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婚約者に事故死させられるはずだった伯爵令嬢、死を偽装して公開断罪いたします[全5話]  作者: 白昼夢


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エピローグ1 落日

元婚約者視点の後日談のして

堕ちた男の静かな終幕として描いています。


エピローグ1 落日



 王都から遠く離れた監視領。


 荒野と冷たい風だけが支配する、名ばかりの領地。


 そこに――

 アルフォンス・レイモンドはいた。


 かつて侯爵家の嫡男と呼ばれた男は、

 今や粗末な机と簡素な寝台だけの部屋で目を覚ます。


 夜明け前。


 夢を見た。


 深紅のドレス。


 月光。


 そして。


 「怖いですわね、事故って」


 跳ね起きる。


 額には冷や汗。


 指先は震えている。


 ◇


 彼はまだ理解していなかった。


 なぜ失敗したのかを。


 計画は綿密だった。


 事故に見せかける完璧な筋書き。


 医師の診断。


 葬儀。


 涙。


 世論。


 すべてが自分の味方になるはずだった。


 ――なのに。


 なぜ彼女は生きていた?


 ◇


 最初は怒りだった。


 罠だ。


 策略だ。


 嵌められたのだ。


 だが時間が経つにつれ、

 じわじわと別の感情が滲み出す。


 理解。


 いや――認識。


 自分は、彼女を甘く見ていた。


 ◇


 「少し脅せば従う」


 「家のためだと言えば納得する」


 「愛を囁けば信じる」


 そう思っていた。


 事実、彼女は信じていた。


 だからこそ。


 彼女は最後まで怒鳴らなかった。


 泣き喚かなかった。


 ただ、微笑んでいた。


 ◇


 その微笑みの意味を、

 彼は理解していなかった。


 ◇


 監視領での生活は単調だった。


 贅沢はない。


 社交もない。


 称号も、拍手もない。


 ただ、名前だけが残る。


 ――汚れた名が。


 ◇


 月に一度届く家からの手紙は、事務的なものだけ。


 「健康に留意せよ」


 「余計な問題を起こすな」


 そこに情はない。


 彼は切り捨てられたのだ。


 家にも、社交界にも。


 ◇


 ある日。


 王都からの噂が風に乗って届いた。


 「ヴァレンシュタイン伯爵令嬢、正式に後継として立つ」


 「聡明で冷静、次期当主として申し分なし」


 「求婚者が列をなしているらしい」


 胸の奥がざらりと軋む。


 ◇


 あれは自分の未来だったはずだ。


 隣に立つのは、自分だったはずだ。


 財産も、権威も、地位も。


 すべて手に入るはずだった。


 ――彼女を殺して。


 ◇


 その瞬間。


 ようやく理解する。


 失ったのは金ではない。


 地位でもない。


 彼女そのものだ。


 ◇


 彼は椅子に崩れ落ちた。


 笑いが漏れる。


 乾いた、空虚な笑い。


 「……馬鹿だ」


 殺す必要などなかった。


 急ぐ必要もなかった。


 隣に立っていればよかった。


 ただ、それだけで。


 ◇


 だが彼は選んだ。


 近道を。


 裏切りを。


 そして。


 奈落を。


 ◇


 夜。


 冷たい風が窓を鳴らす。


 彼は一人、呟いた。


 「怖い……な」


 事故ではない。


 破滅でもない。


 何もかもを失った静寂が。


 ◇


 王都。


 夜会の灯りが煌めく。


 バルコニーに立つクリスティーヌは、

 遠くの星を見上げていた。


 もう振り返らない。


 もう思い出さない。


 彼女にとって彼は――


 過去。


 ただそれだけ。


 ◇


 監視領。


 月明かりの下。


 アルフォンス・レイモンドは、

 自分の選択の重みだけを抱えて生き続ける。


 誰にも知られず。


 誰にも惜しまれず。


 静かに。


 ◇


 それが、彼に与えられた罰。


 死よりも長い、敗北。


 ――終。


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