第四話 死者、帰還
貴族会議。
王都大広間。
本来ならば、喪に服す伯爵家が出席する場ではない。
だが――
「今こそ、家を支えるべき時です」
そう主張したのはアルフォンス・レイモンドだった。
「伯爵は深い悲嘆の中にある」
「ならば私が補佐いたします」
あまりにも“出来すぎた献身”。
その必死さが、すでに違和感を生んでいた。
◇
会議当日。
重苦しい空気が大広間を満たしていた。
黒衣の貴族たち。
低く交わされる囁き。
「……早すぎないか?」
「まだ葬儀から間もない」
「それなのに財産管理権の協議とは……」
疑念は、静かに広がっている。
◇
「私は――」
壇上。
アルフォンスが沈痛な面持ちで語り始めた。
「亡きクリスティーヌの婚約者として」
計算された沈黙。
伏せられた視線。
「彼女の遺志を継ぎ、伯爵家を守りたい」
美しい演説。
非の打ちどころのない悲劇の婚約者。
……のはずだった。
◇
――そのとき。
大扉が、ゆっくりと開いた。
軋む音。
一斉に向けられる視線。
ざわめき。
◇
黒でも白でもない。
深紅のドレス。
光を受けて揺れる金の髪。
私は静かに歩み出た。
◇
「その遺志――」
壇上を見上げ、微笑む。
**「本人に確認なさいます?」**
◇
空気が凍りついた。
誰かが息を呑む。
グラスが落ちる音。
◇
「……な……」
アルフォンスの顔から血の気が引いた。
「……ば……馬鹿な……」
「お久しぶりですわ、アルフォンス様」
私は優雅に一礼する。
「クリス……ティーヌ……?」
「ええ」
微笑みは崩さない。
「生きております」
◇
「そんな……死んだはずだ……!」
その一言。
会場がざわつく。
“死んだはず”。
まるで。
死を確信していたかのような響き。
◇
「確かに事故には遭いましたわ」
私はゆっくりと壇上へ進む。
「東の庭園で」
「足場の悪い石段で」
貴族たちの視線が彼へ集まる。
◇
「ですが――」
医師が前へ出た。
「令嬢は奇跡的に助かりました」
「重傷ではありましたが、命は取り留めました」
◇
「嘘だ!!」
アルフォンスが叫ぶ。
「私はこの目で……!」
そこで言葉が止まる。
――何を見たのか?
なぜそこまで言い切れるのか?
自ら墓穴を掘る。
◇
「事故の直前」
私は静かに告げた。
「私は婚約者様にこう申し上げました」
静寂。
「“怖いですわ、事故って”と」
◇
使用人が進み出る。
「そのお言葉、確かに聞いております」
「お二人きりではありませんでした」
◇
さらに。
私は一通の書簡を取り出した。
封蝋付き。
見覚えのある印。
◇
「……なぜ……それを……」
アルフォンスの声が震える。
「図書室に落ちておりましたの」
私は首を傾げる。
「事故前日に」
◇
会議長が厳しい声を発した。
「アルフォンス・レイモンド」
「説明を」
◇
「罠だ!!」
彼は叫んだ。
「これは罠だ!」
「ええ」
私は微笑んだ。
「罠ですわ」
一瞬。
希望の色が浮かぶ。
◇
「あなたが私に仕掛けた罠を」
一歩、近づく。
「少しだけ作り替えただけ」
◇
沈黙。
絶望が彼の顔を覆う。
◇
「事故を装い、私を排除し」
「悲劇の婚約者として財産へ近づく」
「……浅はかですわ」
◇
会場の空気が変わった。
同情は消え。
軽蔑が満ちる。
◇
「違う……私は……」
崩れる声。
「私はただ……!」
言えない。
“金が欲しかった”など。
言えば終わる。
◇
私は静かに告げた。
「私は生きています」
「伯爵家の長女として」
優雅に一礼する。
◇
**「そして――裏切りは許しません」**
◇
衛兵が動いた。
アルフォンスは抵抗すらできず拘束される。
◇
彼の破滅は、
王都すべての視線の中で確定した。
◇
だが。
これは終わりではない。
◇
**――まだ、最後の仕上げが残っている。**




