囲まれた
一号車。
随分と生意気で大人びた男の子に出会う。
口は悪く見た目もあれだけど悪い子じゃないと勝手に思っている。
でもビアンカは違うんだろうな。
きっと私のことを世間知らずのお嬢様だと。
事実ですのでそれは仕方ないこと。でももう少し信頼してもいい。
「まさかあの招待状を落としたの? 」
ビアンカの追及が始まる。
「えっと…… ぶつかった時に恐らく…… すぐに返してもらいました」
だから問題ないと言っても疑いの目を向ける。
「それでその子は? 」
「ホウソー地区のブレンドってガキ。問題ないでしょう? 」
「問題大有り! それとガキは口が悪いですよ」
ビアンカは何か知ってる様子。
「はいはいその男の子のどこが問題なの? 」
立っているので紅茶も水も飲めずに喉が渇いて仕方がない。
誰か飲みもの持って来てと言っても相手にしないでしょうね。
当然ビアンカだってもうメイドではないとか言いそう。
試す勇気はない。今のビアンカはいつもよりも真剣でピリピリしている。
どうしたんだろう? 私にまで緊張が伝わって来る。
もっと肩の力を抜いて深呼吸でもすればいいのに。
「ホウソー地区と言えば炭鉱跡地にできた場所でおかしな輩が住み着いてると噂。
たぶんその子はスリだと思うの。もう近づかない方がいいですよマリオネッタ」
ビアンカの情報を信じるなら招待状を落としたのではなくすられた可能性が高い。
しかしそうすると招待状に興味を示さなかったのはなぜ?
子供にはただの紙切れ。しかも血の付いた不吉な紙切れ。触りたくさえないか。
でもそれを仲間に漏らしたら…… 考え過ぎか。ビアンカの心配性が感染した?
こうして特に何事もなく過ぎ去って行く。
動きもなく立ちっぱなしのつまらない時間。もう飽きてしまった。
王子に会う為とは言えこのような大変な思いをすることになるなんて。
三時間近くが経過した頃トレインが突然ストップ。
あともう少しで終点のラクエラだと言うのに運が悪い。
まさか故障? 冗談じゃない。これ以上のトラブルは避けねばなりません。
周りの人たちの話ではよくあることらしい。定刻通り動くことの方が稀。
一時間や二時間ならいい方だと。落石等で塞がれば一日や二日動かないことも。
今のところそのような話は聞こえてこない。
とにかく何であれ早い再開が待たれる。
どうしよう…… これでは日が暮れる。このまま遅れたら晩餐会に間に合わない。
それは困る。それだけは何とかしてもらわないと。
遅刻でもしたら印象が悪くなる。最悪中に入れてもらえないかもしれない。
もうどうして止まるのよ? 早く動きなさいよ!
つい焦りから悪態を吐く。
お嬢様らしからぬ下品な言動。これは改めなければ行けません。
「ちょっといいかい? 」
おばさんが無遠慮に近づいてビアンカに何やら頼み事。もう図々しいったらない。
でも助け合うことはとても素晴らしいことなので見守りましょう。
ビアンカは断り切れずに行ってしまった。
ここで大人しく待ってるようにと。もう自分勝手なんだから。仕方ないか。
「ねえあんた」
目つきの悪い女三人組が近寄ってきた。お嬢様と知っての企み?
あまりにもタイミングが良すぎる。まるで私たち二人を引き離そうとしてるよう。
何でも隣村で畑を耕しているとか。だから何?
「どのようなご用件でしょうか? 」
まずい。私の美しさに嫉妬してるに決まってる。
隠し切れない美貌に嫉妬した女どもに囲まれてしまう。
まさかこれは本気なの?
「悪いこと言わない。隠してにあるもの出しな。痛い目に遭いたくないだろ? 」
おっと…… これはまさしく話に聞く悪人。盗賊や強盗の類でしょうか。
昼間から堂々と衆人環視の中で暴力行為に及ぼうとする分かり易い悪役三人組。
分かってますよ。目的はあの招待状なのでしょう? まさか彼女たちもこれを?
しかしそんな暴力的な女性を王子が果たして気に入るでしょうか?
体の弱い王子には絶対に近づかせたくないタイプ。
「待ってください。あなた方も王子を? 」
「そうだよ! そうに決まってるだろう! ホラ出すもの出しな!
これ以上抵抗するなら刃物が飛んでくるよ。へへへ…… 」
痺れを切らした三人組が脅しを掛ける。絶体絶命のピンチ。
でも大丈夫。ビアンカがいなくても一人で対処できる。
この程度で怖気づいては一生領地からか出れないで怯えて暮らすことになる。
お嬢様だからそれもいいでしょうが私は嫌!
怖い。物騒なことを言って脅す三人組。
周りを見回すがナイトも紳士もどこにも。助けは来そうにない。
こんなピンチの場面に颯爽と現れるのがナイトではないの?
もう私を助ける方も守る方もいらっしゃらない。頼りはビアンカだけ。
その肝心のビアンカが誘い出された。時間を稼げばもしかしたら助けてくれる?
でも相手は複数な上に武器を所持。これではいくらビアンカが有能でも不可能。
ここは大人しくポケットの中身を出すのがいい。強情を張るつもりはない。
ですが彼女たちが果たしてポケットの中身を気に入ってくれるかは未知数。
続く
また明日!




