変化する二人の関係
けたたましい音と共にゆっくりゆっくりトレインが進み始めた。
トレインはついにハピエンを発つ。
これから三時間の旅を終えるとラクエラだ。
その間何もなければいいのですがたぶんそれは難しいでしょうね。
手を振り続ける。最後になることも考えて一生懸命に手を振り続ける。
故郷がどんどん遠ざかって行く。今別れの時。さらばまた会う日まで。
いけないいけない。感傷的になってどうするの? もっと楽しく笑ってなければ。
私がこれではビアンカも沈んでしまう。それは私たちを不幸にするに違いない。
今は希望を夢に奮い立たせるところ。もう怖くないし寂しくだってない。
私たちは新たな世界に足を踏み入れるの。
「ほらお嬢様。席へ。目立つ動きはお控えください。特にここからは本気で」
ビアンカの助言は的を得ている。さあ急いで席を探そう。
あら…… 人がいっぱい。どうしましょう?
つい立ち止まって見てしまう。珍しいことですからね。
私の小さな世界は屋敷がほとんど。人がこれほど大勢いることに驚いている。
座席数に対して人の数が明らかに多い。これはどう言うこと?
まったく理解できない。もう座れないじゃない!
「うわ…… やっぱり」
ビアンカは天を仰ぐ。
まさかの非常事態発生か? あまりにも早過ぎませんか?
いくら旅にハプニングは付きものだと言ってもできるならそんな経験したくない。
でもビアンカに任せれば心配ない? メイドとして最大限努力してくれるはず。
間違いない。彼女に任せれば安心。ですが……
「ビアンカどうしました? 」
「それがもう座席がありません。予想していたのですがまさかこれほどまでとは」
ビアンカは想定外だと言うが私にはそうは思わない。
これだけの人がいれば座れる席も限られるのは当たり前。
ハピエン駅発だから急げば座席は確保できたに違いない。
それをノロノロしていたからこうなった。
それで私たちはどうすればいい? まさか座れないと言うことはありませんよね?
冗談ではない。どうしてこんな試練を強いられないとならないの?
ああお父様どうぞお助け下さい!
つい弱音を吐いてしまう。しかし現実に座れない。しかも三時間ずっとだ。
もう嫌になってしまう。しかしここで駄々をこねたところで無意味。
それが分かるぐらいには成長している。お嬢様でも上には何人もいる。
このような扱いには他のお嬢様よりは慣れている。
「ビアンカ…… 」
「申し訳ありません。私ではどうにもなりません」
諦めモードのビアンカ。彼女もぐっと疲れた様子。
まさかこんな早くに試練が待っているとは思いませんでした。
この現実を受け入れることはできても体が疲れていてどうにもならない。
ああもう嫌! 人が多すぎる!
しかしここで諦めてなるものですか。王子の為に頑張る。
ついに旅立った。目標は噂の王子に気に入られること。
そうすれば念願の王子の柔らかな肌に刻まれた傷を触って抉って舐め回す。
そんなちょっと変わった願望を叶えられる。
しかしそれにはまずはラクエラにたどり着かなくては。
三時間も苦しくてきつい態勢で立っていないといけない。
トレインは私だけの為に動いてるのではない。
自分勝手と充分承知の上で占領されてる皆様には速やかに明け渡して頂けたらな。
「もう! どうしてこうなるの? 」
ビアンカに当たる。しかしビアンカも屋敷を出れば対等だと。
もうお嬢様でもなければメイドでもない。二人は主従関係にないと。
それは冗談じゃ。ただの悪ふざけだとばかり思っていたが違うみたい。
どうやら日頃の鬱憤が溜まっているに違いない。
年齢はビアンカの方が上だと。今こうして丁寧なのはただの優しさから。
勘違いするなと。いつでも切り捨てることができると本気らしい。
まったくどれだけ生意気なの? エラになって急に態度がでかくなった気がする。
「分かりましたねマリオネッタ? 」
「はいはいビアンカ。よろしく」
適当に返事する。これがせめてもの抵抗。私の方が絶対に偉いんだから。
あなたが出世したのだって私が目に掛けたからじゃない。
最近ドンドン生意気になって行くのよね。もう信じられない。メイドの分際で。
このマリオネッタお嬢様に楯突こうだなんて…… まあいいか。
「何か言いましたマリオネッタ? 」
「いえ…… 続けて」
「あなたには故郷を離れて見知らぬ土地に来た自覚が足りないんです」
説教をする気? まったくどれだけ生意気なのよ? 仕方なく頷く。
「はい分ればいいんですよ。それとこれからはマリオネッタと呼びます。
あなたはビアンカお姉様と呼ぶの。よろしいですか? 」
「はいはい。ビアンカお姉様」
屈辱の展開に我慢の限界も近い。
「これがお嬢様を守る為の唯一の方法。私が心を鬼にしないとあなたを守れない。
生半可な気持ちではこれからはやって行けません」
感情を殺してただ頷く。
反論する気にもなれない。もうストよりもしつこいぐらい。
続く




