消えた招待状
ラクエラの午後。
宿からの脱出。
つい急いで転がり降りるように外へ逃れた。
そこに慌てた様子のビアンカが助け起こしてくれた。
「大丈夫ですかお嬢様…… 」
まだ主従関係が抜けないよう。今の私たちは姉妹。彼女は私の姉。
関係を間違えても忘れてもいけない。特に部屋を一歩でも離れたら。
「お姉様怖かった! 」
「ほらマリオネッタ。もう大丈夫だからね」
ビアンカにきつく抱きしめてもらってどうにか落ち着きを取り戻す。
ああビアンカにもっと甘えたい。でも今は強くならないと。
「お姉様! 」
「よしよし」
強くなろうと我慢したのに結局思いっきり慰められる。ああ情けないな。
「ここは危険です。急ぎましょう」
さすがに宿にいては危険。敵に気づかれる前に行方を晦ます。
ビアンカの勧めで廃墟に向かう。
三十分は走ったでしょうか。そこでようやく廃墟に。今日の寝床を確保。
ですが過酷な環境に違いありません。さすがにここはない。
お嬢様には相応しくありませんからね。
それでもビアンカが必死に探してくれた隠れ家。
ここは時間までじっとしてることにしよう。
「本当にここで大丈夫? 何だかしつこいのよあの人たち」
落ち着いたところで不満を漏らす。当然故郷を離れた寂しさも不安もある。
でもそれ以上に彼らの異常性。
襲撃者たちの異常までの執着。どうしてここまでするのか謎。
「ご心配なく。ここは地元の者さえ近づかない廃墟。人の気配はないかと。
恐らくここは鉱山で栄えた町だったのでしょう。まずは情報交換と行きましょう」
ビアンカは冷静だ。私なんかより修羅場を潜り抜けてる。
でもだからって今回もその経験が活きるとは限らない。
まともじゃない。説得が通じるような相手じゃない。
襲撃者はなぜか常に女。別に男でもいいはず。招待状さえ奪えばいいのだから。
招待状を手に入れたところでどうするのか気になるところ。
何だか凄く不自然で気持ちが悪い。嫌な予感しかしない。
それでも王子に会えるならと多少の危険は冒すだけの価値はある。
問題は相手が本気で襲撃した場合だ。
今までの人たちはまだまだ甘い。相手を本気で倒しに行ってない。
そう言う意味ではまだ素人。冷酷な殺し屋のそれではない。
私はお父様やストから嫌と言うほどその手の方たちの習性を叩きこまれた。
もしもの時にどう動くか。お嬢様の性質上この手の者への対処法を教わっている。
これからは恐らく容赦ないはず。命懸けで招待状を奪おうとする。
確かに招待状も晩餐会も王子も魅力的だとは思うけれどそこまでのこと?
トレインでも宿でもなぜか敵は女性。女の敵は女?
やはり違和感がどうしても拭えない。
「実はおかしな噂を聞いたんです。王子を狙う勢力が暗躍しているとか。
どうも王子周辺。もっと言えば兄弟間の争いが激化してるらしいのです」
ビアンカの情報収集力はさすが。そこで得たのが今回のきな臭い話。
まさか王子を排除する動きが活発になっている?
それは即ち王子に危険が迫ってることになる。
「そうだ。あなたが持ってる招待状をもう少し調べてみたら? 」
もしもの為にビアンカに大事な大事な招待状を預けた。
それが功を奏して敵に奪われずに済んだが私に危険が及んだら意味がない。
結局は憑りつかれた者による奪い合い。
このままでは犠牲が出る。無益な争いが続くことになる。
私がラクエラに持ち込んでしまったばかりにいらぬ争いが続いている。
私はどうすればいい? ここに来て不安が一気に増大する。
もうビアンカだけではどうにもならない。急いで応援を呼ぶ……
でもお父様に黙って出てきてしまった。私の行動を把握してるのはビアンカのみ。
どう連絡を取ればいいか…… ダメだ。このままでは追い詰められるだけ。
「ねえビアンカ? 本当にここは安全なの? 」
今日到着したばかりなのはビアンカだってそれは同じ。
でも不安で無理だと分かっていてもつい安心したくて意見を聞いてしまう。
ああもう自分が嫌になる。
「落ち着いて。もちろんここも捜索されるかと。しかしもう間もなく夕暮れ。
日が暮れてから行動開始。招待状は読みにくいが恐らく七時に始まるよう。
だから暗くなってから行動開始すればいいかと」
後一時間もすれば暗くなる。そうなってから動くといいと。
おーい! いた?
男たちが探しているよう。どうやらここまで捜索範囲を広げたらしい。
まずい。動きが取れなくなる前にここも脱出すべきか?
後一時間も待っていられない。そもそも招待時刻に間に合うかも疑問。
ここは安全を取るか時間を取るか?
「どうしようビアンカ? 」
「ご心配なさらずに。もう間もなく日が沈みます。待つのです」
ビアンカは自分が正しいと意見を曲げない。でも捜索範囲が広がればここも危険。
それがいつなのか? 五分後か十分後か一時間後か? まったく分からない状態。
とにかくじっと待つことに。見つかったらひとたまりもない。
もう間もなくなのだから相手もきっと必死に違いない。
続く




