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婚約者に事故死させられるはずだった伯爵令嬢、死を偽装して公開断罪いたします[全5話]  作者: 白昼夢


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3/7

第三話 伯爵令嬢、死亡(表向き)



悲鳴。


視界が反転する。


夜空。


石段。


衝撃。


――赤。



「クリス!?」


アルフォンスの叫び声。


ひどく焦った声色。


だが私は見逃さなかった。


その瞳の奥に浮かんだ感情を。


**恐怖ではなく、安堵。**


(ええ……その顔ですわ)


私は薄れゆく意識を装い、かすかに彼を見上げた。


「しっかりしてくれ!」


震える手。


必死な演技。


けれど、その指先は冷たく乾いている。


本当に絶望している人間の手ではない。



足音が駆け寄る。


「お嬢様!」


使用人の叫び。


「医師を! 早く医師を!」


計画通り。


すべては段取り通り――のはずだった。



「……呼吸が浅い」


医師の低い声。


「薬が……効きすぎている……」


(……え?)


一瞬だけ、心臓が跳ねた。


「まずいな……想定より深い仮死状態だ」


声が遠のく。


身体が重い。


意識が、沈む。



(待って……これは……)


計算外。


仮死薬が強すぎる。


「脈が……ほとんど……」


「医師!?」


「静かに。まだ――」


音が途切れる。


闇が迫る。



「お姉様!? ねえ、起きて!!」


エミリアの声。


必死の叫び。


それすら遠ざかっていく。


(……まずい……)


計画は完璧だった。


だが完璧な計画ほど、ほんの僅かな誤差で崩れる。



完全な暗転。


――静寂。



……どれほど時間が経ったのか。


微かな光。


遠くで誰かの声。


「……まだ、生きております」


医師だった。


「危険な状態でしたが……どうにか」


「……本当に?」


エミリアの震える声。


「ええ。仮死が深すぎただけです」


「……っ……!」


押し殺した嗚咽。



私はゆっくりと目を開いた。


天井。


見慣れた地下室。


「……成功、ですの?」


「ええ、お嬢様」


医師が安堵の息を吐く。


「心臓が止まりかけましたが」


「……さらりと恐ろしいことを」


「笑えません」


エミリアが涙目で睨む。


「本当に死ぬところだったのよ?」


「ごめんなさい、エミリア」


「……馬鹿お姉様」


そう言いながら、強く抱きついてくる。



「表向きは?」


「完璧です」


医師が頷く。


「診断書は“即死”」


「棺の準備も済んでるわ」


エミリアが言う。


「中身は?」


「精巧な人形です」


「遺体確認は?」


「回避済みでございます」



私はゆっくりと息を吐いた。


「……綱渡りでしたわね」


「ええ」


「でも」


私は微笑む。


「これで私は“死んだ”」



翌日。


王都に衝撃が走る。


**伯爵令嬢クリスティーヌ・ヴァレンシュタイン、事故死。**


社交界は悲しみに包まれた。


伯爵家は喪に沈む。


そして。


「……彼女を守れなかった」


アルフォンス・レイモンドは、


深い悲しみに沈む婚約者を演じた。



だが私は知っている。


その仮面の下で、


彼がどれほど安堵しているかを。



地下室。


隠し通路の先。


私は静かに微笑んだ。


「順調ですわ」


「ええ」


エミリアが頷く。


「ここからが本番よ」



私は“死者”。


彼は“悲劇の婚約者”。


舞台は整った。


役者も揃った。



**――そして、疑念という名の毒が撒かれ始める。**



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