ではありませんか?
設定はどうしましょう?
国王の助言をする占い師と村々を回る人気の踊り子。
実際その能力があるかと言えば疑問ですが。
占いはいいとして踊りは舞踏会でも役に立つだろうから力を入れる。
「だから違うだろう! 何度言えばいい? そんな正統派の踊りは求めてない。
もっと腰を振ってひねりを加え目は閉じて手の位置はもっと上。
回転のタイミングも悪い。何度言えばいいんだこの出来損ない! 」
出来損ないのマリオネッタと揶揄される始末。ああ情けない。
なぜか私だけ厳しく指導される。これはあまりに不公平。
いつの間にかお話の内容が変わっていませんか?
「いいかマリオネッタ! お前は村娘だ! 間違ってもお嬢様だと思うなよ」
指導役は若く常にイライラして睨みつけおかしなことばかり言う。
笑顔を見たことがないぐらいいつも怒ってばかり。
私をダンスで縛り付けて洗脳でもしようというのでしょうか?
「しかし私はお嬢様で…… 舞踏会でも相応しい踊りを見せたく…… 」
反抗的な態度を取ってしまう。だって難しいんだもん。
「口答えをするな! 誰が王子のお相手を務めろと言った?
お前は離れたとこから遠隔で王子を操って暗殺するんだろうが。忘れたか? 」
ダメだこの人。私の計画の邪魔ばかりして。従わないと不機嫌になる。
でも従ってもちっとも成長しないから怒ってばかり。
私は世間知らずのお嬢様。幼い頃から踊りに興味なく近所のガキと遊び回ってた。
そんな私では踊りが上手くなるはずがない。私には無理なの。
ダンスならビアンカでいいじゃない。彼女ならきっとうまく成し遂げてくれる。
私は占い師の役目を果たせばいい。あるいは木の役だっていい。
「黙れ! お前は仮にもお嬢様だろう? そして彼女はメイドだろう?
反対はあり得ない。お前は完璧に踊り子になってもらうぞ」
もう言ってることが滅茶苦茶。ただかわいい私をいじめたいだけじゃない。
鬼の特訓でどうにか踊りは上達した。ストよりも厳しいんだから嫌になる。
さあ王子暗殺計画開始!
その頃王子は……
王宮の一室。一人の男が入って来る。
「騒々しいぞトルド! どうした? 」
いつも言っているのに年だからか聞きはしない。
もう耳も遠い…… こともなく地獄耳。
とは言えこれ以上仕えるのは難しいか? しかしトルドが退けば再び孤独になる。
この私の唯一の理解者。父上はいい加減解放してやれと助言するが冗談じゃない。
誰がこのトルド以上の働きをすると言うのだろう?
それは確かに献身的な者もいるがそれは自分の役割を果たしてるだけ。
あるいは取り入ろうとしいてるだけ。
今仕える中に信頼の置ける者など僅かしかいない。いつ寝返ることか。
いやそれは考え過ぎか。だがアーノルドとブレンダは着々と力をつけてきている。
後は国王である父を暗殺してしまえばお終い。
その時にこの私にまで手を掛けようとしている。
あるいはもうすでに動き出したか? 亡き者にする算段かもしれない。
もう兄弟とは言え情など微塵もない。もう敵でしかない。
それを気づかせてくれたのもトルドだった。二度ほど暗殺を未然に防いだ。
しかし決して誰に頼まれたかは口にせず逝ってしまった。
これにより混沌としてしまう。
どちらにせよ。いや誰にせよこの命も王位も渡すつもりはない。
それが第一王子の役割だと思っている。
やはりあの手で行くしかなさそうだ。
「準備万端整いました! 」
「ほう…… これは楽しみだ。ふふふ…… ははは! 」
苦しい。馬鹿笑いして苦しいなど情けない限り。
王子ついに旅立つ。
続く




