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一号車

ハピエン駅。

「お嬢様どうされました? 物思いに耽てまた裸でも想像されてたのですか? 」

ビアンカはいつも私がおかしな妄想してると思ってるらしい。

冗談じゃない。私はもう立派なお嬢様よ。

毎日のように見回りに付き合わせたから単純思考に陥ってるのでしょう。

ああ嘆かわしい。ビアンカの方がよっぽど嫌らしいじゃない。

「してません! ただ昔のことを思い出していたのです」

「はいはい。そう言うことにしておきますか」

生意気なビアンカ。もうピンチになっても助けてあげない。


「ほら行くよ! 着いてきなさい! 」

「どちらへ? 我々の席は一号車ですが…… 」

間違えて反対に進んでしまう。恥ずかしい。

「ですが特別席は五号車ではありませんか? 」

乗る前からトラブル。せめて出発してからにしてよね。

それはそれで困りますが。


お父様に同行した時は五号車だった。

小さかったから走り回りたくて隣の車両に。

しかしそこは貧しき者たちの巣窟。近づいてはダメだと叱られたもの。

それでも振り切って行こうとしたところにストに取っ捕まる。

泣いても怒ってもそれ以上は進ませてくれなかった。

そんな幼い頃の思い出がある。ストの顔ったらまるで鬼のよう。

今もそれは健在だから困ってしまう。


「五号車ではないのですか? 」

思い出を頼りに逆に進む。まるで私が方向音痴のよう。

または何も考えずに思いつきで行動してるとでも思われた?

しかしこれでも少しは考えてるんですよ。

大体方向音痴ですぐ迷うのはビアンカの方じゃない。しっかりして欲しいもの。

「ですからそれはお嬢様ですよね? 今のあなたは? 」

訳の分からないことを言う。今だってお嬢様に決まってます。違うと言うの?

名家のお嬢様としての多少のプライドがある。これだけは失ってはいけない。


「ビアンカ? 何を言ってるの? 私は私でしょう? 」

「もう! 今度のことは旦那様にも内緒にすると言ったではありませんか」

ビアンカはそれを守った。当然私も隠し通した。

あんな楽しそうなところに行かないでどうするの?

好奇心旺盛なお嬢様なのですよ? うまく行けば王子を射止められる。

無理だったとしてもいい思い出作りになる。参加しない手はない。


「まあ安全の為に…… 」

「だとすれば二人分のチケットはどこにも請求できない。だから一号車なんです」

ビアンカによって現実を知ることに。何不自由なく旅を楽しめると思ったのに。

今の私は名家のお嬢様などではなく単なる村娘。それこそ貧乏人だ。


「どうやってチケットを? 」

招待状に入っていた? そんなはずないか。

「万が一のことがあってもいいようにと多少のお金を頂いております」

「そう…… ビアンカありがとう」

どうもビアンカの言葉に棘があるような気がする。


「ビアンカですか? 」

ついに本性を現したか? 一体何が不満だと言うの?

「ビアンカさん…… 」

「もういきなりさん付けですか? 」

ビアンカは対等を要求してきている様子。

もう今はお嬢様とメイドではないのだ。そう聞こえる。

ああやはりビアンカも昇進して生意気に。でもこの状況ではどうにもならない。

もはや要求に従うしかなさそう。プライドを捨て生きる。生きて行くしかない。


「ふふふ…… 冗談に決まってますお嬢様。さあ参りましょう」

どうやらビアンカはからかっていただけらしい。もう人が悪い。

ただそれはビアンカの気分次第。もう怒りに任せてこき使えない。困ったな。

「ビアンカ酷いじゃない! 本気にしたでしょう? 」

「いえ…… お嬢様には現実を知ってもらおうと。ここはもう領地ではない。

旦那様の庇護も当然ない。人間もあなたの知る真っすぐな者ばかりとは限らない。

充分にお気を付けください。何だか凄く嫌な予感がする」


ビアンカは恐怖を感じてたらしい。一人で守り切る自信はないと正直に告白する。

ここを離れれば完全な異国だそう。踏みとどまるなら今しかないと。

しかしそんなこと言われても私はどうしたらいいかまったく……

ああもう頼れるのはビアンカだけ。依存度が増している気が。どうすればいい?

不安で堪らない。もう戻る…… でも今出発しないと間に合わない。

次のトレインでは絶対に無理。それが分かってるので引き返せない。


「どうしますお嬢様? 」

真剣な表情の彼女は決断を迫る。でもどうしても自分では無理。

「怖いですか? 」

「ううん…… 」

「引き返すなら今ですよ。さあさあ! 」


その時だった。出発のベルがけたたましく鳴る。

どうやら猶予はないらしい。行きましょう王子の元へ。

ノロノロとしていると時間に。もうギリギリが好きな困ったビアンカ。

この先が本当に思いやられる。どうなるかまったく予想がつかない展開。


戦いの果てに最後には王子様の腕の中で抱かれていたい。

そして体の傷を舐めるの。


                   続く

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