水晶玉の中のお嬢様
放心状態。信じられないことが起きた。
心変わりして暗殺者の道を断った二人に制裁を加えたのだった。
信じられない。まさかこんなことが……
ううん。予期していた。とんでもないことが起きそうな予感が確かにあった。
結局ビアンカと最初の部屋に戻される。
今のところ見張りや受付の男ぐらい。銃殺された二人組の担当も。
それくらいで男らにしろ集められた他メンバーにしろ話すのはおろか見てもない。
今説明してるこの男だけが頼り。ですが当然余計な情報を与えないようにしてる。
それは即ち私たちをいつでも切れるようにしてるから。
この目つきが悪く冷酷な方が私たちの専属らしい。
多少は我がままを言っていい? そんなはずないか。
晩餐会が華やかにと思われていたのに地下で地獄の乱射ショーを見せられるとは。
これは現実? それともただの悪夢? ああすべて分かっていたこと。
もう逃れられない運命。ああどうしてこうなったのか? 涙さえ出て来ない。
「では説明する」
ただの目つきの悪い人ではなく悪党。しかも王子暗殺を企てる大悪党。
そんな最低な人間。どうしてこんなことを? 私には到底想像の及ばない世界。
ラクエラにはそのような人間たちが集まってくる。
最初からおかしかった。招待状は血塗れだし奪い合った跡も見られた。
やはり近づくべきではなかった。興味を示すべきではなかった。
ストがあれほど口を酸っぱく指摘したのに。
お屋敷を離れてからも止めるチャンスはいくらでもあった。
トレインでも宿でもここでも。招待状を手放せばよかった。
それなのに逃げ回ってここまで来るんだから頭が痛い。
もはや後悔してもしきれない。
とんでもない陰謀に巻き込まれてしまった。
ビアンカを見ても消沈してるのが分かる。頼りになる私専属のメイド。
年上でしょう? お姉様なんでしょう? しっかりしてよ。
だがいくらそう言ったところで改善することはない。
根本的な問題を解決しない限り自由も幸せもない。
分かってるんです。それが分かるから絶望するの。
水晶玉を渡されテークの言葉を残すのみ。
「テークって何? テークの意味は? 」
考えよう考えようと頭を捻るが生憎出て来ない。困ったな……
「ふふふ…… 今は知らなくてもよい。その時が来たら分かるさ」
無責任な男。これではもしもの時の動きが取れない。
まさか私たちはただの駒だと考えてるのでしょうか?
「いい加減にしてよ! だったら参加しないわよ! 」
平然と王子を暗殺する奴らに交渉するのがいかに危険か分かる。
でもいざ本番で実力が発揮できなければ意味がない。
できる限り詳しく知るのが当たり前。それなのにまったく説明もなし。
「難しいことは何もない。それと一つ忠告。知り過ぎると邪魔になるかもしれん。
せっかく暗殺が成功しても始末されたら意味がないだろう? 違うか?
そう言ってニタニタと笑う。どちらでも構わないがと脅す。
「分かりました。細かい指示は当日にでもするんでしょう? 」
「そうだ。余計な詮索も心配も不要。お前らはただ王子暗殺を成功させることだ」
その為の情報が欲しいと言ってるのに頑なだ。やはり相手は相当危険な存在。
もう言われた通りに動くしかない。
「それでこの水晶は? 」
ビアンカも気が気じゃない。説明ぐらいはすべき。
ただのちょっとおかしなタイプの女性を演じさせる気なの?
「これは遠隔型の水晶。その水晶からお前の好きなものを映し出せる優れものだ。
今回は相棒を映し出すことになる」
「はあ何を言ってるの? そんなことできるはずがない」
常識派のビアンカが疑問を口にする。
「ふふふ…… それができるんだな。三千年の歴史の積み重ねだ」
どうも嘘でもないらしい。信じられないが本当だと。
水晶は今輝いてるだけ。私が離れると姿を映すそう。
まったく信じられない。何を考えてるのでしょう?
試しに部屋を出る。すると映ったと大喜びのビアンカ。
私には見えないのでからかってるようにしか思えない。
「本当? かわいらしい妹が映ったの? 」
一応は本名を言わないように関係もお嬢様とメイドだけどまだ続ける。
「ううん。憎たらしいマリオネッタが水晶に」
あくまで姉妹を通そうとするが無理がある。
「ああん? お前たちは姉妹なのか? それとも主従関係にあるのか? 」
はっきりさせるように迫る。
「マリオネッタ…… 」
「大丈夫。心配ないから。私たちはお嬢様とメイド。姉妹ではありません」
これで相手方も迷うことはないでしょう。
「お嬢様…… 」
「いいの。今更隠しても仕方ない」
「まあどうでもいいさ。とにかく裏切るなよ。
どちらかが裏切れば両方とも制裁することになる。
おかしな感情を抱かないことだな。さあ説明に戻る」
こうして水晶をビアンカが私は踊りの練習をさせられる羽目に。
続く




