エピローグ2 可憐な共犯者の微笑(妹視点)
妹視点の後日談です。
**エピローグ2 可憐な共犯者の微笑**
夜会の喧騒が遠ざかり、バルコニーには静かな夜風だけが残っていた。
私は柱の陰から、姉の背中を眺めている。
深紅のドレス。
誇り高く、誰よりも優雅で、誰よりも強い背中。
――ああ、本当に。
お姉様は美しい。
◇
「クリスティーヌ様」
青年が声をかける。
真っ直ぐな瞳。緊張で強ばった指先。
「求婚をお許しいただけますか」
甘い響き。
よくある光景。
けれど。
私は無意識に扇を強く握っていた。
◇
お姉様は一瞬だけ目を細め、
そして、微笑む。
「――選ぶのは、私ですわ」
完璧な返答。
場を支配する声。
誰も逆らえない気品。
◇
青年は頬を染め、深く頭を下げた。
周囲の令嬢たちがざわめく。
「さすがヴァレンシュタイン伯爵令嬢」
「格が違うわ……」
ええ、そうでしょうとも。
お姉様は特別なのだから。
◇
けれど私は知っている。
あの優雅な笑みの裏側を。
あの静かな瞳の奥にある冷徹さを。
そして。
あの復讐劇を、共に完成させたのが――誰だったのかを。
◇
「……お姉様」
小さく呟く。
届かない距離。
でも、心は絡みついている。
あの夜からずっと。
◇
アルフォンス。
愚かで、浅はかで、救いようのない男。
……本当に、それだけだったのかしら。
◇
ふと、胸の奥に引っかかる。
あの書簡。
あまりにも都合の良い内容。
あまりにも稚拙で、あまりにも露骨。
◇
あの男が、あそこまで計算できた?
違和感。
小さな、しかし消えない棘。
◇
思い出す。
事故前。
彼の不自然な焦り。
時折見せた、理解の追いつかない自信。
まるで――
誰かに「大丈夫だ」と囁かれているかのような。
◇
「……考えすぎ、よね」
小さく笑う。
だってアルフォンスは、
自分の欲望すら制御できない男だったのだから。
◇
けれど。
もし。
◇
もしもあの計画が、
あの愚かな男自身のものではなかったとしたら?
◇
背筋を夜風が撫でる。
少しだけ、冷たい。
◇
「……まあ、いいわ」
私はそっと視線を上げる。
光の中のお姉様。
完璧な勝利者。
◇
仮に誰かが裏にいたとしても。
お姉様は負けない。
私がいる限り。
◇
「……ねえ、お姉様」
私は微笑む。
誰にも見えない位置で。
静かに。
甘く。
◇
「次は、誰を壊しましょうか?」
◇
夜風が吹き抜ける。
音楽が再び高まる。
お姉様は振り返らない。
まだ。
気づかなくていい。
◇
だって私は――
可憐で、無邪気で、愛らしい妹なのだから。
誰よりもお姉様を愛している、
完璧な味方。
◇
……今は、ね。
**――終**




