誘われて
密かな楽しみとなっている早朝の見回り。
急がなければ終わってしまう。
「ではもうお戻りになりましょう。スト様が最近…… 」
噂をすればそのストだ。私の幼い頃からの相談相手でありうるさいお方。
口を酸っぱく時には一時間も叱られることもある。
ビアンカが恐れるのも無理ない。説教が長いしうるさい。
ストとは役職と言うか階級。どのような身分や仕事にもスペシャリストがいる。
その方たちを称える意味で国王様が新たにつけたもの。
私もあと五十年もすればストお嬢様だ。でもその頃にはもう婆でしょうね。
名前の前にストをつけるのが決まり。
彼女はスト・グリーズマン。でもここではストで通っている。
「お嬢様何を? 」
これはまずい。最後まで見回りできなくなってしまう。
気づかれたがビアンカを囮にどうにか切り抜ける。
ビアンカの叫びは聞かなかったことにする。
さあもう少しなんですから私を困らなせないで。
ふふふ…… 今日も楽しそうに騒いで。もうダメ。手を振りたい衝動に駆られる。
でも絶対にダメ。見回りですよ。私なんかがもし邪魔でもしたら……
しかし近づけば近づくほど想いが強くなる。困ったもの。
ストか……
いつも私の邪魔をする困った人。いくらお嬢様だからって自由がないのは違う。
お父様に気に入られてるからと何でも好き勝手に振る舞っていいはずがない。
この村も領地も私が将来受け継ぐもの。後継者の一人として育てられてきた。
お父様の負担を減らそうと努力してますが果たして何に取り組んでいいやら?
そんな私の頑張りを無視して厳しく躾けようだなんて間違ってる。
お嬢様は自由に動き回らないとなりません。多少の緩みがあって然るべき。
その一つが領地内の散歩。
ふう疲れた。さあ最後のお楽しみと行きましょうか。
川で水浴びしてる男の子たちに遭遇。朝早くからご苦労様。
どうやらお嬢様だとまだ気づかれてない。
なるべく気づかれないよう慎重に。彼らにはできるだけ自然に振る舞って欲しい。
私が邪魔をしては本末転倒。
ああ未来の戦士たち。私の為に頑張っていると思いたい。
うん。楽しそうに水浴びをしている。
ここで話しかけても迷惑になるだけ。だから慎重に慎重に。
ああなんてかわいらしい男の子たち。まださほど筋肉もついておらずしなやか。
いいですよ。もっと頑張りましょうね。そうして大きくなるのです。
背も高くなって体も大きくなってそれから……
「ああお姉ちゃ…… 」
小さな子は無邪気でいけない。隠れてもすぐに見つけてしまう。
まだ歯がしっかり生えてなくて聞き取り辛い。
本当に何てかわいらしいの。水浴びに集中するあまり手を振るのを忘れている。
「はい。お嬢様ですよ」
もう充分。そろそろ見学は終えたいのですがそれを許してくれそうにない。
気づかれないように見守るがポリシーだったのにこれでは徒に騒ぎ立ててるだけ。
「お姉ちゃんも一緒にどう? 」
そんな風に誘われたら乗らない訳にはいかない。
無邪気で困ってしまう。そんなことしてる暇ないんだけどな……
「でも…… 服が汚れてしまいます」
言い訳してみるが誘惑があってはどうにもならない。
ああどうすればいいの? 純粋な彼らに応えるべきでかと。
でもどうしたってそうはいかない。何と言ってもお嬢様ですから。
いくら北の外れの田舎領主だとしてもお嬢様はお嬢様。
恥とプライドぐらい持ち合わせてます。それでも……
頭の中は一緒に水遊びする光景が広がっている。もう止められない。
「早くお姉ちゃん。気持ちいいよ」
笑顔だ。これは引き寄せられる。どんどん彼らの元気に引っ張られていく。
ああ耐えられそうにない。もう一声掛けられたら出て行くことになるだろう。
これは予言ではなくただ限界なだけ。
「まだお姉ちゃん? へへへ…… とっても気持ちいいんだから」
何気ない声に抑え込まれそうになる。
「お姉ちゃん早く来てよ! 」
もう無理。ここで行かなければ見回りの意味がない。
しかし服を脱ぐのはさすがに抵抗がある。
でもここは思い切るべきでしょうね。
さあもうドレスを脱いでしましょう。
それが私と言う存在。後先は考えない刹那的な生き方。
がさつともふしだらとも言えなくないが私には関係ない。
葛藤している時間がもったいない。
ドレスに手をかけもう半分脱ぎかけたところでメイドのビアンカが登場。
私がおかしくなったと喚く。どこが? 自然なことじゃない。
イチイチ騒ぎ立てることでもないでしょう。
後できちんと説明するから今は彼らと楽しく水遊びさせて。
小さい頃からの憧れ。ただ女と言うだけで水浴びさえさせてくれなかった。
お嬢様の自覚を持ちなさいとその頃からストの厳しい教え。
それを一応は聞いているのだけど聞き流してしまう。
悪い癖だなとは思いますが嫌なものは嫌。
続く




