第五話 断罪、そして完全勝利
アルフォンス・レイモンドは拘束された。
罪状。
・殺害計画未遂
・詐欺的相続干渉
・虚偽申告
だが。
彼の未来を完全に断ち切ったのは――
**世論**だった。
◇
「財産目当てで婚約者を殺そうとした男」
その噂は、炎のように王都を駆け巡った。
貴族社会において信用は命より重い。
一度失えば、二度と戻らない。
◇
侯爵家の声明は迅速だった。
「当家とは無関係の独断」
切り捨て。
あまりにも早く。
あまりにも冷酷に。
◇
「家族にも見放されたのね」
エミリアが淡々と言う。
「当然よ。これ以上評判を落とせないもの」
アルフォンスは守るものを持たなかった。
だから――負けた。
◇
数日後。
私は面会室を訪れた。
鉄格子の向こう。
かつての婚約者。
やつれた顔。
虚ろな瞳。
◇
「……なぜだ……」
掠れた声。
「なぜ……ここまで……」
私は静かに答える。
「あなたが始めたからです」
◇
「私は……ただ家を立て直したかった……」
「ご自分の家を、でしょう?」
沈黙。
◇
「私を愛しているふりをしながら」
「殺す計画を立てた」
「違う……!」
空虚な否定。
◇
「少し脅せば従うと思った」
「事故は、その延長――」
彼の言葉が止まる。
自ら認めたも同然だった。
◇
「私はあなたを信じていました」
その言葉に、彼の肩が震える。
◇
「でもあなたは」
「私を“手段”にした」
◇
私は一歩下がる。
それ以上、責めない。
怒鳴らない。
罵倒しない。
◇
それが最も残酷だから。
◇
「助けてくれ……」
縋る声。
かつて私を奈落へ突き落とそうとした男の声。
◇
私は微笑んだ。
「怖いですわね」
静かに。
優雅に。
「事故って」
◇
アルフォンスの顔が歪む。
記憶が蘇る。
あの夜。
石段。
転落。
血。
◇
「さようなら、アルフォンス様」
振り返らない。
背後で崩れ落ちる音が響いた。
◇
侯爵家は没落した。
当主は隠居。
家名は辛うじて残ったものの、
社交界での影響力は完全に失われた。
◇
アルフォンスは遠方の監視領へ送致。
二度と王都へ戻れない。
完全な終わり。
◇
東の庭園。
あの石段。
今は修繕され、花が植えられている。
◇
「終わったわね」
エミリアが呟く。
「ええ」
私は静かに答えた。
「でも私は、生きている」
◇
父が歩み寄る。
「よくやったな、クリス」
母が涙ぐみながら抱きしめる。
「あなたを失わずに済んで……本当によかった」
◇
温もり。
それが、私の真の勝利だった。
◇
数か月後。
私は正式に伯爵家後継として公に立つ。
堂々と。
優雅に。
誰ももう、私を軽んじない。
◇
夜会のバルコニー。
夜風が髪を揺らす。
◇
「クリスティーヌ様」
背後から声。
振り向く。
見知らぬ青年。
真っ直ぐな瞳。
◇
「求婚をお許しいただけますか」
◇
私は一瞬だけ目を細め、
そしてグラスを傾けた。
◇
「――選ぶのは、私ですわ」
◇
もう私は、奪われる令嬢ではない。
運命に殺される女でもない。
◇
舞台の中心に立ち、
すべてを掌握する者。
◇
**断罪、そして完全勝利。**
――終。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
もしよろしければ、ご感想や評価をいただけますと今後の励みになります。




